初代のデビューから45年の歴史をもつフォルクスワーゲンのフラッグシップモデル
『パサート』は、『ゴルフ』の上級車種に位置づけられるVWのフラッグシップモデルだ。その歴史は長く、初代デビューから45年、累計販売台数は2900万台を超える。
メルセデス・ベンツ『Eクラス』、BMW『5シリーズ』、アウディ『A6』といった強力なライバルがひしめくDセグメントに属するが、そのなかにあって、シンプルなデザインと落ち着きのある存在感から『パサート』は独自の個性を放つ。8代目となる現行型は、日本国内では2015年に登場。比較的アッパークラスのモデルとして認知されている。
シリーズとしては、プラグインハイブリッドの「GTE」、ディーゼルターボの「TDI」、そのTDIエンジンを採用し、4WDシステム「4モーション」を搭載したSUVテイストの「オールトラック」などを展開。また、純正インフォテインメントシステム「ディスカバープロ」の刷新といった細やかな仕様変更を行うことで、さまざまなニーズに応えてきた。
その『パサート』がビッグマイナーチェンジを受けた。ポイントは「熟成と革新」。なかでも最大のトピックが「トラベルアシスト」と呼ばれる運転支援システムの搭載だ。
自動運転に対応したドライビング・アシスト機能。完全自動運転へのマイルストーン
「トラベルアシスト(Travel Assist)」は、0〜210km/hという広い速度域に対応した部分自動運転が可能な先進的なドライビング・アシスト機能だ。VWモデルでは『パサート』に初めて搭載される。VWのラルフ・ブランドステッターCOO(最高執行責任者)は、この新機能を「完全自動運転につながる大きなマイルストーン」と表現した。
注目は、静電容量式タッチセンサー付きの「キャパシティブステアリング(ハンドル保持検知機能)」だ。これは、ドライバーがステアリングホイールを握っているかどうか、つまり安全に気を配り、いざというときに自ら制御できるかどうかを検知する機能のこと。ドライバーがステアリングから10秒以上手を離していると、視覚信号や音声、ブレーキの脈動などを使って警告を行い、この警告にドライバーが反応しないと「エマージェンシーアシスト」が起動して自動制動によって車両が停車する。さらに、ブレーキ操作と連動した回避操作で安全性を高める「エマージェンシーステアリングアシスト」を備える。
アダプティブクルーズコントロール(ACC)も進化した。これまでの車間距離などの制御から、カーブや交差点にも対応して車速を調整できるようになった。DGS(ダイレクト・シフト・ギアボックス)モデルは渋滞などにも対応し、自動発進と自動停止も可能だ。
インフォテインメントシステムは第三世代の「MIB 3」となり、SIMカードによってインターネットに常時接続され、オンラインで最新情報を得られる。もちろんアプリを介してスマートフォンでもさまざまな操作が可能だ。「Apple CarPlay」にも対応する。
また、「フォルクスワーゲン・ウィー(Volkswagen We)」が提供するオンラインサービスとの常時接続や、スマートフォンがエンジンキーとなる「モバイルキー」機能も用意。インテリアでは、「アクティブ・インフォ・ディスプレイ」がより鮮明な表示やカスタマイズが可能なタイプにアップデートされ、ステアリングホイールが新デザインとなった。シートは、標準仕様はファブリックだが、オプションで高級レザーが複数用意されている。
パワーユニットも確実に進化した。ガソリン3種類、ディーゼル4種類をラインナップ
エクステリアには大きな変更はない。ただし、クルマの表情を決定づけるヘッドライトレンズの形状がスタイリッシュセダンの『アルテオン』のように、水平基調から外に向かって切れ上がるシャープな造形となった。「IQ.LIGHT(IQライト)」と呼ばれる次世代のLEDマトリックスヘッドライトをオプションで選択すれば、走行状況に応じた配光を実現する。
全体的には、グリルから両端に伸びるヘッドライトのラインに抑揚が加わり、さらにこちらも新デザインのフロントバンパーとフォグランプ周りのガーニッシュ形状と併せて、かなり若返った印象を受ける。リアまわりも、マフラーエンドがバンパーに一体化しているデザインに変更されたことで、よりスポーティーなイメージが強まった。
従来の『パサート』には、ベーシックな「トレンドライン」、上級グレードの「ハイライン」、その中間となる「エレガンスライン」、スポーティな「Rライン」、さらにステーションワゴンの「ヴァリアント」(メイン写真)、4WDのクロスオーバータイプ「オールトラック」が設定されてきたが、今回も同様のグレード展開が期待できるだろう。なお、先にマイナーチェンジを受けた北米仕様はまったく別のデザインをもつ。
パワーユニットは、これまで「トレンドライン」や「ハイライン」に搭載されていた1.4L TSIエンジンに代わり、最高出力110kW/150psを発揮する1.5LのTSI「エボ」エンジンが採用された。これに加えて、上級グレードには、それぞれ140kW/190ps、200kW/272psの最高出力を発揮する2.0L TSIターボエンジンが搭載される。
ディーゼルエンジンは、1.6L TDI、2.0L「エボ」、2.0L TDI、BiTDIの4タイプが用意された。プラグインハイブリッドの「GTE」も引き続き設定される見込みだ。「GTE」はバッテリー容量が13.0kWhに増強され、2021年のユーロ6d排出基準の制限値をすでに達成している。ガソリンとディーゼルにはパティキュレート(微粒子捕集)フィルターが装備され、環境にも配慮されている。なお、日本に導入されるエンジンは未定だ。
新型『パサート』は今年8月に各国で発売。ドライバーの満足度を一番に考えた進化
『パサート』は堂々たるボディサイズのプレミアカーだが、もともとシンプルで控えめなデザインをもつうえ、マイナーチェンジということで大きな変更点が少ないように見える。しかし、ドライビング・アシスト機能、安全機能、インフォテインメントシステム、そしてパワートレインと、日々運転するうえでの機能は著しく強化されている。まさに熟成というべき進化で、ドライバーの満足度を一番に考えた改良といえるのではないだろうか。
ヨーロッパでは5月から予約受けつけを開始し、8月には専用モデルが発表された北米を除く世界各国で発売される予定。熟成された『パサート』の上陸が今から愉しみだ。
Text by Taichi Akasaka
Photo by (C) Volkswagen AG
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)