メルセデス・ベンツのトラック『アクトロス』は総出荷台数120万台超の人気モデル
IAAコマーシャル・ビークルズ(商用車)、通称「ハノーバーモーターショー」は、輸送や物流、建設機器など、ありとあらゆる業務用車両が展示される世界最大規模の商用車見本市だ。今年で67回目となる歴史をもつ。そのハノーバーモーターショー2018で発表されたのが、メルセデス・ベンツの新型トラック『Actros(アクトロス)』である。
1996年に初代が発売された『アクトロス』は、メルセデス・ベンツの大型トラックのなかでも、とりわけ先進的な技術が採用された看板モデル的な存在だ。先進性は、おもに安全性と効率性に重点が置かれ、走行性能を高める各種の電子制御はもちろん、快適なドライビングをサポートするためのさまざまな技術が投入されている。
その輸送車両としての総合的な性能は高い評価を受け、初代から第三世代までを合わせた総出荷台数はなんと120万台を超える。トラックとしては驚くべき人気ぶりだ。
今回発表された第四世代の『アクトロス』は、さらなる自動化が進み、加減速と操舵のアシストが可能になっている。また、レーダーとカメラを併用した自動ブレーキをはじめ、トラックとしては世界初となる全速度域でのドライビングアシスト技術を導入。これは安全面での自動化を目的としたものだ。なかでも注目は話題の「電子ミラー」だろう。
電子ミラーはクルマの安全運行における「未来像」。いずれすべての車両が装備する
「Mirror Cam(ミラーカム)」と名付けられた電子ミラーは、車体外部に設置された2台のカメラからの映像を、左右Aピラーのキャビン側に備えられた15インチディスプレイに映し出すというもの。この仕組み自体はレクサス『ES』も同じだ。
15インチディスプレイの映像は、上段80%・下段20%、解像度720×1920ピクセルで上下2分割され、メインミラーとワイドアングルミラー(半球状の広角ミラー)に置き換えられている。従来型のミラーは非常に大きく、外部の突起物としても事故の原因や運行上の障害になりやすかったが、その点、『アクトロス』のミラーカムは空力の改善による燃費の向上、対人対物への安全性、車両操作面のすべてで向上しているという。
ヨーロッパのメディアの反応も上々だ。「安全運行の未来像のひとつ。いずれはすべてこうなるだろう」「アクトロスにはすでに高い信頼性があり、この新しいシステムはその安全性と快適なドライビングをさらに向上させた」と好評を得ている。
なかには「従来のミラーに慣れている者にとっては、視線を置く距離がかなり近くなるので違和感がある」といった声もあるが、それはもちろん慣れの問題だろう。
電子ミラーのメリットは「外」にもある。カメラのレンズ面はとても小さく、水滴や汚れの影響を受けにくい。アングルや視野は容易に調整でき、夜間は肉眼よりも明るく見えるので、当然ながら視認性も向上する。また、ミラーカムの電源はエンジンや電子機器から独立しており、休憩時にエンジンを停止してもベッド近くにあるスイッチひとつで周囲の状況を確認することができる。これは実用面での使い勝手を幅広く検討した証だ。
電子ミラーにも課題あり。咄嗟のときにドライバーの視野を変えることができない?
しかし電子ミラーにも課題がないわけではない。従来型のミラーの場合、ドライバーが視線を移せば視野も変わり、そこにタイムラグは存在しなかった。ところが、電子ミラーでは視線を変えてもディスプレイに映し出される映像は変化しない。
つまり咄嗟のときに、いくらドライバーが頭を動かしても視野を変えることができないということだ。ゆえに『アクトロス』も一部に従来型のミラーを残している。電子ミラーにすべての役割を委ねているわけではないのだ。
とはいえ、『アクトロス』はインパネにメルセデス・ベンツの最新セダンやクーペとレイアウトが似ている2枚のンタラクティブなディスプレイを備え、ドライビングに関連するあらゆる情報を表示して安全とアシストシステムのプロセスを可視化している。
ダイムラーは世界最大の大型トラックメーカーだが、そのなかでもメルセデスは高価格帯のトラックを展開するブランド。プレミアムトラックは技術革新が重要で、第四世代の『アクトロス』に搭載された電子ミラーはそのひとつの現れとなる。メルセデス・ベンツが目指す人間と機械を一層近づけるインターフェースが一気に具体化してきたようだ。
Text by Koji Okamura
Photo by (C) Daimler AG
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)