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第118回 | 大人のための最新自動車事情

ジョンブル魂に刮目せよ──日本再導入されるアルヴィス

アルヴィスの名が日本の多くの自動車メディアで報じられる…。そんな日がやって来ると誰が予想しただろうか。かつてはブガッティやベントレーにも匹敵する高級車で、戦前までさかのぼればレースシーンを席巻するスポーツカーメーカーだった。しかし、それははるか昔の語り草でしかない。少なくともそう考えていたエンスージアストは多いだろう。そのアルヴィスがなんと、およそ半世紀ぶりに日本へ再導入されるという。

自動車史に燦然と輝くアルヴィス。まさに人々のクラシックカーのイメージそのもの

日本ではALVIS(アルヴィス)の名は馴染みが薄いかもしれないが、ヨーロッパでは自動車史に燦然と輝く高級車ブランドとして広く認知されている。

創業はちょうど100年前の1919年。最初の生産モデルである『10/30HP(テン・サーティ)』からして評価が高く、1925年には前輪駆動車を開発し、この駆動方式における市販車のパイオニアとなった。同じ年には自動車メーカーとして初めてレースに参戦し、1928年のルマン24時間レースの1500ccクラスではワンツーフィニッシュを飾っている。さらに、1933年には世界初のオールシンクロメッシュギアボックスも開発した。

しかし、1966年に106台を生産した『TF21』を最後に、翌年の1967年には乗用車の製造を中止。それ以後は英国政府の依頼により、軍用車を2004年まで製造することでかろうじて社名を残していた。ミリタリーマニアには1965年製造の旋回砲塔付き6輪装甲車『サラディン』の名がつとに有名で、その堅牢性、操縦性ともに評価が高い。現在も中東やアフリカで現役なのは、アルヴィスの設計思想の確かさを証明するものだ。

黄金期は1930年代で、その中心には常に2座席のスポーツカーがあった。ボンネットと独立した前後のフェンダー、そしてそれをつなぐステップボードをもった古き良きスタイリングは、まさに人々が思い浮かべる「クラシックカーのイメージ」そのものだ。

戦争で生産を中止していた77台の『4.3リッター』を現代に甦らせるプロジェクト

驚くべきは、現在にいたるその残存数である。全モデルの10%近くがいまも愛好家たちのもとにあるとされ、世界各地で毎年開催されているヴィンテージカーのコンクールやイベントでは中心的存在になっている。これはクルマとしての魅力もさることながら、すべてのモデルに対してパーツ供給が現在も維持されていることも大きいのだろう。

そのアルヴィスが乗用車の製造を再開すると発表したのは2010年のことだ。これにはヨーロッパ中のクルマ好きが驚き、大歓迎の旗を振ったのはいうまでもない。

製造を再開したのは『4.3リッター』。この「再開」とはスポーツカーメーカとして再始動するということだが、じつは別の大きな意味もある。『4.3リッター』は1937年に登場した高性能スポーツカーで、当初は150台の生産を計画していた。しかし、第二次世界大戦でアルヴィスのコヴェントリー工場がドイツ軍の爆撃を受けて破壊され、73台で生産がストップ。そこで当時生産できなかった残り77台の『4.3リッター』を現代に甦らせるプロジェクトが始まったのだ。このエピソードが「ジョンブル魂(不屈の精神をもったイギリス人)」を思わせ、粋な出来事として大きなニュースになったのである。

このプロジェクトはのちに拡大され、「Continuation Series(コンティニュエーション・シリーズ)=継承」と名づけられた。シャシーを共有する直列6気筒エンジンの『4.3リッター』と『3リッター』の2シリーズで展開され、ボディタイプやルーフが異なる計6モデルをラインナップ。そして、これらが日本にも導入されることとなったのだ。

写真はすべて1934年型の『スピード20 SB スポーツツアラー』。自動車オークション大手のRMサザビーズに出品された個体で、日本に導入されるモデルとは異なる。

55年前までアルヴィスを輸入販売していた自動車部品商社が総代理店となり再導入

アルヴィスの日本総代理店となったのは、2018年に創業85年を迎えた自動車部品商社大手の明治産業だ。同社の竹内眞哉社長が11月中旬に駐日イギリス大使館で開催された発表会で明かしたところによれば、85周年にあたり社史を調べていると、関連会社の明治モータースが1963年までアルヴィスを輸入販売していたことが判明したのだという。

折しもアルヴィスが生産を再開し、「コンティニュエーション・シリーズ」として6モデルを製作すると発表してから間もない時期だった。そこで85周年記念の新規事業としてアルヴィスの輸入販売を「再開」することに決めたというのである。アルヴィスのジョンブル魂と同様に、こちらものストーリーもなかなかドラマチックだ。

6モデルは当面のあいだ受注生産のみで、その生産工程もハンドメイドに近い。このため日本市場向けには年に一台程度しか受注できないというから、納車までにはかなりの時間を要するだろう。しかし、ボディの内部や内装にいたるまでオーナーの意向を汲み取るフルオーダーによって製作されるので、その価値は比類ないものになるはずだ。

ただし完全な復刻版ではなく、ミッションはAT、4輪ディスクブレーキや燃料噴射などは現代のものを使用し、排ガス規制にも対応している。価格は『4.3リッター』シリーズが約6000万円から、『3.0リッター』シリーズは約4000万円から。しかしロールス・ロイスなどがそうであるように、オーダー内容によって価格は数百万円単位で変わる。

Text by Koji Okamura
Photo by (C) RM Sotheby’s
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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エモーションEV──バタフライドアの電動スポーツカー

ポルシェ初の量産EVスポーツカーとして話題の『タイカン』は今年生産を開始し、驚異的なスペックを誇るテスラのスーパースポーツカー『ロードスター』も2020年の発売を予定している。EVスポーツカーは、いま旬を迎えつつあるカテゴリだ。そうしたなか、アメリカのフィスカーがCES 2019で初公開した『エモーションEV』が予約受付を開始した。バタフライ4ドアが特徴の高級フルEVスポーツは、いったいどんなクルマなのか。

BMW『Z8』やアストンマーチン『DB9』のデザイナーが手がけた高級スポーツEV

フィスカー『エモーションEV』は、ヘンリック・フィスカー氏の手によるエレガントなデザインの高級EVスポーツカーだ。フィスカー氏はデンマーク出身の著名なカーデザイナー。BMWに在籍していた当時に『Z8』、EVコンセプトモデルの『E1』などを手がけ、アストンマーチンでは『DB9』『DBS』『ヴァンテージ』のデザインを担当した。

その後、独立してメルセデス・ベンツやBMWをベースにしたコンプリートカーやハイブリッドエンジン搭載のオリジナルモデルを製作するが、じつは、テスラで『ロードスター』『モデルS』の2モデルの開発に参加したこともあるようだ。そのせいというわけではないだろうが、『エモーションEV』のデザインはどこかテスラに似た雰囲気もある。

ともあれ、スタイリングは「美しい」のひと言に尽きる。とりわけ特徴的なのは、開くとドア側面が蝶の羽のような形に見える「バタフライ4ドア」だ。同じ上部に向かって開くドアでも、縦方向に開くシザースドアと違い、バタフライドアは外側が斜め前方に、内側が下向きに開く。駐車スペースに苦労する日本ではなかなかお目にかかれないドアだ。

バッテリーはリチウムイオンではなく炭素素材コンデンサ。多くの先端技術を搭載

面白いのは、バッテリーに多くのEVに採用されるリチウムイオンではなく、炭素素材コンデンサのグラフェンスーパーキャパシタを採用したことだ(全個体充電池搭載モデルもラインナップ)。1回の充電あたりの最大走行距離は約640km。急速充電の「UltraCharger」に対応しており、9分間の充電で約205km分の容量までチャージ可能という。

EVパワートレインは最高出力700psを発生し、最高速度は260km/h。このスペックを見ると、テスラ『ロードスター』のようなEVスーパースポーツではなく、あくまでスポーティカーという位置づけなのだろう。全長5085×全幅2015×全高1465mmのボディは軽量のカーボンファイバーとアルミニウムで構成され、駆動方式は四輪駆動だ。

このほか、ADAS(先進運転支援システム)としてクアナジー製LIDARセンサーを5個搭載し、コネクテッドなどのEVスポーツカーらしいさまざまな先端技術を装備する。

『エモーションEV』の価格は1440万円。予約も開始され今年中にデリバリー予定

前述の通り、『エモーションEV』はグラフェンスーパーキャパシタ搭載モデルと全個体充電池搭載モデルの2モデルを設定。価格はグラフェンスーパーキャパシタ搭載モデルが1440万円(税別)、全個体充電池搭載モデルの価格は未定だ。すでに日本でもデロリアン・モーター・カンパニーを正規代理店に予約受付を開始しており、グラフェンスーパーキャパシタは今年中の納車を予定している。ただし、予約金として約24万円が必要だ。

最近では東京都心部などでテスラをよく見かけるようになり、もはやEVは現実的な乗り物になりつつある。たしかに価格は1000万円オーバーと高価。しかし、この美しいルックスなら、他人と違うクルマに乗りたいという欲求を満たすことができるのではないか。

Text by Kenzo Maya
Photo by (C) Fisker, Inc.
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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