洗濯は衣類の分類からタンスにしまうまでが家事。夫は家事の工程を認識していない
そもそも家事とはどういうものか。『大辞林 第三版』には、「かじ【家事】①炊事・洗濯・掃除・育児など、家庭生活に必要な仕事」と書いてある。しかし、藤原さんは「家事は、そのようにはっきりと分類できるものだけではありません」と話す。
たしかに、大和ハウス工業が2017年に300組(男300女300)の共働き世帯を対象に実施した「20代から40代の共働き夫婦の『家事』に関する意識調査」を見ても、藤原さんが指摘するように、「家事の定義」に対する夫婦間の認識のズレがうかがえる。
「調査では妻の家事負担が多いことがわかりましたが、同時に家事全般に対する認識の違いも明らかになっています。多くの妻たちは、『食卓を拭く』『手洗い場のタオルを取り替える』『ゴミを分類する』などの作業を含めて家事だと認識していますが、一方、多くの夫たちはそれらを家事だとは思っていないのです。この家事に関する意識調査では、夫の認識が薄い家事を『名もなき家事』と定義しています」(藤原さん、以下同)
藤原さんは、「問題は夫たちが『家事の全貌』を理解していないことです」と指摘する。
「たとえば、ふだんから洗濯をしている人なら、洗濯という家事が『水洗い不可の洋服を仕分けてポケットのなかのゴミを確認する』『畳んだ洗濯物をタンスにきれいに仕舞う』という一連のプロセスであることが理解できるでしょう。しかし、洗濯をしていない人はそれがわからない。洗濯機に衣類を入れ、スイッチを押すことが洗濯だと思っているのです。この家事をめぐる双方の認識のズレが、大きな溝になる可能性はとても高いですね」
家事に臨む姿勢を変える。妻に「洗濯をイチから教えてください」と請う勇気をもて
だとしたら、夫たちは溝が深くなる前に「名もなき家事」の存在を理解し、認識のズレをあらためておく必要がある。ふだん家事をしない男性ならなおさらだ。そのためには「まず家事に臨む姿勢を変える必要があります」と藤原さんは言う。
「家事は日々の生活に欠かせず、仕事と同じくらい重要なことです。気まぐれで週末に料理をしてみる、という程度で家事をした気になるのは妻に対して失礼。また、プロセスを知らずに部分的に関与すると、家事が中途半端になってしまう可能性が高いです。たとえば、あなたが立案して進めているプロジェクトに、わかっていない上司が気まぐれで口を出してきたらイラッとしませんか? それと同じ感覚であることを理解してください」
だからといって、炊事・掃除・洗濯をすべて妻にまかせればいいというわけではない。
「『部分的に参加すると妻に怒られるから家事をしない』では、何も解決しません。まず自分が家事の本質を理解していないことを自覚する。そのうえで、妻に『洗濯をイチから教えてほしい』と素直に教えを請うのがベターです。口頭で教わった洗濯のプロセスを実行し、炊事や掃除も同じように経験して、何度でも反復しましょう。実際に家事の全行程をやってみれば、『名もなき家事』の存在も理解できるようになると思いますよ」
家事もホウレンソウが大切。「名もなき家事」を学ぶ過程で起こりうる初歩的なミス
気をつけなければいけないのは、家事を学ぶ過程で生じる問題だ。妻に相談せず家事のプロセスを独断で進めると、初歩的なミスから夫婦間のトラブルになりやすいという。
「事例として多いのが買い物です。たとえば、夫が食品や洗剤を買いに行ったところ、ふだん家で使っている洗剤などの銘柄がわからず、別の商品を買ってきてしまう。あるいは妻に鶏むね肉を買ってきて頼まれたものの、『100グラム100円以下』という値段の感覚が共有されていなかったために不必要に高い鶏むね肉を買ってきてしまう…。家計を無視した買い物をすると、結果的に妻が支出を切り詰めて尻拭いをするなど、別の負担が生じます。これらは『名もなき家事』を学んでいる途中で発生しやすいトラブルです」
それを避けるには、「買い物中にメールやLINEで妻に連絡をとり、写メを撮って商品の確認をしてもらうようにしましょう」と藤原さんはアドバイスする。そういえば、若手時代に上司への「報告・相談・連絡」を口酸っぱく言われたものだ。次世代型の夫に進化するためにも、まずは「名もなき家事」を認識し、実際に参加するところから始めたい。
最後にアドバイザーからひと言
「家事は仕事と同じ。きちんと参加して、はじめて発言権を得られるものです」
Text by Mitsuo Okada(Seidansha)
Edit by Miki Ohnuki(Seidansha)