世界的にもめずらしいサイドカー専門ブランドが送り出すドローン搭載の限定モデル
ロシアのUral Moto(ウラルモト)は、1939年にスターリンが軍用バイクの開発を命じたことに始まる世界的にもめずらしいサイドカー専門メーカーだ。最初期のベース車両となったのは、第二次世界大戦中にドイツ軍が使用していたBMW『R-71』だった。
そうした成り立ちのためか、ウラルのサイドカーには懐古趣味やミリタリー志向が色濃く漂う。近ごろは日本の街中でサイドカーを目にすることはほとんどなくなったが、その一方、じつはウラルを駆る大人のライダーはじわじわと増えている。
その筋ではマニアックで知られるウラル乗りだが、製造元のウラルモトにもマニアックなエンジニアがいるようだ。10月下旬、日本の一般ライダーはもちろん、ウラルのオーナーでさえ思わずのけぞるような限定モデルがウラルモトから発表された。
その名は『Ural Air(ウラルエア)』。なんとなんと、サイドカーでいう「カー」の前部が潜水艦のハッチのように開き、そこからドローンが飛び立つのだという。これはKGB仕様なのか、それともレッドオクトーバー(トム・クランシーの小説に登場するソ連のアルファ型原子力潜水艦)仕様か。ロシアの技術者が考えることはひと味違うようだ。
搭載するのは高性能小型ドローン「Spark」。ハイアングルにより鳥の視野も味わえる
最初にドローンについて説明しよう。搭載されるのは、安定した飛行性能で定評のあるDJI社の小型高性能ドローン「Spark(スパーク)」。これをカー(船ともいう)の前部をくり抜いて製作した区画に収納する。ドローンの離発着に使用されるハッチには「H」のマークが描かれており、カーに設置されたボタンを押すと、ガスダンパーの力によって自動的に開くようになっている。
「Spark」の機体前方の2軸ジンバルには1/2.3インチCMOSセンサーを採用する小型カメラを搭載し、動画や静止画を撮影することができる。撮影モードには「パノラマ」と背景をぼかし被写体を際立てて撮影できる「シャロー・フォーカス」が用意され、これまでのサイドカーツーリングでは見られなかった印象的な記録を残すことが可能となった。
さらに、カーに座るナビゲーターはRAMマウントによって固定されたコントローラーを操り、ハイアングルによる鳥の視野もモニターを通じて味わうことができる。
ドローンの対角寸法は170mmで、重量はたったの300g。そのためカーから取り出して手に持ち、波打ち際で飛ばすことも可能。ただし、ドローン飛行には数々の規制があり、国土交通省のサイトなどで確認が必要だ。空港付近の飛行は厳しい制限があり、特に米軍基地のそばでは絶対にドローンを飛ばしてはいけない。必ずMPが追いかけてくる。
ウラルエアの価格は243万円。ドローン仕様だけに、吹き流し付きの自撮り棒も搭載
車両本体は2019年モデルがベースで、ボディカラーはサテン仕上げの「スレートグレイ」。エンジン、ギアボックス、ファイナルドライブはブラックアウト仕様となっている。
749ccのOHV空冷「ボクサー」エンジンを搭載し、最高出力は41hp/5500rpmだ。推奨される最大巡航速度は110km/hで、切り替え式パートタイム2WDを標準装備する。オマケというわけでもないが、ドローン仕様であることから吹き流し付きの自撮り棒も搭載している。良好な風量でなければドローンの操作ができないから、ということだが、気分は満点だ。
価格243万円(税込み)。このリミテッドエディションは世界40台限定の販売で、日本には来年1月に10台が入荷予定。しかしすでに予約完売してしまったようだ。なんともメカ好きにはたまらない一台だけに、再登場を期待したい。それとも自作するか!?
Text by Katsutoshi Miyamoto
Photo by (C) Ural Motorcycles
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)