滑らかなコーナリングを実現するフロント二輪、リア一輪のマルチホイールモデル
モーターサイクル好きなら、専門誌やネットなどのメディアで、その外観やメカニズムをすでに目にしたことだろう。いや、もしかすると、2015年と2017年の東京モーターショーのヤマハブースにそれぞれ展示されたプロトタイプに触れているかもしれない。
『ナイケン』は、スクータータイプの『トリシティ』と同様に、フロント二輪、リア一輪のマルチホイールモデルだ。ヤマハは、これをLMWと呼んでいる。簡単にいえば、オートバイのようにリーン(傾斜)してコーナーを旋回することのできるテクノロジーをもったリバーストライク(逆トライク)のこと。『ナイケン』は、このLMWテクノロジーに加え、専用開発の新ステアリング機構を取り入れ設計されている。。それにより、LMWならではの安定感とスポーティで滑らかなコーナリング性能、自然なハンドリングを実現した。
ちなみに、「NIKEN」という名は二つの剣を意味する造語で、フロント二輪のフォークを剣の達人の二刀流になぞらえたものだという。とにかく見た目からしてインパクトがあり、いま高速道路や峠でもっとも熱い視線を浴びているモーターサイクルなのである。
スチームパンクでレトロフューチャー。メカメカしい印象の『ナイケン』のスタイル
そのスタイルは、いかつくてメカメカしい印象を見るものに与える。目を引くのは計4本の倒立式/タンデムフォークのフロントサスペンションだ。さらに、対向ピストン4ポットラジアルマウントキャリパー・298mm径のディスクをフローティングマウント。フロントブレーキは専用の120/70R15 Vレンジタイヤの外側に配置している。
ロサンゼルスにいる筆者の友人は、『ナイケン』をひと目見て「スチームパンク!」と言った。なるほど、この独特のフロント二輪はスチームパンクの世界観に欠かせない蒸気機関の動輪と主連棒のようにも見え、どことなくレトロフューチャーでさえある。
路面を睨むつり目の二眼ヘッドライトが特徴的なフロントのワイドカウルの外側には、LEDフラッシャーを組み込んだバックミラーを装着し、内側にはネガポジ反転の専用マルチファンクションLCDメーターパネルが収められた。メーター横には12VのDCジャックを標準装備。スマホなどのデジタル機器が手放せない現代では欠かせない装備だろう。
ツーリングの快適性を格段に向上させる「クルーズコントロールシステム」を装備
パワーユニットには、ヤマハのスポーツネイキッドバイク『MT-09』をベースとする水冷DOHC 3気筒4バルブエンジンが搭載された。排気量は845cc。FIセッティングを最適化し、スポーティかつマイルドな操作性を実現する。またスポーツ走行に応えるため、トランスミッションにはレーシングモデルの『YZF-R1』と同じ強度の素材を採用した。
最高出力85kW(116ps)/10000rpm、最大トルク87N・m(8.9kgf・m)/8500rpmというスペックは『MT-09』と変わりない。そして、エンジン特性を選べる「D-MODE」の内容も『MT-09』と基本的には同じだ。「1モード(もっともスポーティなモード)」「2モード(スムーズかつスポーティな走行フィーリングを低速から高速まで楽しめるモード)」「3モード(2モードより穏やかで扱いやすい出力特性を楽しめるモード)」の3つのモードから、ライダーの好みや走行環境などによって選択することができる。
もちろん、ライダーの好みや路面状況に応じて制御の強さを「1(弱)」「2(強)」「OFF」から選べる2モード選択式のトラクション・コントロール・システム、さらにクラッチレバーの操作荷重を軽減し、同時にバックトルクによる車体挙動への影響を抑止、市街地でのストップ&ゴーを軽快にしてくれるアシスト&スリッパー(A&S)クラッチも装備する。
うれしいのは、ツーリングの快適性を格段に向上させる「クルーズコントロールシステム」も装備することだ。4速以上のギアで走行している際にセット可能で、高速道路を使ってのロングツーリングで威力を発揮する。フロント二輪の安心感と相まって、これまで経験したことのないリラックス感をモーターサイクルで味わうことができるのだ。
燃費は60km/hの定地燃費値で26.2km/L、WMTCモードでは18.1km/L。航続距離約300kmのロングツーリングのために、燃料タンク容量18Lを採用している。
ヤマハ『ナイケン』の価格は約178万円。街を流せば人々の視線を間違いなく独占
カラーリングは「ダークグレーメタリックG(ダークグレー)」の1色のみで、価格は178万2000円(税込み)。ただし、『ナイケン』は受注生産となっているので街のバイクショップには並んでいない。手に入れたいなら取扱店にて予約する必要がある。
スポーツタイプの大型LMWである『ナイケン』は、増えつつあるリターンライダーのスキル不足を手助けし、若者を含めたより多くの人たちにモーターサイクルの愉しさを広める存在となるかもしれない。なにより、これほど特徴的なルックスをもつモーターサイクルで街を流せば人々の視線を奪い、高速道路の話題も独占することだろう。
Text by Katsutoshi Miyamoto
Photo by (C) Yamaha Motor
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)