なぜあいみょんはブレイクしたのか? 大谷ノブ彦×柴那典が語る
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- 撮影:CINRA.NET編集部 編集:中島洋一、中田光貴(CINRA.NET編集部)
CINRA.NETでリブートした、大谷ノブ彦(ダイノジ)と、音楽ジャーナリスト・柴那典による音楽放談企画「心のベストテン」。第4回となる今回は、2018年にストリーミングサービスで人気に火がつき、その年の『第69回NHK紅白歌合戦』初出場を果たした、あいみょんについて。
なぜあいみょんはストリーミングサービスからブレイクしたのか。彼女の作り出す音楽が今の時代にどうハマって、どう作用したのかなど、音楽トークをお届けします。
あいみょんって、ストリーミングサービスから出てきた最初のスターなんですよ。(柴)
柴:大谷さん、今回はあいみょんの話をしようと思うんです。ここ最近、あいみょんにハマって『瞬間的シックスセンス』ばっかりリピートで聴いてる時期があったんですけど。
大谷:最高! ほんとに名盤ですよね。でも、僕は前々から大好きでしたけど、どうしていきなりブレイクしたんですかね?
あいみょん『瞬間的シックスセンス』を聴く(Apple Musicはこちら)
柴:あいみょんって、ストリーミングサービスから出てきた最初のスターなんですよ。彼女がブレイクしたきっかけは間違いなく“マリーゴールド”なんですけれど、チャートアクションを見ると、リリース時点のオリコンのCDランキングは25位で、決して上位に入ってないんです。
5thシングル(2018年)
柴:けれど去年の夏ごろからSpotifyやApple MusicのチャートでずっとTOP3に入っていて、そこでは確実にヒットしていた。で、去年の秋のタイミングでドラマ主題歌の“今夜このまま”がリリースされた。そこからは“君はロックを聴かない”とかの過去曲もずっと上位に位置するようになって、本格的に火がついた。
6thシングル(2018年)。日本テレビ系『獣になれない私たち』の主題歌に起用された3rdシングル(2017年)
大谷:4月に出た“ハルノヒ”もめっちゃ聴かれてますもんね。でも、ストリーミングを使ってない人は、なにがブレイクのきっかけになったのか、よくわからないんですね。
7thシングル(2019年)。『映画クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン ~失われたひろし~』の主題歌に起用された
柴:僕も去年から今年にかけて、いろんな人に「あいみょんって、いつの間に売れたの?」って訊かれました。で、1つの仮説を立てたんです。なぜあいみょんはストリーミングサービスから火がついた最初のスターになったのか。
大谷:おお! それは知りたい!
柴:一言で言うならシンプルに「曲の良さ」のおかげなんです。それが今の時代にどうハマって、どう作用したのかを紐解いていくと、すごくおもしろい話になるんですよ。
柴那典(しば とものり)
1976年神奈川県生まれ。音楽ジャーナリスト。ロッキング・オン社を経て独立、雑誌、ウェブなど各方面にて音楽やサブカルチャー分野を中心に幅広くインタビュー、記事執筆を手がける。主な執筆媒体は『AERA』『ナタリー』『CINRA.NET』『MUSICA』『リアルサウンド』『ミュージック・マガジン』『婦人公論』など。日経MJにてコラム「柴那典の新音学」連載中。CINRA.NETにて大谷ノブ彦(ダイノジ)との対談「心のベストテン」連載中。
大谷:おお、なになに?
柴:そのためには、まず、あいみょんに対しての誤解というか、こういう風に位置づけると彼女のポテンシャルを見誤るというポイントがあって。
あいみょんを女性シンガーソングライターの系譜で考えると、いろんなことが見えなくなるんですよ。たとえばユーミンがいてaikoがいてあいみょんがいる、とか。椎名林檎がいて大森靖子がいてあいみょんがいる、とか。
あとはYUIとかmiwaとか西野カナとか。そういう風に並べて「次の時代を担う女性シンガーソングライターの主役だ」と言おうとしても、全然ピンとこない。
大谷:普通は「女性シンガー」枠で考えそうだけど、それが罠だと?
柴:そう、それによって彼女のルーツを見誤る。よくよく彼女のインタビューを読み直すと、影響を受けた人にほとんど女性の名前が出てこないんです。
大谷:ああ、たしかに! よく言ってるのは、浜田省吾とか吉田拓郎ですよね。あとは小沢健二とか。みんな男性だ。
大谷ノブ彦(おおたに のぶひこ)
1972年生まれ。1994年に大地洋輔とお笑いコンビ、ダイノジを結成。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。音楽や映画などのカルチャーに造詣が深い。相方の大地と共にロックDJ・DJダイノジとしても活動。著書に『ダイノジ大谷ノブ彦の 俺のROCK LIFE!』、平野啓一郎氏との共著に『生きる理由を探してる人へ』がある。
柴:そうそう。で、CINRA.NETにデビュー当時のインタビューが載ってるんですけれど、そこで「『ギタ女』なんてダサいし、そういう括りには入りたくない」って明確に言っている(参考記事:歌を歌うだけじゃない、新世代アイコン「あいみょん」を知る)。
大谷:ありましたね、「ギタ女」ってムーブメント。アコギ弾いて歌ってる女性シンガーソングライターが、みんなそう呼ばれていた。
柴:その言葉が使われ始めた当時はAKB48とかももクロとか、女性アイドルグループの全盛期だったから、それに対してのカウンター的な意味合いもあったのかもしれない。だけど、今考えると「ギタ女」って、すごくオッサンくさいというか、男性目線の言葉ですよね。
大谷:「かわいい女の子なのにギターも弾けるんだ」みたいなね。で、あいみょんは、そういう「ギタ女」って言い方にある意味で中指を立てていた。
柴:それを踏まえて考えると、CHAIの『PUNK』とあいみょんの『瞬間的シックスセンス』が同じタイミングで出てるのは、すごく象徴的なんですよ。CHAIは「コンプレックスはアートなり」とか「NEOかわいい」とか、わかりやすいキャッチコピーを打ち出して新しい女性のあり方や価値観を表現している。
CHAI『PUNK』を聴く(Apple Musicはこちら)
柴:対して、あいみょんは曲調もフォークの系統のJ-POPだし、歌詞の女性像にも古風なところはある。それでも「ギタ女」みたいに女性のセクシャリティを商品性として打ち出すことは明らかに拒絶していた。だからジェンダーに関係ない魅力がある。
大谷:実際、ファンも男性も女性も幅広いですもんね。ほんとにみんなが好きなポップスになってる。フェスの盛り上がりも半端ないし。
柴:そうそう。で、本題は、いつ、なにがきっかけになって、あいみょんがブレイクしたか、ってことなんですよ。みんなそこを知りたがってる。
大谷:テレビが最初のきっかけですよね。僕は『スッキリ』(日本テレビ系)と『ミュージックステーション』(テレビ朝日系。以下、『Mステ』)だと思うけど。
柴:そうですよね。2018年を振り返ると、1月に『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)と『スッキリ』で「今年注目のアーティスト」として取り上げられて、2月に『Mステ』に初出演した。で、8月に『スッキリ』と『Mステ』に出て“マリーゴールド”を歌ってるので、ブレイクの背景にテレビの力があるのは間違いない。
ただ、ここで大事なポイントって、“マリーゴールド”にタイアップがついてなかったってことなんですよ。
大谷:なるほど、たしかにそうだった!
柴:こういう風にヒットが生まれると、後付けで「結局タイアップのおかげでしょう?」って言う人がいるんです。でも、少なくとも“マリーゴールド”はそうじゃない。おそらく本人にとってもスタッフにとっても勝負曲だったはずなんですけど、決して大きな仕掛けとか広告展開のようなものがあったわけじゃないんです。
『Mステ』で歌ったときの紹介VTRも「ドラマ主題歌で話題!」とか「フェスで入場規制!」とかじゃなくて「Apple Musicのランキングで上位になり注目!」という煽り文句だった。だから、あの曲に関しては本当にストリーミングサービスの再生回数が決め手になったと思うんです。
大谷:なるほど、おもしろいなあ。
プロフィール
- 大谷ノブ彦(おおたに のぶひこ)
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1972年生まれ。1994年に大地洋輔とお笑いコンビ、ダイノジを結成。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。音楽や映画などのカルチャーに造詣が深い。相方の大地と共にロックDJ・DJダイノジとしても活動。著書に『ダイノジ大谷ノブ彦の 俺のROCK LIFE!』、平野啓一郎氏との共著に『生きる理由を探してる人へ』がある。
- 柴那典(しば とものり)
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1976年神奈川県生まれ。音楽ジャーナリスト。ロッキング・オン社を経て独立、雑誌、ウェブなど各方面にて音楽やサブカルチャー分野を中心に幅広くインタビュー、記事執筆を手がける。主な執筆媒体は『AERA』『ナタリー』『CINRA』『MUSICA』『リアルサウンド』『ミュージック・マガジン』『婦人公論』など。日経MJにてコラム「柴那典の新音学」連載中。CINRAにて大谷ノブ彦(ダイノジ)との対談「心のベストテン」連載中。著書に『ヒットの崩壊』(講談社)『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)、共著に『渋谷音楽図鑑』(太田出版)がある。