ほかのどんなモビリティとも異なる、リバーストライクの唯一無二のライディング感覚
三論オートバイ(3Wheel motorcycle)とも呼ばれるトライクは、一般的にクルマよりもオートバイに近い乗り物と認識されている。それは乗り手の全身がオープンエアにあり、操縦者としての感覚がダイレクトに感じられるという点で似ているからだろう。
しかし、前二輪・後一論のいわゆるリバーストライクのライディング(ドライビング?)感覚は独特で、ほかのどんなモビリティとも異なる。前一輪・後二輪のトライクともまた違ったものだ。強いて言えば四輪のATVやスノーモビルが近いかもしれない。
なにしろ二輪車と違ってコーナリングでリーン(傾斜)せず、ハンドル操作のみで旋回するのだ。したがって、乗り手は遠心力でコーナーの外側に引っ張られることになり、開放感はオートバイと同様ながら、ライダーは車体に逆らうようにコーナーの内側に体を傾けなければならない。初めて乗る人は少々面食らうことだろう。
ただし、重心が低いこともあって全体の挙動としては安定性が高く、タイヤ位置も視界のなかにあるので車幅感覚にも不安がない。前一輪のトライクは急ブレーキーをかけると左右どちらかの前方に転倒することもあるが、リバーストライクではそれもない。
Can-Am『ライカー』は変速機なしのATを採用。トライク史上もっとも運転が簡単
Can-Am『ライカー』は、手軽さ(Accessible)、楽しさ(Fun)、カスタム性(Customizable)の3要素を開発コンセプトに置いている。手軽さとしては、『スパイダー』がセミATの6速だったのに対し、『ライカー』はCVT(Continuously Variable Transmission=連続可変トランスミッション)のオートマチック・トランスミッションを採用。ライダーが変速する必要がなくなったので、トライク史上もっとも運転が簡単な一台となった。
軽量化とスタビリティ(安定性)の向上によって走りの楽しさもランクアップ。さらにパッセンジャーシートや外装パーツを豊富に揃え、そのカスタム性によってオリジナリティも演出することもできる。パーツは簡単に交換できるように設計されているという。
少し気になるのはボディサイズだ。全長が2352mmと大型バイク並みに長く、車幅は1509mmで軽自動車とほぼ同じ。これに対して全高は1062mm、地上高は112mmとかり低い。スポーツカーでいえば、ケータハム『セブン』並の低重心だ。それでなくても注目されるトライクだが、未来的なデザインとの相乗効果で目立ち度はかなり高い。
エンジンはロータックス製の600ccと900ccの2種類があり、ダート走行を考慮してサスストロークを伸長し、ホイールが異なる「ラリーエディション」(900ccのみ)も兄弟車として設定した。ショックユニットは標準モデルがザックス製で、ラリーエディションはKYB(カヤバ)製を採用。面白いのはハンドルバーとフットレストの位置の調節ができること。乗り手の体格や好みで、あるいはロードとダートとの使い分けもできる。
Can-Amのリバーストライクはインパクト十分で、扱いやすさも二輪よりイージー
カナダのBRPといえば、スノーモービルの『Ski-Doo』やウォータークラフトの『Sea-Doo』といったプロダクトの生産で知られるが、かつてはモトクロスやエンデューロの世界選手権を席巻したオートバイメーカーだった。
親会社のボンバルディアは、中距離旅客機や鉄道車両、さらに航空宇宙産業にまで事業展開するコングロマリットで、このボンバルディア・グループからレジャービークルとその用品を扱う部門が独立したのがBPR(ボンバルディア・レクレーショナルプロダクツ)だ。「Can-Am」とは、トライクやATVをラインナップするブランド名である。Can-Amの三輪はそのスタイルだけで十二分なインパクトがあるが、それでいて扱いやすさは二輪よりもはるかにイージーだ。まだ日本ではなじみが薄いだけに、今後が注目される。
余談だが、アメリカ人が「Ryker(ライカー)」と聞くと、『新スタートレック(Star Trek: The Next Generation)』の主人公、ウイリアム・ライカーを思い出すらしい。もしかすると、未来的という共通項からイメージ作りに利用しているのかもしれない。
Text by Koji Okamura
Photo by (C) BRP
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)