オーバーロード 骨の親子の旅路 作:エクレア・エクレール・エイクレアー
<< 前の話
「それでエンリにまたマジックアイテムあげたのか。過保護だなあ」
「とはいえ、長期間村から離れるから緊急時の呼び出しをするだけのアイテムだ。俺の家にマーキングをしてあるからいつでも戻れるし」
「もうお前の魔法にはツッコまないぞ……」
今モモンガたちは馬車に揺られて王都へ向かっている。馬車の中にいるのは「黒銀」の三人だけ。一応客賓ということで、王家が用意した馬車に乗らなくてはならなかった。魔法を使えば一日と経たずに着いたのだが、さすがにその移動は目立つので却下。
エ・ランテルとカルネ村を表向き飛行で移動している時点でエ・ランテルではすでに頭のおかしいチームとされていたが。
「それよりも、ガゼフと軽く模擬戦をやったんだって?どうだった」
「それがよ。あいつも全力じゃないとはいえあっさり勝っちまって。いや、パンドラが頭おかしくて、それと模擬戦をずっとやってきたからなんとなく結果も見えたんだけどよ」
今のブレインはレベル換算で40近くある。パンドラとの模擬戦もそうだが、門番の智天使や死の騎士、他にも各種アンデッドや森の賢王とも戦っていたのでかなりの経験を積んでいる。
依頼でモンスターを狩ることも多く、対人戦以外にも数多くを経験したために戦いという物を理解し、それを一対一という戦場へ活かし始めてブレインは真価を発揮した。
一対一以外の戦闘を行う、つまり多数対一、一対多数、多数対多数をしたことで周りへの配慮などを覚え、だからこそ一対一では相手に集中することができて感覚が増し、対人類で一対一となればかなりの勝率を上げられるようになった。
パンドラはもちろん、遊びでモモンガがパーフェクトウォーリアーを用いて身体能力だけは一級の戦士になって戦ったりしたらステータスの問題で負けたりしていたが。
ガゼフには勝てるだろうと思っていたので、二人は別に何も思わなかった。
「あと挑戦したい剣士はいるのか?」
「『蒼の薔薇』に二人、戦士と魔法剣士がいる。そいつらに挑めば王国有数の戦士は全部だろうな。あとは有象無象だ」
「なんだ。それだけしかいないのか?」
「あのなあ。これでも俺は王国じゃ五本に入る剣士だぞ?パンドラには勝てねえけど」
「純ッ粋なレベル差でしょう。失敬。こちらでは難度、でしたね。この短期間で伸びたブレインであれば、まだまだ伸びるでしょう。私にまで届くかは不明ですが」
ワールドチャンピオンに届いてしまったら、それは人間と呼べるのか。ユグドラシル時代にはワールドチャンピオンの称号を持つ者はたっち以外にもいたし、人間種でもいた。ただそれはゲーム時代であって、この世界の人間のスペックからしたらいつその高みに届くのか途方も知れない。
モモンガたちからすればこの世界は全体的にレベルが低いので、だからこそレベルが上がらないのではないかと思っている。
強い敵を倒せば経験値がたくさん手に入る。問題はそこまで強い敵がいないことと、倒す手段が弱い人間にはないことだ。
その弱いままの人間が子孫を残したことで強くなる遺伝子が潰え始めているのではないかと。タレントとはそんな人類の遺伝子に入り込んだ救済なのではないかと。
この世界に抗うための手段として発芽しているのではないかと。
だが、まだまだ実験をしてみなければ確証は得られないので、身近にいるブレインで試してみることにしている。
「ブレイン。王国最強の剣士になった褒美だ。パンドラが作った刀だが、使ってみてくれ」
虚空から鞘に収まった刀を取り出す。その刀に経験値上昇を付与した、いわゆるマジックアイテム。要らない武器をデータクリスタルに変換して、パンドラに鍛冶職人に変化してもらって作った一品だ。
ブレインが持っている刀を鑑定してそれより強すぎない程度に抑えた刀だ。ついでに直すのも面倒なので損傷軽減も付与してある。
それだけで一国の宝物以上の出来なのだが、そうだとはモモンガもパンドラも気付かない。
「うおっ!こんな良い刀貰っちまって良いのかよ!?しかもパンドラが作った!?」
「こいつは多芸なんだ。エンリやネムにあげたマジックアイテムに比べれば価値は劣るぞ?」
「どんなものを一般人に渡してるんだよ……。いや、でもいいのか?劣るって言ってもこんな逸品もらえるような活躍してねーぞ?」
「だから勝利記念品だ。それにこっちでも武器を作れるかの実験だったから気にするな」
「そうです。それに最近そちらの刀では物足りなくなっていませんか?聞いたところ、刀なんて滅多に手に入る物ではないのでしょう?チームメイトとしての心遣いのようなものですので」
「たしかに……」
パンドラが言ったのは武器の適正レベルの話だ。ブレインが持っている刀は適正レベル30。今や40近くなっているブレインでは物足りなくなっているのも必然。
エ・ランテルで武器も見てみたが、まともな物はなかった。だから実験ついでに作ったのだ。本来発揮できる力を発揮できなければ困るし、ブレインの力に耐えきれず珍しい刀が壊れてしまっては当分刀を使えなくなる。
だったらさっさと適した物を作ってやればいいと思っただけ。ブレインとどれだけの付き合いになるかは分からなかったが、カルネ村の皆とも懇意にして、ひたむきに刀を振るう姿に感銘を受けてモモンガがパンドラに提案していた。
宝物殿には余ったデータクリスタルはかなりある。刀一本くらい全く痛くなかった。それよりは様々な実験の方が重要だっただけ。
「またこの前のようにわけわからん犯罪組織が襲ってくるかわからないからな。備えておくだけだ。いつかはパンドラを超すんだろ?なら良い武器に変えた方が良い」
「そりゃあそうだが……。お前らに貸しを作るのもどうなんだと思ってな」
「俺たちも初めてのことをやって、それをブレインで試しているからお互い持ちつ持たれつの関係だと思うぞ?それに俺たちがゆっくりしたい時にブレインだけ依頼をやらせるということもできる」
「修業になるからそれでもいいけどよ。便利屋扱いしやがって……」
「実際助かっているぞ?俺たちは王国も帝国のことも全く知らない。情報源としても、お前の剣士としての視点も俺たちにはないものだからな。情報はいくらあっても偽物じゃない限り構わないから」
「そうかい。……ならありがたく受け取るぜ」
ブレインは刀を取り換えて、受け取った刀を手に馴染ませている。武器を変えるということはクセなどがついていないために慣れる必要がある。そのためにそこそこ広い馬車の中で感覚を掴んでいるのだ。
「ところで、第三王女っていうのはどういう人なんだ?」
「あ~?まあ、別嬪だな。『黄金』って呼ばれるほどの美貌を持った王女だ。とにかく色々な発案をして、良い案だけ法に加えられてるとか。俺も二回くらいしか見たことねえし、又聞き多いから詳しくは知らん。ガゼフの方が詳しいぞ?」
「王の直属の部下に聞くとか、まるで疑ってるように捉えられるだろ」
「じゃあ疑ってないと?」
「いや、疑ってる」
王が部下を救ってくれたお礼として呼び出すのならわかる。だが、犯罪組織の幹部だか用心棒だかを捕らえて王女が会いたいというのはどういう用件か。
ただ単に会いたいだけか、功労者を労いたいだけか。善意なのか、何かをやらされるのか。軽く考えただけでまだ出てくる。
冒険者という国の法に縛られない存在を王女が呼び出すなんて、怪しいと思うのも当然だった。
「八本指を壊滅させたとかそういうことじゃないのに呼び出す。その意図はなんだ?俺たちが倒したのは六腕と呼ばれる連中の内の三人だが、それで戦力は半減になったのか?そもそも戦うことが主な組織じゃない。麻薬とか奴隷とか詐欺とかそういう連中だ。そんな組織は、善良な王女からしたら見過ごせない悪だろう」
「ん?俺たちは戦力として期待されてるとか?」
「それも一つ。実績があるからな。ただ、武力で解決できるのなら戦士団を使えばいいだけ。国の戦力を犯罪組織には使えないとかそういう方便もあるのかもしれないが、なら冒険者を使う方が問題になるだろ。王国の上層部は対立しているんだろう?もし冒険者が関わっていると知られればそれは弱みになる」
パンドラとも話していた内容だ。王女が呼び出す理由。どうせ二人は眠れないのだからとずっと話していた。先行して王都にシモベを侵入させたりもした。それでもイマイチ決定打がない。
「秘密裏に動くとしても限界がある。冒険者を使うということは自分たちだけでは解決できなかったと白状するようなものだ。実際徴兵制なんて採用してる王国に固有の戦力なんてないんだろうけどな」
「もし仮にぃ、我々を戦力以外として利用しているのだとして。その戦力以外とは何か。そもそも戦力としても我々はミスリル。アダマンタイトがいるなら不要でしょう」
「お前らがアダマンタイトで収まらないのはわかってるぞ。その言い訳は無理だ」
「ではっ!どのようにして、我々がアダマンタイト以上の実力があると知ったのか。『黒銀』としての活動として冒険者組合に通達している内容からしたら、特出しているのはエ・ランテルでのアンデッド事件と先の六腕を捕らえたことくらいでしょう。その六腕もアダマンタイト級とは言いますが、それは個人個人としての力量がその程度であり、チームとしてはおざなりだった。根拠としては弱いでしょう」
六腕の三人だが、まともなコンビネーションというものがなく個人個人で戦おうとしていた。そんな有様だったので先手必勝とモモンガが魔法で動きを抑え、あとは前衛で頑張らせたらあっけなく終わった。
向こうに後衛がいなかったということもあったが、三人で来るなら連携の一つでも考えてくるのが常套手段のはず。それを怠った連中と、チームで戦ったモモンガたちでは実力を測るというのは適さないだろう。
「あいつらがアダマンタイト級って言われてブレインは納得できたか?」
「いや、できねえな。つまり戦力としてじゃない?」
「いや、それがある。冒険者になる前に俺たちは法国の特殊部隊を追い返している。それを評価している可能性があるが、本当に追い返したか、法国の特殊部隊かは実証できないはずなんだ」
「例の六色聖典ってやつか?お前ら二人ならおかしくはないと思うけどよ……。でもその線も薄いんだろ?」
「ですので、あと考えられるのはモモン様の魔法。王国は魔法があまり盛んではないとか。魔法を低位に扱っているのであれば、凄腕が現れたと知ると何でもできる超人だと思い込む可能性があります」
「魔法も絶対じゃないし、使い続けるのは無理なんだぞ?」
MPにも限界値はあるし、モモンガは信仰系ではないために蘇生や回復系の魔法は一切使えない。アンデッドであり、ビルドよりの構成をしているからだ。汎用性の高い魔法やビルドに沿った魔法はかなり覚えているが、それでも全てではない。
できないものはできない。マジックアイテムを使えばできることも増えるが、有象無象のために使う気もない。
「うーん……。あとは南方の情報?」
「とかな。ただの恩賞じゃないだろうから、一応警戒しておいてくれ」
そう言って揺られる馬車に身を任せる。モモンガは夜になる度にカルネ村に戻り、朝には戻ってきていたが、それを知っているのは「黒銀」の二人だけだった。