バハルス帝国 帝都アーウィンタールの皇城、その一室で皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスが部下達からの報告を聞いていた。秘密裏に送り込んだワーカー達の帰還、謎の墳墓内で起きた事等。ジルクニフは疑問に思った、なぜそのような無意味な事を、なぜワーカー達を、しかも財を与えて返したのか… まだ最初は解る、自身の城とも言うべき場所なのだからその入り込んだ理由を聞くのもそして返答次第では殺してしまう事も、しかし後の事が分からない。
「しかし、あの墳墓の主人がアインズ・ウール・ゴウンなるマジックキャスターだと思っていたのだが… 違ったのか」
そして部下達と今後の事を話しているその時大きな音と共に皇城が揺れた。
「一体何事だ!」
「陛下! ドラゴンです! ドラゴンが中庭に降り立っています!」
状況を確かめるために皇帝達は直ぐに飛び出した、そこには立派なドラゴンとそれに乗るダークエルフの子供二人。二人はドラゴンから降りると大きな声で話し始めた。
「皆さん! 聞こえますか!? 私はアインズ・ウール・ゴウンと至高の御方々に仕えるアウラ・ベラ・フィオーラです! この国の皇帝がアインズ様並びに至高の御方々のお住まいにあるナザリック地下大墳墓に失礼な奴を送ってきました、アインズ様は不機嫌です! ですので謝罪に来ないのであればこの国を滅ぼします!」
その言葉を聞いてジルクニフは険しい顔になる。
「手始めにここに居る人間は皆殺しにします! マーレ!」
「えぇい!」
皆殺しにする、その言葉を体現したのだった。隣に居る少女らしきダークエルフが杖を地面に叩きつけるとドラゴンの周りが裂け取り囲んでいた兵士達を飲み込んだ。ジルクニフ一同驚愕した、兵士達を飲み込んだ裂け目は周囲に誰も居なくなると元通りに戻ったのである。
「はーい! 皆殺しにしましたー! 次はこの城に居る人間を皆殺しー… えっと誰が皇帝か解らないのでそれはやめておきます! でも皇帝がアインズ様に謝罪しなければこの国を破壊します! 皇帝! 早く出てきてください!」
ここでジルクニフは考える、アインズなる者は一体何者であるか。しかし今はそんな事を考えている場合ではない、名乗り出なければこの国が滅んでしまうかもしれないからだ。
「皇帝! ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスである! 話がしたい!」
「やっと出てきた…」
「爺、私は相手を侮っていた。 私自身がナザリック地下大墳墓に出向き釈明する必要があるようだ」
そこからダークエルフとの話し合いで赴く日付や日時を決め今回の騒動は一旦終わったのであった。
「本当にこれでいいんですね? いいんですね!?」
アインズは自室で兄弟に確認を取る、兄弟はニヤニヤと笑いながら答える。
「いいんですよモモンガさん、子供達が望んでる事ですし」
「そうそう、けどそのまんま望みを叶えると面倒事が増えるだろぉ? だからこれでいいんですって」
アインズは兄弟の言葉を聞いてもまだ不安な様子だ。
「はぁ、不安だなぁ~。 しかし言いたい事も分かりますし今回はその案で行きましょうか」
「さっすが我らがリーダー!」
「いよっ! 日本一!」
兄弟は何時もの調子である、それがアインズにとっての一番の不安材料なのだが兄弟は気づかないふりをする。
「モモンガ様ぁ! ついでにルーク様とヤン様、バハルス帝国皇帝がナザリック地下大墳墓に到着いたしました」
玉座の間、アルベドが三人に報告する、ついで呼ばわりされた兄弟は何処か楽し気にアインズを見ている。何故かと言うとアインズはアルベドとシャルティアに抱き着かれているからである。
「アルベド、シャルティア、そろそろ離れてくれないか? 皇帝が来るんだからな」
二人は離れない、この場に居る他の階層守護者達も兄弟も暖かい目で見守るだけだ。
「じゃあアルベド… は駄目だな、デミウルゴス。 皇帝を呼んできてくれ」
「畏まりましたルーク様、メイドに連絡して連れてまいります」
そして十数分後ジルクニフ達が玉座の間に現れた、ジルクニフはこの墳墓のメイドや装飾、部下で在ろう化け物達を見て思う。金銭、地位、権力、軍事力に魔法技術そして美女、自分が持っているものでどうこうできる相手ではないだろうと。そして初めて見るスケルトンに似たアインズ・ウール・ゴウンと名乗る化け物、彼からは途方もない力を感じる、そして結論がでた、帝国が害されず生きて帰る事を優先するだ。
「アインズ様、バハルス帝国皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス、お目通りをしたいとのことです」
玉座より一段下に並ぶ者の一人、白いドレスに黒い翼を生やした美女が王に進言する。
「よくぞ来られた人間の皇帝よ、私はナザリック地下大墳墓が主人の一人アインズ・ウール・ゴウンだ」
「そして先に同じく主人が一人ッ! ルーク・バレンタインだ」
「俺はヤン・バレンタイン、同じくここの主人の一人でぇす」
玉座の裏から新たに二人姿を現した。その姿を見てジルクニフ達は思い出す、先のワーカー達から聞いた支配者達の姿と一緒な事を。
「歓迎を心から感謝する、アインズ・ウール・ゴウン殿、並びにルーク・バレンタイン殿、ヤン・バレンタイン殿」
挨拶をしながらジルクニフは考える、なぜ支配者が三人も居るのかと。結論が出ないまま話は進んで行く、途中赤いスーツを着た者が言葉で人間を支配したり、それに注意し自ら頭を下げるのも辞さないと申し出たアインズだったり、その姿を見て一斉に驚く部下達が見れたり、ワーカーを派遣した貴族の首を差し出したらアンデットに変えられたりいろいろあったがそんなものは序章に過ぎなかった、そう後から出てきた二人の支配者によってそんな事は小さな問題になったのである。
「じゃあジルク… ジルでいいや、ジルちゃん! お前の国ちょうだい」
ヤン・バレンタインと名乗った支配者が事も簡単に国を渡せと言ってきたのである、そんな事出来ないとジルクニフも言う。
「そ、それは無理な話だ! はいどうぞとそんな気やすく国なぞ渡せるはずがあるまい!」
ナザリックの者達は一斉にジルクニフを睨む、その目は、その雰囲気は人を軽く葬れるものを含んでいたがヤンの一言でその雰囲気はなくなった。
「あ~、お前達殺気出てるぞぉ。まぁいいや帝国は、なら国作るからそれ後押ししてよ」
「そ、それならば同意いたしましょう」
ジルクニフは自分自身を褒めた、あの中で逃げたりこと切れなかったことに。次に今まで黙っていたルークが口を開く。
「同意するならジルクニフ殿、帰ったらすぐ周辺諸国に建国の通達を。あとエ・ランテルって言う所の周辺をうちの国にするからそこん所の調整頼んだ」
気軽に言ってくれるこの支配者達は、胃をギリギリと痛めながらジルクニフは返事をする。そこからはとんとん拍子で話が進んで行った、お互い連絡役を遣わせる事、帝国は同盟国になる事などを話しジルクニフ達は自国へ戻ったのだった。
「な? 上手くいっただろモモンガちゃん、最初に無理な事言ってから次にまだましな事を言う、これで大体の事は飲んでくれるんよ」
「それに今表に出とかないと裏で子供達が何するか解らないですしこれは必要な事だ、まぁ国の運営なんかはめんどくさいのでモモンガさんよろしく!」
「えぇ! 俺国の運営なんてできませんよ!」
「じゃあパンドラにでもやらせる?」
アインズは後悔した、この兄弟に任せるんじゃなかったと。