シンガポールで実現した史上初の米朝首脳会談から一年。非核化をめぐる米朝交渉は停滞しているが、打開を模索する動きも出てきた。再び首脳会談を行うためには、北朝鮮側の決断が必要だ。
会談場となったシンガポールには、世界から三千人以上の報道陣が集まった。
朝鮮半島に冷たい対立をもたらしてきた朝鮮戦争の正式な終結と、非核化問題に前進があるとの期待が高まっていたからだろう。
しかし、具体的な進展はなく、二回目となった今年二月末のハノイでの首脳会談は、何も合意できないまま終わった。
期待は急速にしぼみ、三回目の会談の見通しも立っていない。残念な状況と言うしかない。
対立の核心は、非核化の手順だ。米国は包括的な非核化の実現を優先し、逆に北朝鮮は、経済制裁の先行解除を求めている。
長引く国際社会からの制裁で、北朝鮮は苦境に追い込まれているようだ。二〇一八年の対中国輸出は前年比九割減少し、外貨も不足。記録的な日照りの影響で食料不足も懸念される。
金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長には最近、いら立ちが目立つ。中国やロシアとの関係強化を図っているものの、肝心の米国側が交渉を急いでいないためだろう。
このまま放置していては、以前のような対立と軍事的緊張が、朝鮮半島を覆いかねない。
わずかな望みは、首脳同士のつながりだ。トランプ大統領は正恩氏から書簡を受け取ったと明らかにし、「とても前向きなことがある」とも語った。この手紙に首脳会談を呼びかける内容があったとの見方も出ている。
金大中(キムデジュン)・韓国元大統領の夫人、李姫鎬(イヒホ)さんの死去を受け、正恩氏は信頼する妹の金与正(キムヨジョン)党第一副部長を板門店(パンムンジョム)に送り、韓国政府高官に対して自分の弔意を伝えた。
これまで北朝鮮は、韓国を「米国寄り」として批判し、接触を避けてきただけに、南北対話再開のシグナルとも考えられよう。
今月末には、韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領とトランプ氏が会談する予定だ。米朝首脳会談に向けた動きが生まれる可能性もある。
交渉の停滞により、正恩氏は非核化に応じないとの見方が、専門家の中で広がっている。
その上、北朝鮮が挑発行動を再開すれば、三回目の首脳会談はますます遠のくだろう。まず正恩氏が、非核化への具体的な一歩を踏みだすことを望む。
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