リヴィアン『R1T』はまるで宇宙船だ。期待感と合理性がマッチしたクルマの未来像
北米においてピックアップトラックはセダンやSUV以上のセールスがあり、都市部で見かけるのもめずらしいことではない。これは一過性の人気というより、西部開拓時代を源流にした歴史的かつ文化的なもので、アメリカ人好みの力強い存在感と合理性を併せもっているためだろう。1985年の大ヒット映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』では、主人公マーティーが憧れるクルマとしてピックアップトラックが登場するほどだ。
しかし、馬車のような荒々しさに加え、近未来感のある優美なスタイリングをもったハイパフォーマンス電動ピックアップトラックとなると、アメリカ人ならずとも注目せざるを得ない。なかでもカリフォルニア州に本拠地をおく新興EVメーカー、「RIVIAN(リヴィアン)」が生み出したピックアップトラック『R1T』には完成された新しさを感じる。
奇抜さではなく、そこには期待感と合理性のマッチングとでも表現できそうな馴染みやすいクルマの未来像を感じることができるのだ。写真でわかるように、シルエット自体はむしろ既存のピックアップトラックを踏襲しているが、流れるようなエッジラインと細部まで一体感を感じる精緻でスムーズな仕上がりは、まるで宇宙船のようでもある。
とりわけ目を引くのは側面まで回り込んだLEDライトだ。フロントでは、そこへクロスするかたちで縦型の楕円形ヘッドライトが埋め込まれている。一見しただけではわからないが、キャビンの後方、車体下部に設けられた隠しトンネルも面白い。これはスキー板やスノーボード、ゴルフバッグなどを収納できるようにデザインされたものだという。
最高出力は約754馬力。驚くべき動力性能をもつ電動ピックアップトラック『R1T』
もちろんデザインの良さだけに注目しているわけではない。テスラと同じカリフォルニア州の新興メーカーであるがゆえに、動力性能も注目に値する実力を持っている。
搭載されるのは4基の電気モーター。バッテリーは容量の異なる「105kwh」「135kwh」「180kwh」の3グレードが用意されており、中間仕様の135 kwhでも最高出力562kwh(754hp相当)、最大トルク1120Nm(114kgm)のハイパワーを誇る。
『R1T』のボディはフォード『F-150』と同サイズだが、こうした同クラスのガソリンエンジン車と比べると考えられないスペックだ。最高速度は200km/hを超え、0-60マイルは3.0秒となり、走行レンジは480km以上ある。180kwhバッテリーではレンジが640km以上となり、重さのせいで加速は同3.2秒とやや遅いが、それでも驚きに値する。
オフロード性能は未知数だが、モーターは四輪それぞれに搭載され、段差や岩場を乗り越える際に必要なトラクションコントロールを盛り込んでいるとされる。当然ながら、3種類のセンサーと超音波センサーを搭載し、自動運転「レベル3」にも対応。フル充電時の走行距離は、テスト段階では400マイル(約643km)を達成可能としたという。
創業者はMIT出身の有名工学者。ピックアップトラックのもつ弱点を長所へと変える
リヴィアンは2009年に設立したばかりの、まさに新興メーカーだ。創立者でCEOをつとめるR.J.スカリンジ氏はMIT(マサチューセッツ工科大学)自動車研究所の出身だが、コテコテの工学者というわけではなく、むしろナチュラリストだと自身が語っている。
その経歴とサスティナブル(持続性)を重視したコンセプトから、オバマ政権時代に「チャンピオン・オブ・チェンジ」というタイトルを得て有名人になり、その結果多くの投資をつかんだ。いまでは複数の開発拠点を設けるほど急成長し、そのなかにはイリノイ州にあった三菱の生産工場も含まれている。プレゼンの力に長けた経営者でもあるのだ。
スカリンジ氏はこうも言っている。「ピックアップは昔から『燃費が悪い』『運転が楽しくない』『ハイウェイが苦手』という敬遠される弱点があったが、そこを変えれば長所になるはずだ」と。この言葉でもリヴィアンの目指すところが見えてくるというものだ。
自動車業界はすべてのカテゴリでEV化が進んでいるが、電気モーターは回転を始めるときに最大トルクを発生するので、とりわけ積載や牽引能力が重視されるピックアップトラックの動力に適している。さらにクルマ自体が電動工具を電源のアウトプットが備えられていれば、その利用範囲が非常に広くなるなどメリットは大きい。
事実、『R1T』の荷台部分には110Vの外部給電が3つ備えられている。また、低い位置に重量物である動力(モーター)やバッテリーを集中的に配置できるので、車高が高くなりがちなピックアップトラックも重心を低く抑えられるといったスタビリティの面でも石油燃料車よりも有利となり、車両のスペースが広がるため積載能力も向上する。
標準モデルは約667万円から。テスラも電動ピックアップトラックを近々発表する?
こうしたことから、いまや多くの企業が電動ピックアップトラックを開発しているのが現状だ。たとえば、ワークホース『W-15』(ハイブリット)、ハーベラー『Bison』、当サイトでも紹介したボリンジャー『B1』。そして、あのテスラまでもが『モデルU』という電動ピックアップトラックを開発中で、販売時期について近く発表するといわれている。
これはもはや北米のピックアップトラック市場の激変だけにとどまらない。いずれ、そこで培われたさまざまな技術が輸送機器市場に広く波及していくことだろう。
『R1T』は2020年にイリノイ州の工場で生産開始し、同年後半に納車が始まる予定とされている。EVへの税優遇適用後の価格はバッテリー容量105 kwhのベースモデルが6万1500ドルから(約667万円)から。昨年11月には同じプラットフォームの兄弟車であるSUVの『R1S』も発表され、こちらは6万5000ドル(約705万円)からだ。
Text by Koji Okamura
Photo by (C) RIVIAN AUTOMOTIVE, LLC.
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)