熊本市にある慈恵病院が匿名で赤ちゃんを預けられる「こうのとりのゆりかご」を設けたのは2010年。当時、育児に困難さを抱えた親が乳児をあやめる痛ましい事件が相次いでいた
▼蓮田太二理事長が掲げたのは「最後の問題解決として赤ちゃんを預ける所があれば、母子共に救われる」という理念だ。12年間で144人を受け入れ、児童相談所を介して特別養子縁組、里親、施設養育へ委ねている
▼子どもの父親である男性から縁を絶たれ、独りで出産する人もいる。病院の蓮田真琴相談室長は「親に怒られるからと、知られたくない人も多い。困窮など複数の問題を抱えている」と母親たちの苦しみを語る
▼「ゆりかご」に対しては「安易な育児放棄を助長する」といった批判があった。これに対して病院は「代替システムはあるのか」と問い掛ける。社会の厳しい目線が母親たちを追い詰めるのではないか
▼子どもが親から虐待を受けて命を奪われる事件が後を絶たない。札幌市では母親と交際相手が2歳の女児にけがを負わせたとして傷害の疑いで逮捕された。女児は搬送先の病院で亡くなった。衰弱死だった
▼児童虐待は許されないが、支援の手が届いていればと悔やまれる。慈恵病院では母親が「ゆりかご」の前で迷い、隣にある相談室を訪ねる事例がある。子育てのセーフティーネットはあればあるほどいい。