昨日、米政府によって行なわれてきたネット上の情報収集活動、「プリズム(PRISM)」計画の存在をリークしたとして、元中央情報局(CIA)局員のエドワード・スノーデン(Edward J. Snowden)氏がメディアに姿を現した。現在、香港に滞在していて、アイスランドに亡命することを望んでいるようだが、そもそもなぜスノーデン氏は、香港に向かったのだろうか。

各種メディアで報じられたところによると、スノーデン氏は、2013年4月いっぱいまで、米ハワイ州西オアフ島で恋人と一緒に生活していたようである。その後、てんかん治療の名目で、契約していたコンサルティング会社から一時休業の許可を得たスノーデン氏は、『Guardian』と『Washington Post』の記者たちとコンタクトをとりつつ、生活していた住居を引き払い、5月20日に香港へと飛び立っている。

コンタクトをとっていた『Washington Post』の記者によると、スノーデン氏は、自分の行動によって何を被ることになるか理解していたという。また、「この情報を大衆に知らせることは、私の終わりを意味する」とも語っていたそうで、もはやアメリカにはいられないと覚悟していたことがうかがえる。

そこで、香港を選んだ理由なのだが、『Guardian』のインタビューで語ったところによると、香港には長年、街頭での抗議運動が認められており、言論の自由や人権が保障されているからだとしている。確かに、香港ではイギリス植民地時代の流れを汲んで、そうした権利が認められている。しかし、他にも言論の自由や人権を認めている国はあるわけで、なぜ香港を選んだのかという決定的な理由にはなっていないように思われる。

そうなると、やはり逮捕を免れるために香港へ渡ったと考えるのが自然な発想であろう。いわゆる「高飛び」というやつだ。

だが、高飛び先として、香港がベストな選択であったのだろうか。アメリカと香港は、1996年に犯罪者引き渡し条約を締結しており、アメリカが起訴して、身柄を引き渡すように要求すれば、香港政府は、原則として、それに応じなければならない。すでに米政府は、スノーデン氏を起訴すべく、捜査を開始したとのことなので、近いうちに、そうした要求が香港側に出されることは必至だ。そのため、スノーデン氏に同情的な立場からは、早いうちに香港から離れるべきだと指摘する声も出ているようである。

ただし、実を言うと、アメリカと香港の犯罪者引き渡し条約では、同条約第3項(Article 3)において、国防・外交問題、もしくは、公共的な利益や政策に関わる場合、引き渡しの要求を拒否してもよいと規定されている。実質上、こうした問題を判断するのは、香港政府ではなく中国政府であろうから、中国政府の意向次第によっては、アメリカ側の要求を拒否することができるということになる。

焦点は、今回のケースで、中国がアメリカ側の要求を素直に受け入れるかどうかだ。中国側から見れば、スノーデン氏は、元CIA局員で、国家安全保障局(NSA)の機密情報にも触れていた人物である。アメリカの情報活動を知る上で、非常に魅力的な情報ソースであり、とりあえずキープしておいて、色々と話を聞いてみたいところであろう。こうなってくると、引き渡しに応じない可能性が高まってくる。

しかし、その場合、アメリカとの関係が悪化することは避けられない。この辺の損得勘定を中国側がどう計算するかによって、スノーデン氏の処遇も変わってくるということになるのだろう。また、こうした微妙な国家関係を織り込んだ上で香港に渡ったというのなら、スノーデン氏は、なかなか自分の価値をよく分かっている人間ということになってきそうである。

【関連資料】
U.S.-Hong Kong Extradition Treaty
U.S. Government Printing Office: Federal Digital System

【関連記事】
"Code name ‘Verax’: Snowden, in exchanges with Post reporter, made clear he knew risks"
Washington Post, June 10, 2013.

"Edward Snowden's choice of Hong Kong as haven is a high-stakes gamble"
Guardian, June 10, 2013.

"Edward Snowden: Why the NSA whistleblower fled to Hong Kong"
Christian Science Monitor, June 10, 2013.

『香港を離れた方がよい』=CIA元職員逮捕も-親中派党首
『時事ドットコム』(2013年6月11日)


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