グローバル化に対する風当たりが欧米先進国を中心に強まっている。自由貿易や移民の受け入れに反対する政党や政治家が台頭し、生活に不満を抱く人々の間で一定の支持を受けるようになった。
このうねりを放置するのは危険である。保護主義的な政策や人の移動を不当に抑える動きにつながれば、世界経済を下押しし、人々の暮らしをかえって悪化させかねない。反グローバル主義の台頭にどう効果的に対抗していくか真剣に考えるときだ。
自由貿易の利点示せ
「対米輸出が拡大している中国やメキシコに高率の関税をかけるべきだ」「不法移民を追い返し、メキシコ国境に壁を築く」
米共和党の大統領候補指名をめざすトランプ氏はこんな主張を掲げて人気を集め、予備選でトップに立つ。民主党の候補者指名争いでクリントン氏を追うサンダース氏も賃金低下や失業をもたらした元凶として自由貿易協定を攻撃し、若者らから支持されている。
欧州でも似た動きが目立つ。フランスの極右政党、国民戦線は反グローバル化やイスラム移民の排斥を訴え、支持層を広げてきた。ドイツや英国、デンマークなどでも反移民政党が台頭する。
こうした潮流の背景には、2008年に始まった金融危機以来の経済停滞で中間層の雇用や所得が低迷していることがある。それに対する人々の不満につけこみ、安直だがわかりやすい政策で支持を得ようとする政治の動きがまん延し始めたといえる。
対応すべきポイントは3つある。ひとつは、グローバルなモノ・サービスや人の動きを安易に押さえ込めばむしろ人々の暮らしに悪影響が出る恐れがある点を、主流派の政治家や経済界のリーダーらがはっきりと主張することだ。
自由貿易によって、人々は食料品や衣服などを安く手に入れることができる。競争力のある製品やサービスの輸出拡大で雇用を増やすこともできる。移民もうまく社会に溶け込めれば経済や社会に活力をもたらす。
自国の市場を高関税などで閉じれば相手方も同様の動きに出るのは必至である。その結末は、1930年代の関税引き上げ競争や経済ブロック化による世界恐慌の深刻化に見られたように明らかだ。
だが、こうした点を理解しているはずの政治家の姿勢が揺らいでいる。例えば、クリントン氏が国務長官時代に推進した環太平洋経済連携協定(TPP)に反対する姿勢に転じたのは残念なことだ。
ふたつ目は、各国政府が経済の成長力を高め、雇用や所得環境を改善する政策に全力をあげることだ。欧米経済は金融危機からほぼ脱したものの、長期失業や実質所得の低迷といった問題を抱える。欧州のユーロ圏の失業率はなお10%台と高止まったままだ。
対応策は国によって異なろうが、需要創出につながるインフラ投資や労働市場改革などで経済が長期停滞に陥るのを防がなければならない。欧州は銀行の不良債権処理を急ぐことも欠かせない。
そのうえで、グローバル競争や技術革新が加速する時代にあった安全網を整備することが重要だ。苦境にある人をどう支えるかが、みっつ目のポイントである。
機会高める安全網を
まず、失業した人が新たな技能を身につけて再就職するための職業訓練への支援を拡充すべきだ。米国には貿易で悪影響を受けた労働者を支援する制度があるが、うまく機能していない。
努力すれば報われるというアメリカン・ドリームが消滅したとの懸念にも、米国は応える必要がある。特に教育の機会均等につながる政策の推進を求められよう。
勤労意欲を阻害しない低所得者支援策も重要だ。米欧では勤労者を対象とした給付付き税額控除制度を導入する国が増えたが、その強化は一つの方法だ。
欧州の一部では全市民に最低所得を保障する制度を検討する動きもある。低所得者対策を効率化するなら意味はあるが、財政の負担拡大に終わる恐れも大きい。
グローバル化への不信感を減らすために、各国が協調して対処しなければならないこともある。課税回避への取り組みや、国際的な資金移動に伴う市場の混乱を防ぐ仕組みづくりなどだ。
日本は欧米に比べると反グローバル化志向の政治的潮流はまだ強くないが、同様な動きが広がる懸念はある。対処方法は欧米の場合と共通する。海外とのつながりを減らせば日本は活力を失う。方向を間違えないよう、構えをしっかりさせておく必要がある。