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【社説】

タンカー攻撃 中東の火種をあおらず

 イラン沖ホルムズ海峡近くで日本などのタンカーが攻撃された。安倍晋三首相がイランを訪問していたさなかだ。対立の火種をあおりたい勢力がいる。平和と安定のため国際社会の協力が必要だ。

 攻撃を受けたのは二隻で、日本人乗船者はおらず、フィリピン人乗船者らは避難した。

 米国は、イランの精鋭軍事組織、革命防衛隊のボートがタンカーに接近し不発機雷を除去している場面を録画したとして、イランの関与を主張する。イランは否定した。国連安全保障理事会は攻撃を批判したものの、声明や決議はまとまっていない。

 イランは二〇一五年、米英仏独中ロ六カ国と核開発制限で合意したが、トランプ米政権は合意からの一方的な離脱と経済制裁再発動を表明し、アラビア海に空母を派遣、緊張が高まっている。日本は核合意を支持する立場で、安倍首相は緊張緩和のため訪問し、最高指導者ハメネイ師から「核兵器を製造も、保有も、使用もしない」との言質を、あらためて引き出していた。

 ホルムズ海峡は中東からの原油が通過する要衝で、日本のエネルギー供給の生命線だ。一九八〇年代のイラン・イラク戦争では両国がタンカーを攻撃し合い、九一年の湾岸戦争では、イラクが機雷をまいて海峡を封鎖した。

 トランプ政権が親イスラエル・反イランの姿勢を強めて以来、中東の火種は膨れ上がっている。イランは対岸のサウジアラビアとの対立を深め、レバノンやイエメンの武装組織を支援する。今月も、イランから軍事支援を受けているとされるイエメンの武装組織により、サウジの空港が攻撃された。

 小競り合いや偶発的な衝突が戦争に拡大する恐れもある。米国による締め付け強化は、イラン国内の強硬派を勢いづける。

 イランのロウハニ大統領は安倍首相との会談で、核合意を順守し戦争は望んでいないと表明した。自制を続けるべきだ。

 一方で、原油禁輸などの経済制裁停止を求めるイランの言い分をトランプ大統領に伝え、国際的な約束を守らせるべきだ。

 トランプ氏に翻意を促すのは難しいかもしれない。安倍首相に先立ち、ドイツのマース外相もイランを訪れている。今月末には二十カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)が開かれる。中ロも参加している核合意の枠組みも活用しながら、国際社会の監視と働き掛けを強めたい。

 

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