開発中に気づいた「日本酒製造のある『例外』」
同店を運営する「WAKAZE(ワカゼ)」(山形県鶴岡市)の稲川琢磨社長は、「ある日本酒のあらばしり(加圧せず自然にしぼり出した酒)を飲み、その味に衝撃を受けたのがきっかけで、日本酒とその製造に興味を持つようになった」と話す。だが、調べてみると日本酒の醸造はほぼ新規参入が認められないことが分かった。
酒税法で日本酒の製造免許を得るために必要な条件はいくつかあるが、すでに免許を持つ製造者が経営を合理化するためなどの理由で新たに会社を設立する場合などに限定されている。日本酒の需要と供給のバランスを保つためという目的があるからだ。新規参入のために製造免許を譲り受けるなどの方法もあるが、「現状、新たに製造免許を取得することは非常に難しい」(国税庁担当者)という。
「新規参入が盛んな国産ビールや国産ワインは出荷量が大幅に伸びているのに対し、日本酒は新規参入がほぼ認められないこともあって市場が低迷している」(稲川社長)
そこで、稲川社長は「『新しい日本酒』を造ることで、日本酒業界を活性化させたい」と考え、16年1月に同社を設立した。前述の規制により新たに製造免許を取得することが難しかったため、自社で商品開発した日本酒を既存の酒蔵に製造委託するスタイルでスタート。完成した1万本を全量買い取る条件で委託醸造契約を結んだ。17年11月に発売した日本酒「ORBIA(オルビア)」シリーズ2品は、「白麹を使い、オーク樽で熟成させた清酒」(稲川社長)。小売店、百貨店、イベント会場などに売り込みを続け、1万本を完売した。
18年5月には、米から造った酒の発酵中にかんきつやハーブを加えた「ボタニカルSAKE/FONIA(フォニア)」シリーズの販売を開始。その開発中に気づいたのが、製造免許取得のある「例外」だったという。日本酒の原料は酒税法で定められているが、それ以外の副原料も使って製造した場合は「その他の醸造酒」などに分類され、一定の条件を満たせば製造免許がおりる。また日本酒の場合は製造免許の条件として「1年間に製造しようとする酒類の見込数量」が60キロリットルだが、「その他の醸造酒」は6キロリットルだ。
そこで、約3000万円をかけて、6キロリットルの酒類が製造できる醸造所を立ち上げ、免許を取得した。免許取得にこだわったのは「自分たちが製造免許を取って『新しい酒』で注目されれば、ほかの会社も新規参入しやすくなると考えたから」(稲川社長)。今後は同醸造所で新しい酒の商品開発をし、完成したレシピで他の酒蔵に量産を委託するという形を目指している。