「《
「クソッタレェーーーーッ!!」
武技《不落要塞》の発動に失敗したクレマンティーヌの視界一杯に広がる都合四太刀の剣閃。
”キィン!”
一の太刀、右手に握るスティレットで弾き流す。だが、腕にかすかな痺れが残る。
”グィン!”
二の太刀、左手のスティレットで弾こうとするも僅かに振り遅れた上に利き手じゃないために力負けし
”ギッ!!”
三の太刀、右手のスティレットで押さえようとするも痺れの残る手では押さえきれず、スティレットを取り落とす。
”ボギッ!”
四の太刀、左手の裏拳を当てて抑える。骨折こそするものの、刃を落とした練習用の剣だった為に斬り飛ばされることはなかった。
必殺の……勝負を決めるつもりで放った四連撃を見事防がれたためにネムの大きなドングリ眼が信じられない物を見たように大きく見開かれた。
戦士として、時には暗殺者として磨かれた目がそれを見逃す筈はない。
慢心を捨て去ったクレマンティーヌは裂帛の気合と同時にネムへ貫き手を繰り出す!
”ゴギン……”
これまでと違う酷く鈍い音だった。
そう、この戦いが始まって以来、ネムは初めて『
☆☆☆
「それまで!」
そのタイミングで
「クレマンティーヌよ。よくぞ四連撃を防ぎきった。まこと見事であったぞ」
「わきゃっ!!?」
実に武人らしくも優しげな笑みを浮かべ、クレマンティーヌの頭をちょっと乱暴な手つきでわしゃわしゃと撫でるダークウォリアーの姿があった。
「エンリ、癒してやれ」
「はいっ!」
と元気良く返事してすかさず《ミドル・キュアウーンズ/中傷治癒》をかけるエンリである。
「さて……ネム」
ピクッとバックラーをじっと見ていたネムは小さく体を揺らした。
「ふむ。少々”
そう、ネムは《盾突撃》の後に《神速》でクレマンティーヌの攻撃を回避し、直後に左手に盾を握った状態で《四光連斬》を放っていたのだ。
何やら気まずいのか、いつもはまっすぐ向けてくる目線を今はモモンガに向けようとはしない。
それを察したモモンガはネムの前に跪き、視線を合わせるようにして、
「《領域》で精度上げは行っていたし、初めて使った《超能力向上》でのブーストと、《疾風走破》で上乗せしたスピードならいけると思ったのか?」
”こくん”
かすかに頷くネムに、
「《四光連斬》は本家本元のガゼフ・ストロノーフが両手でしっかり剣を保持してさえ、ブレインに『攻撃がばらける命中率に難がある剣閃』と評される技だ。それを《領域》で補おうとしたのだろうが……結果、『一呼吸で四閃放つ斬撃』が率直に言って『斬撃を素早く四回繰り返す技』になってしまっていたよ」
クレマンティーヌがああも見事にネムの《四光連斬》を防ぎきったのは、武技その物が甚だ未完成だったからだとモモンガは見ていた。
「初めての使う技、それも相手の技をいきなり実戦使用するのは、確かに動揺は誘えるし初見殺しにもなるが……勝手がわからない以上、使いこなせるかどうかは博打になりやすい」
ここはユグドラシル時代まで含め数多のPvPをこなした歴戦の勇者、当時は現在と違いロマンビルドだったその身で勝率40%超えを誇ったモモンガ様。一家言も含蓄深い。
「まあでも……」
と笑顔で頭を撫でながら、
「”分の悪い賭けは嫌いじゃない”のも”一か八かは承知の上”なのも、きっとネムの長所であり美点なのだろう」
『それは俺には無い思い切りの良さ』だという言葉を、かつてのギルメンに「石橋を叩いて僅かな不具合でも見つかれば、自分で新たに石橋を架ける慎重さ」と評されたモモンガはあえて飲み込む。
この百年の経験で慎重すぎるのも時と場合によりにけりということを学んだが、それでも……
「まあ私としては程ほどにしてほしいところだが。可愛いネムが心配でしょうがない」
そこは仲間思いで心優しいお骨様は本質的には換わらない。
”だきっ”
感極まったのかネムが首に抱きついてきて、
”Chu CHU chu”
キスの雨を硬質でシャープな印象を持たれ易いが、端整と評していい
”ぬちゃ”
と最後は舌をからめてくるが、ネムのそれを舌を絡める事で受け入れる。
ある意味、師匠でもある
カルネ村においてはありきたりな光景であり、ネム・エモットは遥か昔に姉と同じく『神へ奉納された娘』なのだから。
”ちゅぱ”
っと舌が離れ、ネムは潤んだ瞳でじっとモモンガを見つめる。
何が言いたいのか察したモモンガは、
「
”こくん”
一説によれば殺人と麻薬とセックスは、快楽の種類としては同じだという。
生粋の戦闘者であり、純粋人間種に限定すれば明らかに強者側の上位に組み込まれる実力があるにも関わらず、幼い心と体に不完全燃焼のまま溜め込まれた熱は、少々辛い。
なまじ彼女が聡く、脳が快楽を快楽として識別/認識してる分。
「火照りが抜けないのか……困った
「ネムはずっと”こども”だもん。お館様がそうあれと望む限り」
それは即ち
「わかった」
一際優しく撫で、
「後で来なさい」
「うん♪」
どうやら反省会はここで終了らしい。
それはそれとして……
(ちょっと気にかかるな……)
モモンガはインベントリに手を突っ込み、妙にメカメカしい単眼式のゴーグルのような物を取り出し装着する。
世界観ぶち壊しなことこの上ない代物だが……
ユグドラシルの超大型アップデート”ヴァルキュリアの失墜”で追加されたこのアイテム、その名を”
もう名称からして元ネタがモロバレであるが、実に恐ろしきは……これ、第27話においてサービスが最終日の街でモモンガが買い漁り、三つ新たに手に入れた”
これを装着すると戦闘系パラメータが一律5上昇する……というもはや洒落としか思えない能力は、無論このアイテムの本懐でも本質でもない。
この”戦闘力5のスカウター”は、ざっくり言えば由来不明の未知の技術がふんだんに使われているという設定で、『相手の戦闘力全てを看破する』のだ。
そう、Lvや種族に始まり各種パラメータ、習得種族に習得スキル、習得魔法や装備全てに至るまで丸見えで、一切の隠蔽や欺瞞が問答無用にキャンセルされて通じない。
その適応範囲は広く、PCにNPC、登場モンスターやレイドボスに至るまで、対峙した者を情報学的な丸裸にしてしまう神話級らしいぶっ壊れ性能を誇るのだ。
全く穴がないかと言えばそうではなく、施設その物や罠のようなオブジェクトを見抜く力はないようだし、また同じ世界級の探知阻害系アイテムがあれば、おそらくは防げるだろう。
それでも例えばPvPのようなシチュエーションでは圧倒的なアドヴァンテージを握れることになる。
ロマンビルドの割には勝率は悪くなかったモモンガだが、それでも特性的に不利や苦戦が少なくなかった現役プレイヤー時代、喉から触手が出るほど欲しかったアイテムであり、それを最終日に手に入れられたのは実に皮肉な運命を感じる。
そんな”戦闘力5のスカウター”を装着して改めて、ふにゃふにゃに蕩けた顔をしているネムを見れば……
(なるほど……)
そして確認の為、デスペナによるレベルダウンを起こしているだろうクレマンティーヌを見れば、
(そういうことか)
詰めを誤ったとはいえ、どうして『現在のクレマンティーヌと
お読みいただきありがとうございました。
サブタイは登場世界級アイテム(オリ)が元ネタでござった(^^
そのまま斬られる(いや、模擬剣だから切れないけど)かと思ったクレマンティーヌですが、なんとか意地を見せて一方的に叩き伏せられることだけはなかったようです。
まあ今回、勝敗に関わらず一番おいしかったのはネムでしょーが。