リンカーン『コンチネンタル』は大きいことが正義だった時代のアメリカンサルーン
成功者が乗るサルーンというと、メルセデス・ベンツやベントレーなどの欧州車を思い浮かべるかもしれない。しかしそれは日本が裕福になって以降の話。かつてはアメリカ車が高級サルーンの代名詞だったのだ。少なくとも、1970年代までの日本においては。
ブランドでいえばGMの「キャデラック」とフォードの「リンカーン」が二大巨頭。とりわけ1939年のリンカーンブランド誕生時からラインナップされたフラッグシップサルーンの『コンチネンタル』は、その威風堂々とした存在感から多くの経営者や著名人が愛用していた。1970年登場の5代目にいたっては、全長5715mm×全幅2022mm×全高1415mmという巨大さだ。当時のアメ車は、大きいことこそが正義だったのである。
しかし、1980年代に入るとアメ車は冬の時代を迎え、『コンチネンタル』も2002年モデルを最後に生産終了。2016年に新型が登場して『コンチネンタル』の名が復活するまでに15年近くの月日を必要とした。今回の『コンチネンタル80thアニバーサリー・コーチ・ドア・エディション』は、この10代目『コンチネンタル』をベースとしている。
モチーフはJFKがパレードした4代目。ロングドレスの女性を優雅に見せるコーチドア
ベースの10代目『コンチネンタル』は、2007年に発表された『MKS』(当初の車名は『リンカーン ゼファー』)の後継モデルとして登場した。5m超の全長と2mに迫る全幅をもったアメ車らしさが横溢するフルサイズの4ドアセダンだ(日本未導入)。
『コンチネンタル80thアニバーサリー・コーチ・ドア・エディション』の最大の特徴は、この標準仕様の大きなボディをさらにストレッチしてホイールベースを6インチ延長し、後席のレッグルームを拡大するなど、居住性を大きく向上させたこと。そしてなんといっても、それにともなって後席ドアを後ヒンジの「コーチドア」とした点にある。
コーチドアは、ドア開けたときに室内を美しく見せ、乗り降りする際に身体の向きを変える必要がないことから、乗員の振る舞いも優雅に見せることが可能だ。たとえば、ロングドレスの女性が乗車したとき、より美しい所作でクルマを降りられる利点がある。ロールス・ロイスが全モデルにコーチドアを採用しているのも、おもにそういった理由からだ。
モチーフとなったのは4代目『コンチネンタル』。いまから56年前の1963年11月、アメリカ第35代大統領のジョン・F・ケネディは訪問先のテキサス州ダラスでのパレード中に暗殺された。このときJFKが乗車していたのが4代目『コンチネンタル』だ。このクルマはオープンカーだったが、セダンは後ヒンジのコーチドアを採用していた。
『80thアニバーサリー・コーチ・ドア・エディション』は発表後2日で全台が完売!
コーチドアを開けると、パススルーコンソールと呼ばれる大型のセンターコンソールを備えた2名がけの後席が目に飛び込んでくる。パススルーコンソールにはタブレットホルダーやワイヤレス充電器を備えた収納式のテーブルなどを内蔵し、オーディオにはハーマンインターナショナルの「Revel Ultima」を採用、室内はアクティブノイズコントロールにより静寂に保たれ、高い快適性と同時にオーディオを楽しめる環境も実現している。
パワーユニットは、最高出力400ps、最大トルク542Nmを発生する3.0L V6ツインターボ。「ノーマル」「コンフォート」「スポーツ」の三つのドライビングモードを備える。発表されたモデルは、淡いライトパープルのボディカラーにアイボリーのレザーを組み合わせているが、オーナーはリンカーンのカスタムプログラム「リンカーンブラックレーベル」によって、内外装ともに自由な仕様を選択することができるという。
もっとも、この特別な『コンチネンタル』は1月のデトロイトモーターショーで発表された後、残念ながらわずか2日間で限定80台が完売してしまったようだ。アメリカの人々にとって、今もリンカーン『コンチネンタル』は特別なクルマなのである。
Text by Muneyoshi Kitani
Photo by (C) Ford Motor Company
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)