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VR、音声認識、生体データ…近未来の顧客体験を変える6つの要注目テクノロジー

2018年05月22日



【POINT】

  • 未来の音声認識では、単純に「何を言ったのか」理解するだけではなく、「どんな風に言ったのか」を理解するアルゴリズムの時代が来る
  • AIと機械学習は、これからの10年で最も破壊的なパラダイムシフトをもたらす 
  • 人間の感情を理解するための生体データ計測に、「エモーションテクノロジー」が使用されている    

これからディスラプションをもたらしうるテクノロジーとは

消費者と企業の関係に、テクノロジーが及ぼした影響の大きさは、誰もが認識するところだ。

近代のテクノロジーを思い起こしてみよう。1876年の電話の発明、1926年のテレビの発明により、企業は自宅でくつろいでいる消費者に働きかける手段を得た。そして、より親密なレベルでつながりを持てるようになった。時代が進み、1970年代には個人がコンピューターを購入できるようになり、1991年にはインターネットが登場。これらは両方とも、劇的な変化をもたらした。

その次にやってきた「ディスラプション(破壊的な変化)」が、スマートフォンというテクノロジーだ。2007年、最初のApple iPhone が登場し、ポケットに収まる個人用コンピューターの時代が幕を開けた。このときから、常に顧客とつながっている「オールウェイズオン(always on)」という考え方が生まれていく。

そこからまた一時代がすぎ、テクノロジーによるディスラプションはSF映画の様相を呈してきた。別世界を体験できるヘッドセット、生体データを計測するウェアラブル端末、巨大なデータの集積からの学習、顧客とチャットするロボット、写真を見て顔を認識するソフトウェア…これらはいまや、日常のことになりつつある。我々は、ビジネスを根本から変える「テクノロジーフロンティア」に足を踏み入れようとしている。この新しい世界では、かつてないレベルの「つながり」、そして創造性と生産性が実現するだろう。

今後長期的なインパクトを持つと考えられる6つのテクノロジーを、以下に見ていこう。

顧客体験を変えるテクノロジー (1): バーチャルリアリティ(VR)

顧客体験を変えるテクノロジー (1): バーチャルリアリティ(VR)

360°動画技術を手がけるYouVisitは、インタラクティブなバーチャルリアリティ(VR)体験の開発を行っている。同社でマーケティングディレクターを務めるゴードン メイヤー氏によると、VRの普及は順調に進んでいるという。

「現状、VRの様々な使用事例は、消費者に広く認識されてきている」とメイヤー氏。

「いまはゲーム用VRが市場のほぼ半数を占めている。残りの半分は、多様な業界に分散しており、エンタープライズ用途もその一つだ」。

特に、旅行業界の企業がVRに高い関心を示しているという。VRには「さまざまな場所に新しい光を当てて見せ、空間の感触を緻密に伝える力」があるからだ。また、小売業でのVR応用も広がっている。消費者はVR体験を通じて製品をチェックし、ブランドと対話し、そのまま購入に進めるようになっている。

さらに、多くの大手ブランドは人材募集にVRの使用を検討している。

「直接対面できる距離にいない人々の採用活動を行う場合、募集者に伝えたいストーリーを展開する上でVRが強力な手段となる」とメイヤー氏は言う。

「ハイテク社屋があるなど、魅力的なロケーションを有する会社は、VRを活かし『この会社で働きたい』と思わせることができるだろう」。

米国陸軍でもVRを多用し、感情に訴える方法で兵士の日常を紹介している。大学でのVR使用も進んでおり、米国内外からの学生の募集に一役買っている。

顧客体験を変えるテクノロジー (1): バーチャルリアリティ(VR)

メイヤー氏によると、一つ確かなことは「消費者が、いつでも好きなときに企業と関わることができるようになる日が来る」という点だ。モバイルの使用が爆発的に増え、小売サイトに来るユーザーの半数はモバイルから訪れているといわれている。

「VRはモバイルとの相性が良い。ヘッドセットを使わずにモバイルで360°動画の体験が可能になり、ヘッドセットに収まるモバイルも登場している」とメイヤー氏。「モバイルの位置付けは不動であり、VRはモバイルと共に進化できるよう設計が進んでいる」。

メイヤー氏は、VRはスマートフォンと同様の普及カーブを描き、今から6年から12年の間に、最も劇的なインパクトを及ぼすと予測している。「実際、今から12年後には、スマートフォンは絶滅しているかもしれない。スクリーンもない軽量のメガネのような、音声コマンドのみで動く完全にバーチャルなものが、スマートフォンに取って代わっている可能性がある」。

顧客体験を変えるテクノロジー( 2): 音声認識技術

顧客体験を変えるテクノロジー( 2): 音声認識技術

音声コマンドの話が出たところで、音声認識技術を見ていこう。米Googleによると、モバイル検索の20%が音声サーチであるという。また、AmazonのAIアシスタントであるAlexa(アレクサ)も、USではスマートホームハブ、自動車、金融機関インターフェイスなど、Amazon以外の製品に組み込まれるようになった。音声技術は、消費者とブランド両方に受け入れられ、今や「ブランドと消費者が会話をできる時代になった」と言って差し支えないだろう。

小売業界の将来を予測するフューチャリストとして知られ、「 Reengineering Retail: The Future of Selling in a Post Digital World(リテール革命:ポストデジタル世界における販売)」の著者でもあるダグラス スティーブン氏は、「我々は、あらゆる瞬間にデジタルアシスタントが控えている現実に近づきつつある」と述べている。

「これは、オムニチャネルという考え方を超えた、オムニプレゼンスというべきものだ」。

例として、米百貨店シアーズでは、(Amazon) Alexa搭載の家電を開発している。米小売大手ウォルマートでは、音声ベースのショッピングを提供すべく、Googleと提携した。「またもやAmazonが小売業界の掟を変えたという認識が、業界でさらに広がるだろう」とスティーブン氏は述べている。

米百貨店メイシーズは、スマートフォンのチャットアプリを介した店内ショッピングアシスタントを提供している。さらに、ドミノピザ、タコベル、ウィングストップ、バーガーキング、ピザハットなどのファストフードチェーンは、それぞれのやり方で音声テクノロジーを使った販売を実験的に行っている。

「音声アシスタントは、ブランドとユーザーの間で、より説得力のある対話方法を実現している。なぜなら、より自然な形のコミュニケーションが元になっているからだ」と、アドビの企業戦略ディレクターであるマーク アッシャーは述べている。

「音声アシスタントと機械学習テクノロジーの組み合わせは、様々な新しい価値を消費者に提供できる」。

とはいえ、音声を活用した購入の仕組みはまだ初期の段階であることは確かだ。テクノロジーに関するインサイトや分析を行っているBI Intelligenceの2017年4月の調査によると、音声端末ユーザーのうち、実際に購入目的でボイスコマンドを使用したことがあるのはわずか9%であると報告されている。

ナレーションやラジオパーソナリティなどのボイスタレントのマネジメントを行っているVoices.comのバイスプレジデント、クリス カービー氏によると、未来の音声コミュニケーションは、言葉を解する機械学習アルゴリズムを超えて進化していくという。

「単純に何を言ったのかを理解するのではなく、どんな風に言ったのかを理解するアルゴリズムの時代が来るだろう」と、カービー氏は言及する。「声の抑揚など、話し言葉に意味を付加する特性すべてが、音声認識プロセスの一部となるだろう」。

顧客体験を変えるテクノロジー ( 3):機械学習

顧客体験を変えるテクノロジー ( 3):機械学習

人工知能(AI)の一部である機械学習(マシンラーニング)への注目が、企業の間で急速に広まっている。隠れた商機の発掘、単純作業の加速化、重要なデータインサイトの特定などが自動的にできるからだ。

事例を挙げよう。画像素材を提供するPhotoshopは、画像の中から機械学習で顔を検出できるようになっている。その後、眉毛、唇、眼などの「目印」から顔パーツの位置関係を理解し、イメージを損なうことなく顔の表情を変えることも可能だ(編注:動画は英語)。

2017年10月のAdobe Max(アドビが主催するクリエイティブイベント)において、アドビCTOのアベイ パラスニスは、次のように述べている。

「AIと機械学習は、これからの10年で最も破壊的なパラダイムシフトをもたらし、人々の仕事のやり方を変えていくだろう」。

また、AIが人間に取って代わるという認識の誤りについても言及した。

「アドビでは、AIは人間の創造性と知能を拡大するものであり、人間に代わるものではないという見方をしている。AIは我々を単純作業から解放し、人間にしかできないユニークな創造性の発揮に貢献していくだろう」。

一般的な機械学習の用途として、マーケティングでの活用が挙げられる。インテリジェントなオーディエンスセグメンテーション、異常値の検出、巨大なデータセットのリアルタイム分析といったアナリティクス機能への機械学習の統合、画像の自動タグ付けなどだ。

アドビのシニアディレクターであるジョーダン クレッチマーは、今後の機械学習の最も大きな機会は、コンテンツ制作の自動化にあると語っている。

「バナー広告を150件、メールキャンペーンとFacebookとInstagramの投稿を20件ずつ作成する場合、一つひとつを手作業でやることはない。見出しを自動生成し、メディアごとに別フォーマットに埋め込んでいくようなシステムが可能だ。また分析に関していえば、広告のパフォーマンスについて収集した情報にもとづき、最良のパフォーマンスを上げた広告に合わせて見出しを自動的に変える、といった使い方が考えられる。コンテンツの自動生成と自動最適化には、大きな可能性が広がっている」。

さらに未来の機械学習では、企業が消費者の新たなニーズを認識するより前に予測し、消費者のさらなる理解を促すことができるようになるだろう。

顧客体験を変えるテクノロジー (4): チャットボット

顧客体験を変えるテクノロジー (4): チャットボット

チャットボットテクノロジー企業 Narvarでバイスプレジデントを務めるハーシュ ジョーハーカー氏によると、B2Cにおけるコミュニケーション手段としてのチャットボット利用は、まだ非常に早期の段階にあるという。

「小売業界では、過去10年以上にわたり、レコメンデーション機能による収益向上に大きく力を入れてきた」とジョーハーカー氏。「自然な成り行きとして、その経験がチャットボットシステムに活用されている」。

現在までのところ、チャットボットは主に、検索/発見機能や「おすすめ製品」の提示に使用されている。今後マーケターは、これまであまり注目されなかったチャットボットによる顧客ケアに関心を向けていくだろう、とジョーハーカー氏は述べている。

例えば、米スーパーマーケットチェーン、ホールフーズのFacebookメッセンジャーボットは、レシピ、製品、食品に関するアイデアをユーザーがメッセンジャー内で検索できるようにしている。また美容業界でも、チャットボット活用の適所を見出しており、予約スケジュール管理、バーチャルカラーマッチ、さらにはギフト関連で活用されている。

チャットボットの可能性に挑んでいるブランドとして、スターバックスが挙げられる。同社は、チャットボットテクノロジーでコーヒーを注文できる「マイバリスタ」アプリを発表した(編注:動画は英語)。

「チャットボットの可能性は、消費者や買い物客が、文字や音声認識で簡単にブランドとコミュニケーションできるようになる点にある。電話での問い合わせや、webをチェックする必要がなくなるので、大きな成果となるだろう」。

ジョーハーカー氏は、将来のチャットボット体験は、これまでライブチャットが担ってきたコンシェルジュサービスのようなものになるだろう、と予測している。未来の小売企業は、チャットボットで消費者に追加購入を促しているかもしれない。

たとえば、ベビー用品小売であれば、チャットボットでおむつの買い足しを促す。化粧品小売では、マスカラがなくなる頃ではないですか?とボットに御用聞きをさせる、などの使い方が考えられる。

考えてみてほしい。実際、チャットボットは、Google アシスタント、Alexa、Sonoスピーカーなどを使って「再購入の時期です」とユーザーにリマインドできる。このようなタイプのコミュニケーションに興味がある、と申し出た消費者には、企業が彼らのコンシェルジュ、または「バーチャルアシスタント」となるだろう。

「将来的には、チャットで会話をスタートし、音声認識で会話を続け、最終的にモバイルで目的を遂行させる、という流れが可能になるだろう」とジョーハーカー氏。「別々のテクノロジーが、今後ひとつに収束しはじめると考えている」。

顧客体験を変えるテクノロジー (5): 顔認識技術

顧客体験を変えるテクノロジー (5): 顔認識技術

AIの認識技術を開発するVeritone社の社長兼共同創設者であるライアン スチールバーグ氏によると、顔認識テクノロジーは、セキュリティ、小売、レストラン、ホスピタリティなどの業界で利用が広がっているという。

「顔認識の正確さは、画像解像度、カメラとの距離、既存の顔画像のライブラリー参照機能に大きく依存する」とスチールバーグ氏は述べている。「現在、業界が使用している技術は、ほぼ98%の正確率に達している。最後の2%は、それほど大きなハードルには思えないかもしれないが、即時に100%の正確さで認識できるようになるまでには、あと5年から10年かかるだろう」。

消費者はすでに、顔認識の利点を実感できるブランド商品を手にし始めている。2017年9月、顔認識テクノロジーを搭載して世に出たApple iPhone Xがその一例だ。

他の企業も、実験的な試みを行っている。エクスペディアでは、ハワイ観光局と提携して顔認識テクノロジーの試用を開始した。「Discover Your Aloha(あなたのアロハを発見)」と名付けられたこの提携キャンペーンは、ハワイ諸島でのさまざまなアクティビティ動画を掲載するマイクロサイトで展開された。表情を認識するソフトウェアがユーザーの許可を得てPCのwebカメラで動画閲覧中の表情を検出し、もっともポジティブなリアクションがあった動画を特定する。ユーザーにはその後、旅行商品の割引オファーが提供される。

顧客体験を変えるテクノロジー (5): 顔認識技術

顔認識テクノロジーには、これから大きな進展があるとスチールバーグ氏は予測している。たとえば、道行く人々の性別や人口データ(年齢、人種その他)を取り入り込む街頭看板(スマートビルボード)、オンラインの顔認識技術を介し、顔を見せることで個人に特化した対応を許可するシステムなどだ。

「しかし、この技術は、今後好まれそうなサンプルを提示するだけでは終わらない」とスチールバーグ氏。「ディズニーのようなトップブランド、政府のサービスも、顔認識を導入して人々の反応をうかがっている。常に監視されているような気分にさせて怖がらせたり、プライバシー侵害の懸念を広げたりしては本末転倒だ。顔認識技術の真の目的は、人々が気持ちよく利用でき、便利で効率的な体験を提供することだ」。

顧客体験を変えるテクノロジー (6): バイオメトリクス

顧客体験を変えるテクノロジー (6): バイオメトリクス

指紋や虹彩などのバイオメトリクス(生体データ)は、個人認証によく使われてきた。それだけでなく、スマートウォッチやフィットネスバンドなどで使用されているセンサー技術は、心拍、血圧、血糖値、心電図、体温などのデータを様々に活用できる可能性を秘めている。患者のリモート診断などヘルスケア産業は無論のこと、他の業界でも応用が可能だ。

すでに行動に移している企業もある。エモーション(感情)テクノロジー企業、Lightwave CEOのラナジューン氏によると、エモーションテクノロジーの主な用途のひとつとして、人間の感情を理解するための生体データ計測があるという。

たとえば映画会社の20世紀フォックスは、Lightwaveの技術を使用して、映画「The Revenant(邦題:レヴェナント 蘇りし者)」の試写で観客のリアクションを計測した。通常の試写では、上映後にアンケートを取るが、Lightwaveの協力を得た20世紀フォックスでは、上映中の観客の心拍数変動、発汗レベル、体温、体の動きを計測し、映画のどの部分で観客が最も心を奪われ、影響を受けたかを示すデータを得た。

顧客体験を変えるテクノロジー (6): バイオメトリクス

「バイオメトリクスによって、消費者の行動を見て(マーケティング等の)有効性を測るという方法に代わり、消費者がどう感じたかにもとづく有効性評価が可能になる。AIアシスタントと話していてイライラした、あるいは怒りを感じたのであれば、その感情をAIアシスタント体験の有効性評価に反映できる」。

Lightwaveのテクノロジーは、発汗レベル、視線、心拍、体の動き、その人がそわそわしているか、苛立ちを感じているかなどを調べる。こうしたバイオメトリクスデータのすべてを考慮すると、人が企業と関わる際の「正直な真実の状態」がわかるという。

「すべてが顧客体験の向上を目指して動いている。消費者はより良い体験を求め、企業はこれに応えようとしている。しかし、体験の良し悪しを計測する指標は、まだ存在していない」とジューン氏は言う。「今から5年から10年の間に、企業はその計測指標を確立するだろう。体験を計測する感情指標とは何なのか? これは、何をもって成功とするか、という評価の方法に根本的な変化をもたらすだろう」。


関連資料

野村総合研究所は、2020年に「カスタマーエスクペリエンス3.0」が普及期に入ると予測しています。企業は予見的(プロアクティブ)なサービスを提供し、消費者は「問い合わせする前に情報を提供してくれる」などのサービスを受けられるように。迫る2020年に向けて、企業が「いまスタートできる」取り組みのヒントを提示します。


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