Thok E-bikesとコラボしたニューモデル。今度のドゥカティのe-MTBは本気度が違う
毎年7月に開催される「ツール・ド・フランス」は、世界最大の自転車の祭典だ。自転車にあまり興味がない人もその名前ぐらいは知っているだろう。テレビを通じて全世界で30億人が観戦するといわれ、サッカーのワールドカップに匹敵する高い人気を誇る。
このツール・ド・フランスを筆頭に、ヨーロッパでは日本と比べ物にならないほど数多くの自転車レースが開催される。なかでもエナジードリンクメーカーがスポンサーとなり、急速に人気を高めているのがe-MTB(電動アシスト付きマウンテンバイク)のレースだ。
その人気に刺激を受けたのかもしれない。2018年11月には、イタリアを代表するオートバイメーカーのドゥカティが新型e-MTBの『MIG-RR』を発表した。これはe-MTB専門ブランドの「Thok E-bikes」とのコラボレーションにより生まれたモデルだ。
じつは、ドゥカティは過去にもビアンキと組んでクロスバイクのe-BIKEをリリースしたことがあった。しかし今回発表されたe-MTBはその本気度がまったく違う。なにしろ、ドゥカティの本国公式サイトにも『MIG-RR』のページがあるくらいなのだから。
ベースはThok『MIG』シリーズ。荒れ地も急坂も難なくこなすパフォーマンスを実現
Thok社は、BMX(バイシクルモトクロス)の世界チャンピオンに輝いたこともあるイタリア人MTBライダー、ステファノ・ミグリオリーニが創立したe-MTBに特化したメーカーだ。『MIG-RR』は、このThok社がリリースする『MIG』シリーズをベースに開発されたモデルで、e-MTBレースに出場する選手も納得する仕様となっている。
そのひとつが、オリジナルモデルでは採用されていないホイール径だ。マヴィック製の「E-XA Drifter」ホイールは、フロント29インチ、リア27.5インチと、前後異径のセットアップで、MTBプロライダーのハートに火をつける。さらに、フォックス製「ファクトリー・シリーズ」のサスペンションは、フロント170mm、リヤ160mmのトラベル量を備えており、荒れ地も急坂も難なくこなせるパフォーマンスが期待できる。
見逃せないのは心臓部だろう。新しいジオメトリを備えたアルミニウム製フレームを装備し、そのダウンチューブ下に容量504Whのバッテリーを搭載。このデザイン処理がかなりカッコよく、ほかのメーカーが真似しそうなほどの出来栄えとなっている。とってつけた感がまったくないのだ。
このバッテリーから供給される電源をパワーとするモーターは、マウンテンバイク専用に開発されたシマノ製モーター「Steps E8000」システムで、最高出力250W、最大トルク70Nmを発生する。アシストモードは「エコ」「トレイル」「ブースト」の3種類。「トレイル」と「ブースト」は必要に応じてアシスト・レベルの強弱調整が可能だ。
電動アシストバイクは車両重量が重くなりがちだが、『MIG-RR』は22.5kgと肩に担げる重さを実現した。これはe-MTBライダーにとってうれしいポイントだろう。
バレンティーノ・ロッシのヘルメットを手がけたドゥルディのカラーリングは必見だ
カラーリングを手がけたのはアルド・ドゥルディが率いる「Drudi Performance(ドゥルディ・パフォーマンス)」。ドゥルディは史上最強のライダーと呼ばれるバレンティーノ・ロッシのヘルメットのデザインを手がけるなど、二輪の世界で超有名なイタリア人グラフィックデザイナーだ。スペースが限られた自転車のフレームのどこに、彼のセンスでドゥカティのレッドをあしらうか。登り上がるルートをイメージさせるグラフィックは必見である。
本体価格は6250ユーロ(約79万円)。ドゥカティのラインアップでいうと、400ccの『スクランブラーSixty2』(89万9000円、税込み)に迫る勢いだ。しかしe-MTBレーサーと考えれば、安いは言い過ぎにしても、お手頃ではないだろうか。
発売開始は2019年春の予定。ヨーロッパのドゥカティ・ディーラーにて販売されるが、日本導入は未定。そもそも、日本国内では道路交通法による電動アシストの基準(規制)があり、公道走行では時速10km/hを超えると徐々にアシスト率が下がって時速24km/hでアシストが効かなくなる。『MIG-RR』が日本国内で発売される際には、規制に合わせたプログラムの書き換えが必要だ。それとも純粋なレーサーとするか、悩ましいところだ。
Text by Katsutoshi Miyamoto
Photo by (C) Ducati Motor Holding S.p.A
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)