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第117回 | 大人のための最新自動車事情

マッチョに甦ったドムの愛車──1968年型のチャージャー

2015年公開の映画『ワイルドスピード SKY MISSION』は、この大ヒットシリーズのなかでも名作とされる。クランクアップ前にブライアンを演じたポール・ウォーカーが不幸にも事故死。そのため、本編の最後では、その盟友であり主人公のドムがブライアンと海辺を並走し、ふたりの絆が永遠であることを示す印象的なエンディング「FOR PAUL(ポールへ)」が描かれた。この名シーンでドムが乗っていたのが1968年型のダッジ『チャージャー』である。2018年は、このクルマの登場からちょうど50周年。それを記念して1968年型にオマージュを捧げる特別な『チャージャー』が発表された。

マッスルカーブームのさなかに誕生した426ヘミの1968型ダッジ『チャージャー』

『チャージャー』は、FCA(フィアット・クライスラー・オートモビルズ)がダッジブランドで展開するフルサイズセダンのマッスルカーだ。マッスルカーは、広い意味でいうと大排気量のV8エンジンを搭載したハイパフォーマンスのアメ車のことを指す。

1960年代初め、アメリカではマッスルカーブームが巻き起こった。シェルビー『マスタング』、フォード『ギャラクシー』、シボレー『コルベット』、ポンティアック『GTO』、オールズモビル『カトラス シュープリーム』。こうしたクルマが大人気となっていたのである。これらに対抗するためにクライスラーが開発したのが『チャージャー』だ。

とりわけデビュー3年目の1968年に登場した2ドアノッチバックの高性能バージョン『チャージャーR/T』は、いまも『チャージャー』の象徴として高い人気を誇る。エンジンは440キュービックインチ(約7.2L)のマグナムV8。さらに、オプションでストックカー用のハイパフォーマンスエンジンである426HEMI(ヘミ)が設定されていた。

このエンジンを作り上げたのは「MOPAR(モパー)」。モパーはFCAのカスタムパーツ部門として知られるが、当時はクライスラーのハイパフォーマンスカー全般を意味した。今回発表されたオマージュモデルも、モパーが最新のヘミエンジンを搭載して甦らせたものだ。その名を『1968 ダッジ“スーパーチャージャー”コンセプト』という。

モパーのスーパーチャージドV8ヘミエンジンは、なんと最高出力1000psを発揮する

「チャージャー」の前に「スーパー」があることでわかるように、『1968 ダッジ“スーパーチャージャー”コンセプト』はすべての面で大幅にチューンナップされている。

エンジンは、モパーが新たに開発した排気量426キュービックインチ(約7.0L)のスーパーチャージド・モパー・クレート・ヘミ「Hellephant(ヘレファント)」。現行型『チャージャーSRTヘルキャット』などが搭載するV8をベースに、大容量のスーパーチャージャーを追加するなどさまざまな改良を施してパワーアップしたものだ。

426ヘミエンジンに組み合わせるのは、やはり『SRTヘルキャット』に採用される6速MTで、そのスペックは、じつに最高出力が1000ps、最大トルクは131.3kgmに達するという。まさにモンスターマシンだが、これはおもにレース用のエンジンだろう。

エンジン名にある「クレート」とは「木箱」のこと。つまりクレートエンジンとは、ストックカーの交換用エンジンを意味するわけだ。すでにモパーは、この「ヘレファント」をカスタムキットとして2019年第一四半期に市販することを明らかにしている。

ボディカラーはグレーメタリックの「デ・グリージョ」。ただならぬ雰囲気が漂う外観

エクステリアも、全身からただならぬ雰囲気を横溢させている。ボディカラーは「デ・グリージョ」と呼ばれるグレーメタリックの特別塗装。ワイドな一体型のフロントグリルはオリジナルの1968年型『チャージャーR/T』をそのまま受け継いでいるが、通常時に隠れているヘッドライトは『SRTヘルキャット』のものへと変更された。

その上部のボンネットには、426ヘミエンジンに空気を送り込んで冷却するための特大エアスクープが設けられている。グリル下部のフロントスプリッターとともに、これらは最高出力800psの『チャージャーSRTデーモン』に採用されていたものと思われる。

ボディ同色のメタリックグレーのオーバーフェンダーはファイバーグラス製で、それによって全幅がオリジナルより4インチ拡大。ホイールベースも2インチ伸長され、全高は前3.5インチ、後2.5インチ低くなった(1インチは約2.54cm)。

足元にはフロント21インチ、リア20インチの鍛造アルミホイールを装着し、タイヤはフロント305/30R20、リア315/35R21。おそらくピレリ製だろう。むろんブレーキは1968年製ではなく、6ピストンのブレンボ製を装備して制動力を高めている。

インテリアでは、後席が取り払われて、前席はダッジ『バイパー』用のバケットシートへと換装された。中央に「ヘレファント」の猛々しい青のバッジが装着されたステアリングホイールも『バイパー』に採用されていたもので、このステアリングとシートには赤のステッチがアクセントカラーとして入る。シートベルトはサベルト製の4点式である。

アメリカでスーパーカー以上に高い価格がつけられる「レストモッド」マッスルカー

このオマージュモデルのように、ヒストリックカーをレストアして最新エンジンなどを搭載したクルマのことを、近年は「レストモッド」と呼ぶことがある。

レストモッドは「レストア」と「モデファイ」をかけ合わせた造語で、つまりレストアというよりリプロダクション(再生産)されたモデルに近い。ポルシェが933型『911ターボ』を一台だけ復元した「プロジェクト・ゴールド」などがこれにあたるだろう。

レストモッドは特にアメリカで人気が高く、その価格はスーパーカーよりも高いといわれる。1960〜70年代のマッスルカーは『ワイルドスピード』シリーズ全作にドムの愛車として登場し、近年さらに価値を高めている。モパーが「ヘレファント」を搭載した1968年型『チャージャー』を発表したのには、そんな背景もあるのかもしれない。

Text by Kenzo Maya
Photo by (C) FCA US LLC.
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

動画はこちら
1968 Dodge “Super Charger” Concept オフィシャル動画
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第130回 | 大人のための最新自動車事情

エモーションEV──バタフライドアの電動スポーツカー

ポルシェ初の量産EVスポーツカーとして話題の『タイカン』は今年生産を開始し、驚異的なスペックを誇るテスラのスーパースポーツカー『ロードスター』も2020年の発売を予定している。EVスポーツカーは、いま旬を迎えつつあるカテゴリだ。そうしたなか、アメリカのフィスカーがCES 2019で初公開した『エモーションEV』が予約受付を開始した。バタフライ4ドアが特徴の高級フルEVスポーツは、いったいどんなクルマなのか。

BMW『Z8』やアストンマーチン『DB9』のデザイナーが手がけた高級スポーツEV

フィスカー『エモーションEV』は、ヘンリック・フィスカー氏の手によるエレガントなデザインの高級EVスポーツカーだ。フィスカー氏はデンマーク出身の著名なカーデザイナー。BMWに在籍していた当時に『Z8』、EVコンセプトモデルの『E1』などを手がけ、アストンマーチンでは『DB9』『DBS』『ヴァンテージ』のデザインを担当した。

その後、独立してメルセデス・ベンツやBMWをベースにしたコンプリートカーやハイブリッドエンジン搭載のオリジナルモデルを製作するが、じつは、テスラで『ロードスター』『モデルS』の2モデルの開発に参加したこともあるようだ。そのせいというわけではないだろうが、『エモーションEV』のデザインはどこかテスラに似た雰囲気もある。

ともあれ、スタイリングは「美しい」のひと言に尽きる。とりわけ特徴的なのは、開くとドア側面が蝶の羽のような形に見える「バタフライ4ドア」だ。同じ上部に向かって開くドアでも、縦方向に開くシザースドアと違い、バタフライドアは外側が斜め前方に、内側が下向きに開く。駐車スペースに苦労する日本ではなかなかお目にかかれないドアだ。

バッテリーはリチウムイオンではなく炭素素材コンデンサ。多くの先端技術を搭載

面白いのは、バッテリーに多くのEVに採用されるリチウムイオンではなく、炭素素材コンデンサのグラフェンスーパーキャパシタを採用したことだ(全個体充電池搭載モデルもラインナップ)。1回の充電あたりの最大走行距離は約640km。急速充電の「UltraCharger」に対応しており、9分間の充電で約205km分の容量までチャージ可能という。

EVパワートレインは最高出力700psを発生し、最高速度は260km/h。このスペックを見ると、テスラ『ロードスター』のようなEVスーパースポーツではなく、あくまでスポーティカーという位置づけなのだろう。全長5085×全幅2015×全高1465mmのボディは軽量のカーボンファイバーとアルミニウムで構成され、駆動方式は四輪駆動だ。

このほか、ADAS(先進運転支援システム)としてクアナジー製LIDARセンサーを5個搭載し、コネクテッドなどのEVスポーツカーらしいさまざまな先端技術を装備する。

『エモーションEV』の価格は1440万円。予約も開始され今年中にデリバリー予定

前述の通り、『エモーションEV』はグラフェンスーパーキャパシタ搭載モデルと全個体充電池搭載モデルの2モデルを設定。価格はグラフェンスーパーキャパシタ搭載モデルが1440万円(税別)、全個体充電池搭載モデルの価格は未定だ。すでに日本でもデロリアン・モーター・カンパニーを正規代理店に予約受付を開始しており、グラフェンスーパーキャパシタは今年中の納車を予定している。ただし、予約金として約24万円が必要だ。

最近では東京都心部などでテスラをよく見かけるようになり、もはやEVは現実的な乗り物になりつつある。たしかに価格は1000万円オーバーと高価。しかし、この美しいルックスなら、他人と違うクルマに乗りたいという欲求を満たすことができるのではないか。

Text by Kenzo Maya
Photo by (C) Fisker, Inc.
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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