「吉田拓郎さんのすべてが勇気でした」
ーー「だろう!!」という言葉にインパクトがありますね。このフレーズがあるおかげで、ちょっと強く背中を押されている感じが出てる。なんか弱ってる時に聞くと元気づけられる感じ。
中村:そうだね。
ーー中村さんご自身は、人の曲に勇気づけられたりとか元気づけられたりとか、そういうことはありますか?
中村:歳を取ってから、曲を聴いて元気をもらうっていうのはあまりないですけど、若いときは、よく(吉田)拓郎さんを聴いてたんで、拓郎さんのすべてが勇気でしたね。曲とか世界とかすべてがすごく励みになった。
ーーどこが一番魅力でした?
中村:例えば、「人間なんて」(1971年のアルバム『人間なんて』収録曲。ライブではリフレインを繰り返し歌い、時に20分を超える長時間演奏になる)を延々歌ってて、これはもう絶対喉ヤバいよなっていうぐらい。歌ってるときはガラガラ声なんだけど、それでもやっぱりガーッと歌い続ける姿だとか、ああいうのはちょっと打たれたりしますね。自分もすでに歌手としてデビューしていたときだったので。
ーーライブの「人間なんて」は、〈人間なんてララララ~〉というフレーズを延々繰り返して一種のトランス状態に入ってしまっているような。同じ歌い手としてはそういう心境になるって分かりますか?
中村:ありますよ。実際に酒を飲んで、あれやりましたからね。酔っぱらったときとかに真似してやってみると、ああなっちゃいますから。あの止まらない感じが、不思議な連帯感と感動を呼んで。
ーーありますね。
中村:アーティスト/表現者としては全然違うけど、あのスピリッツみたいなのにはすごい憧れたし、良いなと思いました。
ーーなりふり構わない感じとか自分の歌にガーッと入り込んでる感じとか。
中村:そうなんですよ、すごく良かった。「人間なんて」だけじゃなく、他にもいろいろな良い曲があります。すごく憧れてね。拓郎さん(みたいなこと)をやろうとは思わなかったけど、きっかけやエネルギーみたいなものをもらったということはありましたね。あの人とはけっこう飲んだりする機会があったんですけど、飲んでるときに曲を作るんですよ。
ーー飲んでる時もギターを手放さない?
中村:ええ。あの人のそういう生き様みたいな、いつもそばに音楽があって。まあちょっといい加減なことろもあるんですけど(笑)。拓郎さんのファンだったら知ってる「たどり着いたらいつも雨降り」っていう曲があるんですよ。「疲れ~果てて~♪」って歌が。
ーーザ・モップスが歌ってた。
中村:そうそう。あれの元歌があって、広島のアマチュアバンド時代に歌ってた。それが「好きに~なったよ~なんとかちゃん♪」って歌だったの。
ーー他愛のない曲。
中村:そう。それが、東京に来てからなんかちょっと骨太の歌になったんだよね。でも元はナンパの歌じゃないかみたいな(笑)。
ーーそれは良い話ですね。人間として、アーティストとして、成長していったってことですよね。
中村:うん。そういうエピソードを聞いたりすると微笑ましくて。
ーー音楽家の場合は、そういうふうに作る曲に自分を投影させやすい。自分の成長の過程とか足取りみたいなものというのは、作品にわりとくっきり刻まれると思うんですけど、役者の場合はどうなんですかね?
中村:やっぱり同じような感じだと思います。作品として確実に残ってるので。逆に言うと、極めて客観的に、自分の輪郭をハッキリ見られるっていうか。
ーー昔のご自分も出演されたドラマとか映画とかご覧になりますか。
中村:たまにしか見ないですけど、やっぱりすごく客観的になる。こいつ良い役者じゃねえなとかね(笑)。セリフの言い回しとか。
ーー活舌悪いなとか(笑)。
中村:そうそう。ただ、若さ故みたいな良さもある。今は、あんな芝居や雰囲気は出せないし、その良さも絶対ある。歌でも同じですけど。芝居も歌も上手下手だけで評価してはいないですね。もっともっと、いろんなファクターがそろって形成されていくものだと思っているので。
「反省点が前に進む原動力になる」
ーー若い頃の中村雅俊というのは、どういう役者でした?
中村:意外と可愛いんですよ。
ーー(笑)。
中村:やってることがね。計算してないバカさ加減とか若さ加減が良いというか。インテンション(意思、意図)がない。別な言い方をすると、甘い、若すぎる、あんまりちゃんと深く考えていない。台本を読んで自分の思ったとおりにやってるだけ、みたいな。やっぱりキャリアを積んできたり、慣れてきたりすると、インテンションというか、いわゆる演技プランを考えるようになる。こうしよう、ああしようみたいなことを考えて、ここでこう動いて、その結果こういう演技になった、という。果たしてそれがどうなのかなっていう気持ちもあったり。そういう意味では、歳を取ったから良いのか、若いからダメなのかっていうような言い方もできないんです。
ーーなるほど。
中村:だから役者の場合も、そういう軌跡みたいなものは残ってますね。自分がこう考えてこう演技して、という過程がしっかりと残っている。その点どうなんだろうと思うのは、ライブですよね。ライブで間違えたところはあとでレコーディングし直すっていうことがあるじゃないですか。
ーーいくらでも直せる。
中村:うん、生中継だと直しようがないですけど、録音なら何十チャンネルもあるから、あとで悪いところだけ直せちゃう。それは商品だから(完璧なものにする)という意味もあるんですけど、そこらへんの考え方ですよね。その場にいたお客さんに関しては1回きりですけど、それがDVDになって商品化されたときに加工、修正しちゃうと、ライブなんだけどライブじゃないみたいなことになる。こういうアーティスティックな作業っていうのは、いろんな解釈の仕方でずいぶん違うのかなと。
ーーそうですね。以前話を聞いた某映画監督も、昔はビデオなんてなかったから、映画は公開されてる間がすべてで、あとには残らないものだというつもりでやっていた、と言ってました。
中村:わかります。たぶん舞台が多い人は、やったらあとには残らないっていう意識を持ってる人も多いんじゃないですかね。最近はDVDに撮って、あとで発売するっていうのも多いけど。
ーー音楽のライブもそうですけど、舞台なんかは、DVDで見てるだけじゃ絶対伝わらないような臨場感って、ありますよね。
中村:そうそう。そういう満点じゃないっていうところで、先に転がっていくっていうかね。あーあそこがとか、あー今日は……とか、そういう細かい反省はあるけど、そのおかげで前に進んで行けたり、ポジティブにもなれる。歌でも芝居でも、今日はやりきったという達成感もある代わり、失敗もある。でも反省点が、前に進む原動力にもなる。
ーー一番達成感がある瞬間というのは?
中村:野外コンサート。
ーーほう。なぜ野外なんですか?
中村:なんだろう、あの空気感ていうのは、ホールコンサートと違う。それこそ野外コンサートがもし撮影がなかったら、本当に楽しいものだと思いましたね。
ーー(笑)。撮影があるとやっぱりプレッシャーがありますか?
中村:あります。緊張してやってるんですけど、意外と上手くいく例が多いんですよね。なんか不思議な集中力が生まれるんですよ。
ーー1500本もライブやってたら、もう慣れてるでしょ(笑)。
中村:慣れてますけど、たまに歌詞を忘れる(笑)。
ーー新曲が出るたびに、アルバムが出るたびに歌詞を覚えなきゃいけないわけですよね。役者がセリフを覚えるのとは何か違うものがあるんですか?
中村:覚えるという作業では一緒ですけどね。セリフが出てこなかった場合、ちょっと間を持たせたりするんですよ。昔はタバコを吸って間を持たせてましたね。先輩の役者なんかはみんなやってました。でも最近はタバコを使う芝居がないので。
ーーははあ、面白いですね、その話。
中村:俺が知ってる文学座の先輩は、セリフが出てこないと笑うって人がいましたけどね(笑)。それぞれあるんですけど、歌の場合は誤魔化しが効かない。
ーー忘れてる間も曲はどんどん進んじゃうし。
中村:ごめんなさいするしかない(笑)。歌にもよりますね。間違っちゃいけない歌ってありますからね。決め歌。「あれ?」なんて言ったら、積み木が崩れていくみたいになっちゃう歌もありますからね。
ーーわりとアップテンポの曲は、間違えても勢いで行けそうですけど。
中村:すごい切ないバラードだったりは、間違えちゃいけない感じはありますよね。そういう風にハプニングはあるから、ライブはライブの面白さと厳しさと、いろいろとありますね。
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