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第63回 | 大人ライダー向けのバイク

まるでトロンの世界──元F1ドライバーのカスタムバイク

40代以上の読者なら、1982年の『トロン』というSF映画を覚えているかもしれない。世界で初めてコンピュータグラフィックスを全編に導入したことで知られる作品だ。その28年ぶりの続編が2010年公開の『トロン・レガシー』。この映画に登場する近未来バイク『Light Cycle』は、実際に製品化されたことでも話題となった。じつは最近、この『トロン』の近未来バイクを彷彿とさせる途轍もないカスタムバイクが登場して大きな注目を集めている。開発者の名はタルソ・マルケス。そう、元F1ドライバーである。

その名は『デュモン』。もはやカスタムバイクというよりモダンアートのような外観

F1グランプリのファンでも、タルソ・マルケスという名を覚えている人は少ないのではないか。経済動向の影響を受けやすいF1サーカスは、才能がありながらチャンスを与えられなかったドライバーを数多く生んだが、マルケスも間違いなくそのひとりだ。

彼は今、母国であるブラジル国内のレースを中心に活動しているが、じつは航空機やボートのカスタムを手がけ、各種の競技用パーツを開発して成功を収めている。さらに、カスタムバイクビルダーとしての名声も得ているようだ。しかし、そのクレイジーで独創的な仕上がりは、もはやカスタムバイクというよりモダンアートと呼ぶべきかもしれない。

マルケスの開発チームはTMC(Tarso Marques Concept)といい、彼らが数年がかりで完成させたその独創的なカスタムバイクは『デュモン(Dumont)』という。

ご覧のとおり、そのルックスはもはや奇抜というレベルを超えているが、じつはこの『デュモン』、2018年のデイトナ・バイク・ウィークで開催されたカスタムコンペで「Best in Show」に輝いているのだ。権威あるアワードが興味本位でタイトルを与えるわけがなく、マルケスの企画力と技術力の両面が評価されたことの証明になっているのである。

ロールス・ロイスの航空機用エンジンを搭載し、36インチのハブレスホイールを装着

片側3気筒ずつ真横に飛び出したエンジンは、ロールス・ロイスが製造した航空機用の水平対向6気筒で、標準仕様なら排気量は5000cc、最高出力は300hpだ。

エンジン単体車重は120kgを超え、その巨大な心臓を支えるのは、なんと36インチという大径のハブレスホイール(スポークもハブもないホイール)である。ハブレスなのでスピンドルを介するサスペンションの概念はなく、強力なトルクを伝達するドライブユニットの詳細も不明。しかし、ちゃんと走れることはTMCが公開している映像で確認できる。それも、映像を見るかぎり快適そうだ(ただし、航空機用エンジンなので爆音が凄まじいが)。

航空機用エンジンを搭載したカスタムバイクはめずらしくないが、とはいえ、ここまでオリジナリティに溢れてチャレンジングなカスタムモデルは見たことがない。

じつは、マルケスがここまで強烈な個性を実体化したのにはいくつか理由があった。ひとつは、『デュモン』という名の由来と大きく関係している。デュモン(Dumont)とは、アルベルト・サントス=デュモンのこと。発明家であり航空機設計者、そしてヨーロッパにおける飛行家のパイオニアで、平和主義者としても知られたブラジルの偉人である。

デュモンはライト兄弟に遅れはしたものの、動力飛行の開発によって賞金を得て、慈善活動に使い、さらに飛行原理を広く知らしめるために設計図を公開した。マルケスは同じブラジル人としてデュモンをオマージュし、自分が生んだバイクにその名をつけたのだ。

もうひとつは、このカスタムが「純粋なブラジルの技術と設備」で作られたこと。設計はもちろん、加工機械もブラジル製で、マルケスはブラジル国内で調達されたパーツをブラジル人の手で組み上げることに執着した。それによってブラジルの技術力と感性を世界にアピールしたかったのだろう。その手法として選んだのが『デュモン』だったのである。

マルケスがメイド・イン・ブラジルの独創的すぎるカスタムバイクを製作した理由

F1ドライバーとしてのタルソ・マルケスは、1996年のブラジルGPでデビューし、何シーズンかのブランクを経て2001年のベルギーGPがラストレースとなった。在籍したのはいずれもイタリアのコンストラクター、ミナルディだ(2005年にレッドブルに買収されたのち、2006年シーズンからスクーデリア・トロ・ロッソへと移行した)。ちなみに、2001年シーズンにチームメイトだったのは、あのフェルナンド・アロンソである。

ミナルディといえば、小規模チームの典型で、いつも財政難に陥っている万年テールエンダーとの印象が強い。まさにそれこそマルケスがF1で成績を残せなかった原因だ。1996年にいたっては、全レースでリタイアを余儀なくされている。カートレース、南アメリカF3、そしてF3000と、数々のレースで最年少優勝者の記録を作りながら、F1ではいいマシンに恵まれず、そればかりかスポンサーをもつドライバーにシートを奪われた。

そのマルケスが今度はビルダーとして、メイド・イン・ブラジルの独創的なカスタムバイクで世界を驚かせているわけだ。なおマルケスの年齢は、まだ若干43歳である。

Text by Koji Okamura
Photo by (C) Tarso Marques
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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TMC Dumont オフィシャル動画
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第69回 | 大人ライダー向けのバイク

ドゥカティ ディアベル1260──悪役感溢れるクルーザー

クルーザーとは、平坦で長い直線道路を巡航(クルーズ)することに重点をおいたオートバイのスタイルのことだ。ハーレーダビッドソンやインディアンをイメージするとわかりやすいだろう。広大な北米大陸で発達したことから、日本ではアメリカンバイクとも呼ばれている。それをイタリア流のセンスによって味つけしたのが、ドゥカティ『ディアベル』である。従来のクルーザーと一線を画す独創的なデザインをもつ『ディアベル』は、2011年にデビューするや世界中で大ヒット。そして今回、第二世代へと進化した。

クルーザーでも「走りはやっぱりドゥカティ」。ファンの期待に応えるキャラクター

2010年にEICMA(ミラノモーターサイクルショー)で発表された初代『Diavel(ディアベル)』は、斬新なデザインだけではなく、従来のドゥカティのイメージと異なるクルーザージャンルに挑戦したモデルとして話題を集めた。じつは、ドゥカティは2014年にフォルクスワーゲングループに属するアウディに買収され、その傘下となっている。レース由来のスポーツモデルというブランドのアイデンティティを脇に置き、経営戦略を優先した結果の新型車と見る者が多かったことも、注目された理由のひとつだったのだろう。

しかし、初代『ディアベル』は見た目以上にスポーティで、実際にライディングを味わった人々からは「やっぱり走りはドゥカティ」との評価を得ることが多い。そうしたユーザーの声は、期待どおりのキャラクターに仕上げられていることを証明するものだ。

その『ディアベル』が第二世代へと進化した。ドゥカティは3月に開催されたジュネーブモーターショーで2019年モデルの発表を行ったが、そこで専用スペースを与えられ、ショーのアイコンモデルとしてお披露目されたのが『ディアベル1260』だ。しかも、2014年のようなマイナーチェンジではなく、すべてを見直した2代目としての登場である。

低回転域でもパワフルな排気量1262ccの「テスタストレッタDVT」エンジンを搭載

アイコニックな外観は、シルエット自体に大きな変化はない。しかし、全体にボリュームアップしており、重量感も増していると感じる。トレリス(格子状)フレームもまったく新しくなり、ぱっと見た印象としては、よりヒール(悪役)感が演出されているようだ。短いシートエンドとスラッシュカットで跳ね上がるサイレンサーエンドは、リアまわりをすっきりとさせた。同時にマスが凝縮されているようで、鍛えられた筋肉を連想させる。

その細部への作り込みによる質感の高さが評価されたのか、『ディアベル1260』は第二世代であるにもかかわらず、ドイツの権威あるプロダクトデザイン賞「Red Dot Award 2019:Best of the Best(レッド・ドット・デザイン賞)」にも輝いているくらいだ。

エンジンは、初代から継承されてきた排気量1198ccの水冷L型ツインからスープアップされ、1262ccの強力な「テスタストレッタDVT」エンジンを搭載。それにより、最高出力は従来の152hp/9000rpmから159hp/9000rpmへ、最大トルクは12.5kgm/8000rpmから13.2kgm/7500rpmへとそれぞれ高められている。車体重量はドライウエイトで218kgもあるが、これだけのトルクがあれば低速域でも軽快に扱えるはずだ。

ドゥカティ自身も新エンジンについて、「息を呑む加速とスムーズな低回転域のパワー特性を備え、日常ユースにも長距離ツアーにも対応する」としている。そのパワーを受け止めるのは、『ディアベル』のトレードマークである極太のリアタイヤだ。クルマ並の240mmという超ワイドタイヤを装着し、ボッシュ製のコーナリングABSも標準装備された。

特別なコンポーネントを与えられたスポーティ仕様車『ディアベル1260 S』も設定

新型には標準仕様に加えてスポーティな「S」バージョンも設定された。こちらには、専用のシートとホイールが与えられるほか、ブレンボ製M50ラジアルマウント・モノブロック・ブレーキ・キャリパー、オーリンズ製サスペンションなどを装備。さらに、クラッチ操作をせずに変速できる「クイックシフトアップ&ダウンエボ」も標準装備される。

『ディアベル1260』は、すでに1月半ばからボローニャにあるドゥカティの本社工場で生産が始まっており、ヨーロッパでは3月から販売が開始された。日本での発売は7月ごろを予定している。4月13日には大阪で「Ducati Diavel Meeting」が開催されたが、なんとこのミーティングの参加者は現行『ディアベル』のオーナー限定だった。新型のオーナーになれば、こうした特別なイベントへの招待状がドゥカティから届くかもしれない。

Text by Koji Okamura
Photo by (C) Ducati Motor Holding S.p.A
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

動画はこちら
Ducati Diavel 1260 オフィシャル動画
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