上陸するのは125ccと250cc。ヨーロッパで人気のレトロモダンなトラッカースタイル
MUTT-mcが日本に輸出するのは、125ccが6モデル、250ccが4モデルの合計10モデル。いずれもヨーロッパでトレンドとなっているトラッカースタイルをもち、ダークなカラーリングとシンプルなパーツ構成が特徴のモデルばかりだ。1970年代のバイクを彷彿とさせる雰囲気だが、1960年代の英国車を想起させるところもあり、普段使いできる手軽な車格と相まって、レトロモダンとしてヨーロッパで人気を得ている。
正規代理店として日本での販売やメンテナンスを手がけるのは、二輪ではノートンやモリーニ、四輪ならフォードなどを販売するPCI(ピーシーアイ)だ。ピーシーアイは、自動車ディーラーを世界展開している上場企業「VTホールディングス」の100%出資によって2004年に設立された輸入販売業者で、提携ブランドを積極的に拡大している。
とはいえ、ピーシーアイが扱うブランドを見ると、必ずしも拙速な利益を優先しているようには思えない。バイクにせよクルマにせよ、一般受けするというより、どちらかといえば愛好家や趣味人が喜びそうなブランドばかりが並んでいる。大げさに言えば、そこにはモータリゼーションを支えようという気概を感じることもできるのだ。
その筋で有名な“チョッパーおたく”が製作した普段着のように使えるカスタムバイク
MUTT-mcのモデルが支持されている理由は、スタイルや機能性ばかりではなく、ビルダーとしてのバックボーンにもあるようだ。ブランドの代表者は、先駆的で非常に高価なカスタムハーレーを30年にわたって製作し、世界的にその名が知られているBenny Thomas(ベニー・トーマス)。ブランドの前身はBoneshaker Choppers(ボーンシェーカー・チョッパーズ)。そう聞けば、ハーレーフリークは大いに驚くのではないだろうか。
トーマスは自他ともに認める“チョッパーおたく”である。チョッパーは「ぶった切る」という意味で、ノーマルパーツをぶった切って作るオートバイのスタイルのこと。トーマスはこの分野のパイオニアであるアレン・ネスやジェフ・マッキャンに憧れ、“デンバー・スタイル”を生んだデンバー・マリンズを超えたいと願っていた。その一方、人々に広く愛されるバイクを作り、自分自身もそんなオートバイがほしいとも考えていたという。
彼はこう語っている。「私は長い間、ハイエンドなヴィンテージのカスタムバイクばかりを作ってきた。だが、MUTT-mcでは多くの人にとって身近なものを作りたかった。普段着のように使えて、安いだけでなく信頼性の高いモーターサイクルを作るべきだ」と。
そうして製作したのが125ccの小型車だ。搭載される単気筒エンジンはスズキ『GN125』から派生した中国製(スズキは中国の複数の工場と提携している)。このエンジンはシンプルで耐久性が高く、デザイン的にも優れていたことからトーマスの目にとまった。
その後、250ccモデルの生産を始めるのだが、こちらのエンジンもスズキ『DRシリーズ』や同じくスズキのデュアルパーパスモデル『グラストラッカー』でお馴染みである。それらのエンジンを元にトーマス自身が仕様を決め、ふさわしい味付けを施している。
販売開始は今年春。価格は125ccモデルが約50万円、250ccモデルが約60万円?
はたして生み出されたバイクたちは、じつにスタイリッシュだ。そのありようは時間を超えた個性を放ち、むしろ乗り手にセンスが要求されるむずかしさがあるかもしれない。
シティ(ロンドン市街)にこそ似合うのかもしれないが、この一台によってその場の雰囲気を変えてしまうほどの力もありそうだ。価格は125ccが50万円前後、250ccが60万円前後と考えられている。発売は2019年春を予定しているという。
冒頭に記したように、トーマス率いるMUTT-mcは拠点をバーミンガムに置いている。ここはロンドンとリヴァプールの中間地点に有る工業都市で、かつて世界一のバイクメーカーだったBSAの本社があった場所としても有名だ。現在も多くの自動車・バイク関連の工場が並び、ナショナル・モーターサイクル・ミュージアムもある。
ベニー・トーマスは自分が英国人であること、そしてMUTT-mcが英国産であると主張するためにも、バーミンガムで作り出していかなければならないと考えている。
Text by Koji Okamura
Photo by (C) MUTT MOTORCYCLES
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)