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第60回 | BMWの最新車デザイン・性能情報をお届け

BMW 1600GTコンバーチブル──レストアしたのは研修生

いまから半世紀以上も昔、BMWは同じドイツのメーカーであるグラース社を買収した。BMWは同社の車両をベースに、イタリアの著名デザイナーに依頼して二台のプロトタイプを製作。それが『1600GTコンバーチブル』と呼ばれる希少なクルマだ。歴史的な意味でも希少性でも極めて貴重なこの美しいコンバーチブルが、このたびBMWクラシックの全面サポートによってレストアを完了した。中心的にレストア作業を担ったのは、BMWのディンゴルフィン工場で見習いとして働く技術研修生のチームだったという。

『1600 GTコンバーチブル』の原型は、のちにBMW最大の拠点になる工場で誕生した

BMWがその発表を行ったのは昨年12月のことだ。いわく、現存する唯一の『1600 GTコンバーチブル』のレストア作業がこのほど完了したという。しかし、そうはいっても、1967年に製作されたこのヒストリックカーの名前すら知らない人がほとんどだろう。

ドイツ南部、バイエルン州の州都であるミュンヘンよりもチェコやオーストリア国境に近いところに、ディンゴルフィン(Dingolfing)という町がある。そこには、かつて農機具の修理から始まった機械工場があり、戦後はスクーターや小型自動車の生産によってちょっとした成功を収めた。そのメーカーの名はグラース(Glas)という。

もしかすると自動車用エンジンに初めてタイミングベルトを採用したメーカーとして知っている人もいるかもしれない。1966年にBMWによって吸収合併されたが、その開発力と従業員の質の高さから施設は拡大。現在はBMWの自動車製造工場として最大の拠点となっている。『1600 GTコンバーチブル』の原型となる車両はここで生まれたのだ。

BMWのディンゴルフィン工場の技術研修生たちが希少なコンバーチブルをレストア

BMWグループは2016年3月に創立100周年を迎え、ミュンヘン郊外にある創業当時に使用した歴史的なビルがあった住所、ムーサカー・ストラッセ66にクラシックカー部門であるBMWクラシックを移転した。同部門は、1400に及ぶ歴代モデルのコレクションと、その維持と管理、技術の保存、そして顧客のヒストリックなBMWのレストアも行っている。

そこには、たった一台のみが存在する『1600 GTコンバーチブル』のレストア作業も含まれていた。いや、むしろ「1600 GTコンバーチブル再生プロジェクト」の存在を知ったことで、BMWクラシックとして全面的サポートを申し出たというのが本当のようだ。

レストア作業の舞台となったのは、かつてグラース社のあったディンゴルフィンの工場である。中心となったのは、同工場が技術習得と人材育成を目的に行っている訓練プログラムを受ける若者たち。つまりここで見習いとして働いている技術研修生のチームだ。オリジナルパーツはBMWクラシックが多方面に手を尽くして入手し、それでも手に入らなかった多数のパーツは図面を頼りにスクラッチビルドしたという。

そうして数年をかけてレストア作業を完了し、全世界に公開されたのがご覧のクルマだ。シルバーのボディカラーに、ワインレッドのソフトトップと同色の内装をもつ4人乗りのコンバーチブルは、なんとも上品かつ愛らしく、その風貌はとても魅力的に映る。

現存するのは今回レストアされた一台のみ。歴史的にも貴重な世界に一台だけのBMW

もともと『1600 GTコンバーチブル』は、グラース社と縁のあったイタリアの天才カーデザイナー、ピエトロ・フルア(Pietro Frua)にBMWが依頼して製作されたものだ。試作車は二台のみで、1967年秋にラインオフ。しかし、そのうち一台はテストドライブ中に不運な事故を起こし、スクラップとなってしまった。残る一台はナンバープレートを得て公道走行可能となったが、こちらもドラマチックな運命をたどることになる。

最初のオーナーはハーバート・クワント氏。当時のBMWの大株主で、ダイムラー・ベンツに買収されそうになったBMWの株を買い増しして独立を守った立役者だ。もちろん彼は数台のBMWを所有していたが、この美しく希少なコンバーチブルにはほとんど乗ることがなく、数年間にわたり手元で大切に保管していたという。

その後、『1600 GTコンバーチブル』の存在を知ったクワント氏の友人に請われて手放してしまうと、以後は個人所有者のもとを転々とする。なかにはミュンヘンのファッションモデルやクルマ好きのビジネスマンなどもいたが、ミュンヘンに本拠を置く保険会社のエンジニアリング部門がその価値を見出し、保管するにいたった。

もとはクーペだった『1600 GT』がコンバーチブルとして試作されたのは、商社と組んでアメリカ西海岸の顧客をターゲットに量産を目指したためだったという。計画は実現しなかったが、『1600 GTコンバーチブル』がBMWを弱小メーカーから大手メーカーへと飛躍させるひとつのきっかけとなったのはたしかである。1967年の製造帳簿に「完成車」として登録された歴史的にも貴重で、間違いなく世界で一台だけのBMWなのだ。

Text by Koji Okamura
Photo by (C) BMW AG
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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第62回 | BMWの最新車デザイン・性能情報をお届け

最上級で贅沢なオープン──BMW 8シリーズ カブリオレ

初夏になると、クルマのルーフを開けてオープンエアを愉しみたくなる。しかし、この新型オープンモデルが似合う場所は、蒸し暑い日本の夏ではなく、地中海やマイアミの高級リゾート地なのかもしれない。それほどまでに、贅沢でエレガントなのである。昨年、じつに20年ぶりとなる復活を遂げたBMW『8シリーズ』。このフラッグシップクーペに今回、カブリオレが追加された。「最上級」という言葉がふさわしいオープントップモデルだ。

クーペの美しさと運動性能、オープンモデルならではの開放感や優雅さを兼ね備える

ヨーロッパの人々は太陽を浴びることが大好きだ。ほとんどのラグジュアリークーペには、当然のようにオープントップモデルが設定されている。昨年6月、ル・マン24時間レースにおいて、およそ20年ぶりに復活したBMW『8シリーズ』が発表されたときから、多くの自動車ファンはカブリオレの登場を予感していたことだろう。そもそも、BMWには開発当初からオープンモデルをラインナップに追加する前提があったに違いない。

BMW『8シリーズ カブリオレ』は、『6シリーズ カブリオレ』の実質的な後継となるオープントップモデルである。むろん、ベースは最上級クーペの『8シリーズ クーペ』。低く伸びやかなシルエット、美しいルーフライン、艶麗なリヤフェンダーの造形が醸し出す優雅さ。そうした官能的な個性が際立つ『8シリーズ クーペ』の美しいデザインと運動性能をそのまま受け継ぎながら、オープンモデルならではの開放感や優雅さを備える。

エクステリアでは、リヤホイールへの力感を表現するボディサイドのキャラクターラインが目を引く。さらに、キドニーグリルやデッキを取り囲むモールディングなどにクローム加飾をアクセントとして採用。専用の20インチ・マルチスポークホイールの繊細なデザインと相まって、クーペ以上に洗練されたラグジュアリーさを強く感じさせる佇まいだ。

滑らかな流線形を描く電動式ソフトトップ。シフトノブはなんとクリスタル仕立て!

ルーフは電動式のソフトトップで、エレガントなボディ造形にふさわしく、滑らかな流線形を描くように丸みを帯びたデザインとなっている。ルーフを閉じた状態でも、上質さや優雅さはまったく損なわれない。ルーフは時速50km/h以下なら走行中でも約15秒で開閉することが可能だ。ルーフオープン時もラゲッジルームは250Lの容量を確保する。

室内は、エクステリアと見事に調和した高級感をまといつつ、前後方向への意識を強調するように設計されているのが特徴だ。具体的には、乗員の視線が自然と前方へ向かい、走りへの期待感を煽るようなデザインとなっている。また、高い操作性を確保するためにスイッチ類をグループ分けし、ドライビングを妨げないポジションにわかりやすく配置した。

注目は非常に高い透明度のクリスタルで作られたシフトノブ。クラフテッド・クリスタル・フィニッシュを採用し、なかから数字の「8」が浮かび上がる仕様となっている。シートはベンチレーション付きの上質なメリノレザー。アンビエント・ライトを標準装備しているので、ラグジュアリーオープンモデルであることを乗るたびに感じさせてくれるだろう。

『8シリーズ カブリオレ』の加速性能はピュアスポーツカー並。価格は1838万円

搭載されるパワーユニットは、『8シリーズ クーペ』と同様の4.4L V型8気筒ガソリンエンジン。最高出力530ps/5500-6000rpm、最大トルク750Nm/1800-4600rpmを発生し、8速スポーツAT(ステップトロニック付き)を組み合わせる。0-100km/h加速は「8」の名にふさわしく、3.9秒を実現。これはピュアスポーツカーに匹敵する動力性能だ。

なお、ドイツ本国やヨーロッパでは上記のエンジンを積む「M850i xDrive」のほかに、経済的な3.0L直列6気筒ターボディーゼルエンジンを搭載する「840d xDrive Mスポーツ」も選べるが、日本国内で販売されるのは現時点で「M850i xDrive」のみとなっている。

価格は『8シリーズ クーペ』より124万円アップとなる1838万円。高価なうえに、これだけのラグジュアリーオープンが似合うロケーションは国内ではなかなか見当たらない。とはいえ、オープンエアの季節だけに、所有欲を強く刺激するのはたしかだろう。

Text by Kenzo Maya
Photo by (C) BMW AG
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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