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第16回 | トヨタの最新車デザイン・性能情報をお届け

トヨタGRスープラ──ピュアスポーツの愉しさを思い出せ

発表されることはすでに公然の秘密だったが、あえて「ついに」という言葉を使おう。新型トヨタ『スープラ』のワールドプレミアが、デトロイトモーターショーにおいて、ついに行われた。エディトゥールでも、グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードで公開された試作車を紹介済みだが、今回は、正真正銘の市販モデルを取り上げたい。

『GRスープラ』には、GAZOOレーシングが培った知見が惜しみなく注ぎ込まれている

トヨタには、伝説のテストドライバーが存在した。開発中だったレクサス『LFA』での事故で帰らぬ人となった、故・成瀬弘氏。古くは、『2000GT』やヨタハチこと『スポーツ800』のセッティングにもかかわった人物である。新型『スープラ』のマスターテストドライバーを務めたのは、その成瀬氏の弟子だ。彼は自ら、デトロイトモーターショーでその熱い想いを語った。いわく「特別な愛着を持ち、心の中で特別な場所を占めるクルマ」と。

そのマスタードライバーの名は、豊田章男氏。言うまでもない。トヨタのトップである。豊田氏は、自動車開発の聖地であるドイツのニュルブルクリンク北コースで長いあいだ運転訓練を行い、成瀬氏から運転技術を学んだ。そのときにステアリングを握っていたのが、旧型の『スープラ』だ。古い『スープラ』で走りながら、「いつか復活させたい」と密かに思い続けていたという。そして、平成最後の年、その想いは結実した。

新型『スープラ』の正式名称は『GRスープラ』。「GR」とは、トヨタの社内カンパニーで、モータースポーツやレースの知見を注ぎこんだスポーツカーの開発を行う「TOYOTA GAZOO Racing(ガズーレーシング)」が展開する本格スポーツモデルだ。すでに『GR 86』『GRヴィッツ』が存在するが、『GRスープラ』は、初のグローバルモデルとなる。

直列6気筒エンジンとFR。歴代『スープラ』の魂とDNAを受け継ぐ『GRスープラ』

『GR スープラ』は初代から数えて5世代目にあたる。先代の生産は2002年に終了しているので、じつに17年ぶりの復活だ。しかし、『スープラ』のDNAはしっかりと継承された。そのDNAとは、直列6気筒エンジンとFRだ。加えて今回は、「ホイールベース」「トレッド(左右タイヤ接地面の中心間の距離)」「重心高」の三つの基本要素にこだわり、ピュアスポーツカーにふさわしいハンドリング性能を実現したという。

「ホイールベース」は、同じくピュアスポーツである『86』よりも100mm短い2470mm。そのため、2シーターに割り切った。「トレッド」は、FR1594mm/RR1589mm。ホイールベースをトレッドで割った比率は1.55と小さく、これは優れた回頭性、つまりリニアな操作感につながっている。もちろん、コーナリング性能にとって重要な要素のひとつである前後重量バランスも、50:50を達成。「重心高」では、重心を低く保てる水平対向エンジンを搭載した『86』よりも、さらに低い重心高を実現した。

ピュアスポーツとしての走行性能を向上させている大きな要因は、もうひとつある。それが「高剛性ボディ」だ。アルミニウムと鉄を用いた骨格構造と異なる素材同士の接合強度を追求し、『86』の約2.5倍ものボディ剛性を実現した。これは、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)キャビンを採用したレクサス『LFA』をも上回っている。

余談だが、亡くなった成瀬氏は、ボディ剛性の重要性がまだ浸透していなかった時代から、スポーツ走行に欠かせない機能としてその向上を指摘し続けていたという。

こだわりのパワートレインと足回り。新型『GRスープラ』は3種類のグレードを展開

基本性能が高いからこそ、パワートレイン、足回りのこだわりも生きてくる。エンジンは2種類。ひとつは、スープラの伝統である直列6気筒エンジンだ。3.0Lツインスクロールターボで、最高出力250kW(340ps)/5000-6500rpm、最大トルク500N・m(51.0kgf・m)/1600-4500rpm、0-100km/hの加速は4.3秒である。

もうひとつは、直列4気筒ツインスクロールターボ。最高出力190kW(258ps)/5000-6500rpm、最大トルク400N・m(40.8kgf・m)/1550-4400rpm、0-100km/hの加速は5.2秒だ。いずれも、トランスミッションは8速スポーツATが組み合わされる。

足回りは、フロントにダブルジョイントスプリングストラット式、リヤにマルチリンク式の新開発サスペンションを採用した。バネ下重量の低減、高い組み付け剛性、精緻な動きを追求して開発されたという。上位グレードでは、アダプティブバリアブルサスペンションシステムを搭載。「ノーマル」「スポーツ」のいずれかを選択したドライビングモードや路面状況に応じて四輪のショックアブソーバー減衰力を最適に制御する。

電子制御テクノロジーでは、「アクティブディファレンシャル」を搭載した。VSC(車両安定性制御システム)と連携しながら、電子制御多板クラッチによって、後輪左右間のロック率を0〜100の範囲で無段階制御。たとえば、コーナーへの進入時には旋回性能と安定性を高くバランスさせたロック率を選択し、アクセルを踏み込んでコーナーを脱出する際は、ロック率を高めて最大限のトラクション性能を発揮する。

グレードは3種類が用意された。直6エンジンを搭載する最上位グレードが「RZ」、直4エンジン+アダプティブバリアブルサスペンションシステムが「SZ-R」、そして、直4エンジン+ノーマルサスペンションのベーシックグレードが「SZ」となる。

馬力やタイムよりも“感性”性能を重視した一台。日本国内では2019年春に発売予定

エクステリアそのものは、グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードで公開された試作車と同じだが、カモフラージュが外されたことで全容が明らかになった。

コンセプトは、「Condensed(凝縮された) Extreme(過激な) L6(直列6気筒) FR(後輪駆動) "TOYOTA" Sports」。その謳い文句のとおり、マッシブで筋肉の塊のようにも感じさせる外観は、直6 FRならではのロングノーズ・ショートキャビンのシルエットだ。ワイドトレッドが生み出す地を這うような低重心もスポーティーさを醸し出す。

また、「"TOYOTA" Sports」を標榜するだけあり、その源流ともいえる伝説のスポーツカー『2000GT』のエッセンスも取り入れられている。たとえば、空気抵抗低減に寄与するダブルバブルルーフの採用や、ランプを車両内側に寄せることでフェンダーのボリュームを豊かに見せ、凝縮したボディデザインとする手法などがそれだ。

インテリアは、上下に薄いインパネと高く幅の広いセンターコンソールが印象的な、典型的FRスポーツカー空間だ。ドライバーの操作性が第一に考えられており、シフトバイワイヤ式のシフトレバーや大型フルカラーヘッドアップディスプレイが採用された。

開発を担当したチーフエンジニアの多田哲哉氏は、「馬力やサーキットのラップタイムのような数値だけを追い求めるのではなく、いかにドライバーが車両と一体となって運転する楽しさを感じられるか、という感性性能を重視しています」と語る。

価格は未発表だが、日本では今年春発売とアナウンスされている。MaaS(Mobility as a service=クルマをもたず、使いたいときだけ利用するサービス)が存在感を増す今だからこそ、走る愉しさを極めたピュアスポーツカーに心惹かれるカーガイは多いはずだ。

Text by Tsukasa Sasabayashi
Photo by (C) TOYOTA MOTOR CORPORATION.
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

動画はこちら
Story of GR Supra オフィシャル動画
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第17回 | トヨタの最新車デザイン・性能情報をお届け

超屈強なフルサイズSUV──トヨタ セコイアTRDプロ

日本の自動車メーカーが作るクルマには「日本では買えない海外専用モデル」というものが存在する。とくにSUVやピックアップトラックには、北米専用モデルが多い。ホンダなら『パイロット』『リッジライン』、日産なら『タイタン』にインフィニティ『QX70』。トヨタのフルサイズSUV『セコイア』も、そのうちの一台だ。この巨大な北米専用SUVに、モータスポーツ直系のチューニングを施した「TRDプロ」が加わった。日本では見ることもその性能を堪能することもできない、アメリカならではフルサイズSUVである。

全長5mの巨大なボディに豪華な装備。トヨタ『セコイア』は北米市場で人気のSUV

アメリカでは、フルサイズSUVを持つことがひとつのステータスになっている。多用途的とは言いがたいスポーツカーと違い、日常からレジャーまで幅広く利用でき、グレードによっては高級セダンに匹敵する乗り心地を実現し、さらに頑丈な車体は回避安全の意味でも頼りがいがあるためだ。VIPやセレブレティも移動にフルサイズSUVを使うことが多い。

フルサイズに明確な基準があるわけではないが、SUVをボディサイズでセグメントしたとき、もっとも大きなクラスを指し、コンパクトやミドルに対して「ラージサイズ」とも呼ばれる。全長は5m以上、全幅は2m以上かそれに近い車両がフルサイズにあたる。

トヨタの北米市場専用モデル『セコイア(Sequoia)』も、『ランドクルーザー200』以上の巨体をもつフルサイズSUVだ。トヨタ・インディアナ工場で製造され、初代は2000年にデビュー。その後、2008年と2018年にフルモデルチェンジを受けた。SUVを名乗っているが、どちらかというと『セコイア』は4WDとしてのヘビーさよりもオンロードでの快適性や利便性を重視したクルマで、充実したインテリアによってプレミアム感を演出している。それがユーザーの嗜好を捉えているのは、好調なセールスを見れば明らかだ。

フルサイズSUVで唯一セカンドシートにスライド機構をもち、じつのところ、それも人気を支えている要素になっている。さらにサードシートのリクライニングやフルフラットも電動(オプション)なので、家族の評判が高くなるのは道理なのだ。このほか、初代から運転席の8ウェイのパワーチルトやスライド式ムーンルーフを標準装備。トライゾーン・オートエアコンも備え、Apple CarPlay、Android Auto、Amazon Alexaにも対応する。もちろんBluetoothハンズフリー電話機能とミュージックストリーミングも可能だ。

しかし、2月にシカゴでお披露目された『セコイアTRDプロ』は、標準仕様とはかなり趣が異なる。その名のとおり、これは「TRD」のバッジを冠するモデルだからだ。

FOX製のショックアブソーバーを搭載。『セコイアTRDプロ』はTRDの最新モデル

TRDは「トヨタ・レーシング・ディベロップメント(Toyota Racing Development)の頭文字だ。トヨタのワークスファクトリースチームとしてレーシングカーを開発し、そこで培った経験や技術を生かしてトヨタ車用にチューニングパーツの製作と販売を行っている。国内外の多くのレースに参戦しているが、近年では『ヴィッツ』(輸出名『ヤリス』)をベースにしたマシンでWRC(世界ラリー選手権)に参戦して注目を集めた。前身は1970年代にさかのぼり、モータースポーツマニアならずともTRDの知名度は非常に高い。

「TRDプロ」は、2014年から北米でトヨタのオフロードモデルにラインナップされているシリーズで、ピックアップトラックの『TUNDRA(タンドラ)』と『TACOMA(タコマ)』、そして日本では『ハイラックスサーフ』としておなじみのSUV『4 Runner(フォー・ランナー)』に設定されている。このTRDプロの最新作が『セコイアTRDプロ』だ。

5.7L V型8気筒ガソリンエンジンを搭載し、トランスミッションは6速AT。55.4kg-mという図太いトルクを発揮し、しかもそのトルクの90%をわずか2200rpmという回転数で得ることができる。加えて、マルチモードの4WDシステム(ほかのグレードではオプション)やロッカブル・トルセン・リミテッド・センターデフ(トルク分配式デフ)を搭載したことで、従来の『セコイア』になかった高い走破性をもつのが特徴のひとつだ。

しかし、もっとも重要なチューニングポイントはサスペンションだろう。オフロード用のショックユニットメーカーとして知られるFOX社のアブソーバーは、アルミ製の本体にインターナル・バイパスを装備し、外力の大きさによって異なる減衰機構が働く。日常の走りでは柔軟に動き、ストローク量に応じて減衰力が高まるのでボトムしにくいのだ。数多くのオフロードコンペで優れた実績を残したメカニズムで、むろん専用にチューニングされている。しかもTRDの厳しい要求に応えるため、前後で異なるユニットが採用された。

「オンとオフ」「シティとカントリー」「マニアとファミリー」をまとめて愉しむSUV

外観で目立つのは、P275/55R20タイヤを装着した20インチx8インチのBBSブラック鍛造アルミホイールと、フィニッシュがブラッククローム仕上げの単管エキゾーストだ。誇らしげに「TRD」のロゴが入れられたフロント下部のスキッドプレートは、もちろんトレイル走行中にフロントサスペンションとオイルパンを保護するのに役立つもの。また、フロントグリルも「TOYOTA」のロゴを配した専用デザインとなっている。

面白いのは、TRDのエンジニアが乗員に配慮し、キャビンの音質を改善するために周波数調整したサウンドキャンセルデバイスを採用したこと。これによって低く心地よいエキゾーストノートを提供するという。走りとは関係ないものの、ぜひ体験したい機能だ。

かつての四輪駆動車愛好者は、それ以外の自動車ユーザーと求めるデザインや装備、機能が明らかに違っていたが、技術の進歩とセンスの変遷はさまざまな境界を取り払おうとしていると感じる。「オンとオフ」「シティとカントリー」「マニアとファミリー」をまとめて愉しもう、というのが『セコイアTRDプロ』の隠れたコンセプトなのかもしれない。

Text by Koji Okamura
Photo by (C) TOYOTA MOTOR CORPORATION.
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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