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第8回 | フォードの最新車デザイン・性能情報をお届け

コーチドアのコンチネンタル──リンカーン80周年を祝う

高度経済成長期を過ごした人なら、リンカーン『コンチネンタル』という名に特別な思いを抱くのではないか。雄大かつ荘厳なスタイリングは、アメリカンドリームの象徴で、日本でも成功者の証として憧れの的となった。初代のデビューは、ちょうど80年前となる1939年。それを記念して限定80台のみが発売されたのが、『コンチネンタル80thアニバーサリー・コーチ・ドア・エディション』である。1961年に登場した4代目『コンチネンタル』をモチーフに、後ヒンジの「コーチドア」を採用したまさに特別な一台だ。

リンカーン『コンチネンタル』は大きいことが正義だった時代のアメリカンサルーン

成功者が乗るサルーンというと、メルセデス・ベンツやベントレーなどの欧州車を思い浮かべるかもしれない。しかしそれは日本が裕福になって以降の話。かつてはアメリカ車が高級サルーンの代名詞だったのだ。少なくとも、1970年代までの日本においては。

ブランドでいえばGMの「キャデラック」とフォードの「リンカーン」が二大巨頭。とりわけ1939年のリンカーンブランド誕生時からラインナップされたフラッグシップサルーンの『コンチネンタル』は、その威風堂々とした存在感から多くの経営者や著名人が愛用していた。1970年登場の5代目にいたっては、全長5715mm×全幅2022mm×全高1415mmという巨大さだ。当時のアメ車は、大きいことこそが正義だったのである。

しかし、1980年代に入るとアメ車は冬の時代を迎え、『コンチネンタル』も2002年モデルを最後に生産終了。2016年に新型が登場して『コンチネンタル』の名が復活するまでに15年近くの月日を必要とした。今回の『コンチネンタル80thアニバーサリー・コーチ・ドア・エディション』は、この10代目『コンチネンタル』をベースとしている。

モチーフはJFKがパレードした4代目。ロングドレスの女性を優雅に見せるコーチドア

ベースの10代目『コンチネンタル』は、2007年に発表された『MKS』(当初の車名は『リンカーン ゼファー』)の後継モデルとして登場した。5m超の全長と2mに迫る全幅をもったアメ車らしさが横溢するフルサイズの4ドアセダンだ(日本未導入)。

『コンチネンタル80thアニバーサリー・コーチ・ドア・エディション』の最大の特徴は、この標準仕様の大きなボディをさらにストレッチしてホイールベースを6インチ延長し、後席のレッグルームを拡大するなど、居住性を大きく向上させたこと。そしてなんといっても、それにともなって後席ドアを後ヒンジの「コーチドア」とした点にある。

コーチドアは、ドア開けたときに室内を美しく見せ、乗り降りする際に身体の向きを変える必要がないことから、乗員の振る舞いも優雅に見せることが可能だ。たとえば、ロングドレスの女性が乗車したとき、より美しい所作でクルマを降りられる利点がある。ロールス・ロイスが全モデルにコーチドアを採用しているのも、おもにそういった理由からだ。

モチーフとなったのは4代目『コンチネンタル』。いまから56年前の1963年11月、アメリカ第35代大統領のジョン・F・ケネディは訪問先のテキサス州ダラスでのパレード中に暗殺された。このときJFKが乗車していたのが4代目『コンチネンタル』だ。このクルマはオープンカーだったが、セダンは後ヒンジのコーチドアを採用していた。

『80thアニバーサリー・コーチ・ドア・エディション』は発表後2日で全台が完売!

コーチドアを開けると、パススルーコンソールと呼ばれる大型のセンターコンソールを備えた2名がけの後席が目に飛び込んでくる。パススルーコンソールにはタブレットホルダーやワイヤレス充電器を備えた収納式のテーブルなどを内蔵し、オーディオにはハーマンインターナショナルの「Revel Ultima」を採用、室内はアクティブノイズコントロールにより静寂に保たれ、高い快適性と同時にオーディオを楽しめる環境も実現している。

パワーユニットは、最高出力400ps、最大トルク542Nmを発生する3.0L V6ツインターボ。「ノーマル」「コンフォート」「スポーツ」の三つのドライビングモードを備える。発表されたモデルは、淡いライトパープルのボディカラーにアイボリーのレザーを組み合わせているが、オーナーはリンカーンのカスタムプログラム「リンカーンブラックレーベル」によって、内外装ともに自由な仕様を選択することができるという。

もっとも、この特別な『コンチネンタル』は1月のデトロイトモーターショーで発表された後、残念ながらわずか2日間で限定80台が完売してしまったようだ。アメリカの人々にとって、今もリンカーン『コンチネンタル』は特別なクルマなのである。

Text by Muneyoshi Kitani
Photo by (C) Ford Motor Company
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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第10回 | フォードの最新車デザイン・性能情報をお届け

マスタング シェルビーGT500──これぞマッスルカーだ

フォードは北米市場でセダン系車種の生産を終了し、今後はSUVとピックアップトラックに注力する方針を明らかにしている。2020年以降の「Ford」ブランドは、SUVとピックアップトラックがラインナップの大半を占めることになるのだ。ただし、例外の車種もある。その筆頭が『マスタング』だ。このクルマは、フォードの歴史に燦然と輝く大ヒットモデルであり、今も世界中に多くの根強いファンをもつ。逆にいうと、SUVとピックアップトラック以外のフォード車に乗りたければ、もう『マスタング』しか選択肢がなくなるかもしれない。そうしたなか、フォードから途轍もないモデルが登場した。700馬力を誇るマスタング史上最強のマッスルカー、『マスタング・シェルビーGT500』である。

初代は最高出力355hpの V8エンジンを搭載する1967年登場の『シェルビーGT500』

今年1月にデトロイトで開催された自動車ショーでフォードが発表した新型『マスタング・シェルビーGT500』は、多くのファンとメディアを唸らせた。フォードのモータースポーツ部門であるフォード・パフォーマンスによって設計されたそのクルマは、間違いなくフォード史上もっともパワフルで速い、「史上最強のマスタング」だったからだ。

『マスタング・シェルビーGT500』を紹介するには、まず「シェルビーGT(シェルビー・マスタング)」というモデルの成り立ちについて説明しておく必要があるだろう。

初代『マスタング』は、1964年に発売されると瞬く間に世界のスポーツカー市場を席巻したアメリカ自動車史の金字塔だ。迫力あるスタイリングとパワフルなエンジンは、アメリカ人の意志を示した力強さの象徴でもあった。この初代『マスタング』をベースにレース用のチューンアップを施したのが、1965年に誕生した『シェルビーGT350』である。

1965年当時、アメリカの自動車レース統括組織である「SCCA」主催のプロダクションレース(市販車改造レース)に出場するには、「100台以上の製造と一般販売」の実績によってホモロゲーション(承認)を得る必要があった。そこで、フォードはレーシングドライバーでありカーデザイナーでもあったキャロル・シェルビーに『マスタング』のチューンナップを依頼する。シェルビーが手がけたロードカーの『シェルビーGT350』はヒットモデルとなり、2年後には排気量7000ccのV8エンジンに換装して最高出力を355hpにアップした『シェルビーGT500』も登場。空力を見直してスタイリング面も魅力的になった『シェルビーGT500』は、まさにマッスルカーの名にふさわしい存在となった。

「シェルビー・マスタング」はその後、1969年に生産を終了するが、2007年に6代目『マスタング』をベースに復活。そして今回、「シェルビー・マスタング」シリーズの頂きに立つ「シェルビーGT500」の2020年モデルがデトロイトでお披露目されたのだ。

最高出力はなんと700馬力。加速力はスーパーカークラスで日産『GT-R』よりも速い

注目すべきは、やはりパワートレインだろう。イートン社のルーツ式スーパーチャージャーを備える5.2LのV型8気筒エンジンには専用チューンが施され、その最高出力はじつに700hp超を発揮する。この強力な心臓部に組み合わされるトランスミッションは、TREMEC製の7速DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)で、ギアシフト時のラグはわずか0.1秒未満とされている。これは間違いなく生身の人間をしのぐ速さだ。

このDCTは、「フルオートマチック」「セミオート・パドルシフトモード」「フルマニュアル・パドルシフト」の3種類のモードから選択することができる。マニュアルミッションを選べることにうれしさを感じる『マスタング』ファンは多いに違いない。

そのパフォーマンスは圧倒的といってよく、0-60マイル(97km/h)加速は3秒台半ば、0-400mの加速は11秒以下という強烈さ。これはまさにスーパースポーツ級で、0-400mにいたってはFR(後輪駆動)でありながら4WDの日産『GT-R』を上回るほどだ。開発チームはストリートモデル最強を目指したとのことだが、その言葉も納得できる。

戦闘機からインスピレーションを得たエクステリアは、機能的かつマッシブで威嚇的

2020年型『シェルビーGT500』の開発を担ったのは、前述したとおり、フォードのモータースポーツ部門のフォード・パフォーマンスだ。開発チームはアメリカ・ノースカロライナ州にあるフォードのモータースポーツテクニカルセンターを活用し、トップクラスのレーシングチームと同様に風洞実験を重ねてこのクルマのスタイリングを完成させた。その筋肉質で威嚇的でさえあるエクステリアは、戦闘機から着想を得ているという。

上下2段のダブルフロントグリルは、開口面積が『シェルビーGT350』から2倍以上も拡大され、冷却効率を50%以上増やすために6つの熱交換器が収められた。ボンネット上で目を引く31×28インチもの大きなルーバー付きフードベントは、風による排熱効果を高めるのと同時に、よりフロントのダウンフォースを得られる形状になっている。

マッスルカーは加速性能ばかりに目がいきがちだが、この『シェルビーGT500』はけっしてドラッグレースだけが得意な直線番長ではない。テストロードやサーキットでの試走を繰り返し、サスペンション・ジオメトリーはボディ設計から見直した。さらに、各種ドライブモードを選択できる専用開発のECU(エンジンコントロールユニット)と併せ、サーキットでのコーナリング性能の高さも重要なアピールポイントとなっているのだ。

強大なパワーを支える足元には、20インチホイールにカスタムメイドのミシュランタイヤを装着し、16.5インチ(420mm)という大径のディスクブレーキを備える。さらに、オプションでカーボンファイバー・トラックパッケージを選択すると、専用開発のミシュラン・パイロット・スポーツ2を履いたカーボンファイバー製ホイールに変更される。パッケージには、角度調整が可能なカーボンファイバー製GT4リヤウイング&スプリッターが含まれるが、その場合は軽量化のためにリヤシートが取り除かれるという。

なお、歴代の「シェルビー・マスタング」に受け継がれてきた"COBRA"のバッジとボディのストライプは、2020年モデルの『シェルビーGT500』でも健在である。

キャロル・シェルビーはオリジナルの『GT500』こそ「本物のクルマ」と呼んでいた

内装は基本的に『GT350』を継承した。しかし、ダークスレートスエードとカーボンファイバー製のインパネ、サイドボルスタリング式のレカロ製シートがレーシーな雰囲気を演出し、12インチのフルカラーメーターや8インチタッチスクリーンを組み合わせる新世代インフォテイメントシステム、12スピーカーを駆動するバング&オルフセンのオーディオセットが2020年モデルの『シェルビーGT500』であることを主張している。

キャロル・シェルビーは2012年に亡くなってしまったが、生前にはオリジナルの『シェルビーGT500』を「私が誇りに思う本物のクルマ」と呼んでいたという。2020年モデルの『シェルビーGT500』にいったいどんな感慨を持っただろうかとついつい思いを馳せてしまうが、現代にその名が受け継がれていることは開発者として名誉なことに違いない。『シェルビーGT500』2020年モデルは、今年後半に北米で発売される見込みだ。

Text by Koji Okamura
Photo by (C) Ford Motor Company
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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2020 Ford Mustang Shelby GT500 オフィシャル動画
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