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第66回 | 大人ライダー向けのバイク

これがタイの感性だ!──カフェレーサー風スーパーカブ

『スーパーカブ』はイタリアの『ベスパ』と並ぶ世界的ロングセラーだ。その累計販売台数は、じつに1億台超に上る。その記録はむろん世界最多の量産二輪車である。主戦場は東南アジアと南米にあり、それぞれの地域では人々の生活の足として、無数の『スーパーカブ』が走り回っている。しかし若者なら、ただ乗るだけではなく、自分好みに改造して愉しみたいと思うものだ。今回紹介するカスタムモデルは、そんなニーズから生まれた一台である。

タイ最大手のショップ「K-SPEED」が手がけた『スーパーカブ』のカスタムモデル

カスタムバイク、あるいはカスタムビルダーの命は、オリジナリティにあるといっても言い過ぎではない。とはいえ、奇抜さだけでは評価してもらえず、細部にわたって美しく仕上げるための技術や知識を広範に持っていなければならない。インスピレーションを実体化するのは簡単な作業ではないが、他者に認めさせる技術力が重要なのだ。

能書きはさておき、このカスタムバイクの写真を見たら理屈抜きに称賛したくなるのではないか。ベースは、ホンダが誇る世界的ロングセラーの小型バイク『スーパーカブ』。その頑丈さと扱いやすい操作性から、日本ではおもに業務用バイクとしておなじみだが、じつは汎用性も高く、海外ではカスタムベースに用いられることも多い。聞くところによれば、上海には『スーパーカブ』を電動化してしまったカスタムショップもあるという。

今回のカスタムモデルを手がけたのは、バンコクに拠点を置く「K-SPEED」というカスタムショップだ。タイ国内だけでも10店舗以上を展開する東南アジア最大手のビルダーである。この『スーパーカブ』は、やはり当地でよく知られる外装ブランド「STORM AEROPARTS(ストーム・エアロパーツ)」との技術協力によって誕生したものだという。

英国スタイルではなく、「タイの若者がカフェで自慢したくなる愛車」がコンセプト

カスタムにあたっては、まずフロントセクションを重点的に再設計した。フォーク間隔ぎりぎりの極太タイヤを履かせたうえ、ディスクブレーキ、そしてカーボンホイールカバーを取り入れ、さらに特徴的なデザインをもったフォークカバーを装着。そうすることにより、『スーパーカブ』のもつ大衆的なイメージを一新することに成功している。

トリミングされたリアエンドと、ドリルされたサイドパネルへと続くデザイン処理も、じつに見事というほかはない。ハンドルバー、フットレスト、リアショック、ショートマフラーなどの選択も、慎重に行われたであろうことが容易に想像できるのだ。

しかし、このカスタムモデルが注目を集める理由は、むしろ配色と質感が大きな要因だろう。「メタリックブラウン×マットブラック」のカラーコンビネーションは、これまでの『スーパーカブ』にはなかった洗練されたイメージだ。さらに、塗装では得られない独特のツヤは、素材に着色されたプラスチックパーツによるもの。これらのパーツはK-SPEEDとストーム・エアロパーツが共同で開発している。それゆえの完成度となったわけだ。

コンセプトは「カフェレーサー」だが、ブリティッシュスタイルではなく、タイの若者が「カフェで自慢したくなる愛車」といった存在感を感じさせる。それは、タイならではの感性とアイデアというべき個性だ。ほかの東南アジアの国々と同じように、タイでは小型バイクの存在と意義が日本とはまったく違う。タイの庶民にとってクルマはまだ簡単に乗れるシロモノではなく、多くの人々は日々の生活の足として小型バイクを利用している。

なかでも、『スーパーカブ』はその代表的な存在で、タイでは古くから現地生産もされてきた。そもそも、ホンダの本格的な東南アジア進出は、1964年にタイに設立した現地法人から始まったくらいだ。タイでは、カフェに集まった若者が『スーパーカブ』をはじめとする自分の小型バイクを自慢し合ったりするのがリアルタイムな風景なのである。

もしタイの技術力やデザイン能力を低く見ているなら、その認識をあらためるべきだ

K-SPEEDは今回のモデル以外にも、モダンレトロな『Super Power Cub』というカスタムモデルの『スーパーカブ』を製作したことがあり、そちらの仕上がりも素晴らしかった。さらに、『スーパーカブ』に限らず大型車のカスタムやカスタムパーツも手がけており、いずれのデザインも高い評価を得ている。タイ企業の開発力や加工技術を低く見る向きがあるかもしれないが、そう考えているなら認識をあらためる必要があるだろう。

エディトゥールでは、ベトナムのファクトリーによる超ユニークなカスタムバイク『ODYSSEY』を紹介したことがあるが、やはりアイデアと技術において目を見張るものがあった。経済界のみならず、アジアの未来には目を向けなければならないようだ。

今回のカスタムモデルは、現時点ではショップの宣伝用のワンオフモデルにすぎないが、いずれコンプリートとパーツのどちらでも販売されることになると思われる。K-SPEEDの特約店は日本国内にも多数あるので、日本でも購入できるようになる可能性は高いだろう。

Text by Koji Okamura
Photo by (C) K-SPEED
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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第69回 | 大人ライダー向けのバイク

ドゥカティ ディアベル1260──悪役感溢れるクルーザー

クルーザーとは、平坦で長い直線道路を巡航(クルーズ)することに重点をおいたオートバイのスタイルのことだ。ハーレーダビッドソンやインディアンをイメージするとわかりやすいだろう。広大な北米大陸で発達したことから、日本ではアメリカンバイクとも呼ばれている。それをイタリア流のセンスによって味つけしたのが、ドゥカティ『ディアベル』である。従来のクルーザーと一線を画す独創的なデザインをもつ『ディアベル』は、2011年にデビューするや世界中で大ヒット。そして今回、第二世代へと進化した。

クルーザーでも「走りはやっぱりドゥカティ」。ファンの期待に応えるキャラクター

2010年にEICMA(ミラノモーターサイクルショー)で発表された初代『Diavel(ディアベル)』は、斬新なデザインだけではなく、従来のドゥカティのイメージと異なるクルーザージャンルに挑戦したモデルとして話題を集めた。じつは、ドゥカティは2014年にフォルクスワーゲングループに属するアウディに買収され、その傘下となっている。レース由来のスポーツモデルというブランドのアイデンティティを脇に置き、経営戦略を優先した結果の新型車と見る者が多かったことも、注目された理由のひとつだったのだろう。

しかし、初代『ディアベル』は見た目以上にスポーティで、実際にライディングを味わった人々からは「やっぱり走りはドゥカティ」との評価を得ることが多い。そうしたユーザーの声は、期待どおりのキャラクターに仕上げられていることを証明するものだ。

その『ディアベル』が第二世代へと進化した。ドゥカティは3月に開催されたジュネーブモーターショーで2019年モデルの発表を行ったが、そこで専用スペースを与えられ、ショーのアイコンモデルとしてお披露目されたのが『ディアベル1260』だ。しかも、2014年のようなマイナーチェンジではなく、すべてを見直した2代目としての登場である。

低回転域でもパワフルな排気量1262ccの「テスタストレッタDVT」エンジンを搭載

アイコニックな外観は、シルエット自体に大きな変化はない。しかし、全体にボリュームアップしており、重量感も増していると感じる。トレリス(格子状)フレームもまったく新しくなり、ぱっと見た印象としては、よりヒール(悪役)感が演出されているようだ。短いシートエンドとスラッシュカットで跳ね上がるサイレンサーエンドは、リアまわりをすっきりとさせた。同時にマスが凝縮されているようで、鍛えられた筋肉を連想させる。

その細部への作り込みによる質感の高さが評価されたのか、『ディアベル1260』は第二世代であるにもかかわらず、ドイツの権威あるプロダクトデザイン賞「Red Dot Award 2019:Best of the Best(レッド・ドット・デザイン賞)」にも輝いているくらいだ。

エンジンは、初代から継承されてきた排気量1198ccの水冷L型ツインからスープアップされ、1262ccの強力な「テスタストレッタDVT」エンジンを搭載。それにより、最高出力は従来の152hp/9000rpmから159hp/9000rpmへ、最大トルクは12.5kgm/8000rpmから13.2kgm/7500rpmへとそれぞれ高められている。車体重量はドライウエイトで218kgもあるが、これだけのトルクがあれば低速域でも軽快に扱えるはずだ。

ドゥカティ自身も新エンジンについて、「息を呑む加速とスムーズな低回転域のパワー特性を備え、日常ユースにも長距離ツアーにも対応する」としている。そのパワーを受け止めるのは、『ディアベル』のトレードマークである極太のリアタイヤだ。クルマ並の240mmという超ワイドタイヤを装着し、ボッシュ製のコーナリングABSも標準装備された。

特別なコンポーネントを与えられたスポーティ仕様車『ディアベル1260 S』も設定

新型には標準仕様に加えてスポーティな「S」バージョンも設定された。こちらには、専用のシートとホイールが与えられるほか、ブレンボ製M50ラジアルマウント・モノブロック・ブレーキ・キャリパー、オーリンズ製サスペンションなどを装備。さらに、クラッチ操作をせずに変速できる「クイックシフトアップ&ダウンエボ」も標準装備される。

『ディアベル1260』は、すでに1月半ばからボローニャにあるドゥカティの本社工場で生産が始まっており、ヨーロッパでは3月から販売が開始された。日本での発売は7月ごろを予定している。4月13日には大阪で「Ducati Diavel Meeting」が開催されたが、なんとこのミーティングの参加者は現行『ディアベル』のオーナー限定だった。新型のオーナーになれば、こうした特別なイベントへの招待状がドゥカティから届くかもしれない。

Text by Koji Okamura
Photo by (C) Ducati Motor Holding S.p.A
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

動画はこちら
Ducati Diavel 1260 オフィシャル動画
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