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第66回 | メルセデス・ベンツの最新車デザイン・性能情報をお届け

メルセデスActros──電子ミラーの始祖はトラックだった

2018年10月に国内販売が開始されたレクサスの新型ミドルセダン『ES』。このクルマの登場によって注目されたのが、オプションで設定された「デジタルアウターミラー」、つまり電子ミラーだ。これを装備した乗用車は『ES』が世界で初めてだという。しかし、もう少し範囲を広げれば、じつは『ES』より先に電子ミラーを採用した市販車があったのだ。メルセデス・ベンツの新型プレミアムトラック『アクトロス』である。

メルセデス・ベンツのトラック『アクトロス』は総出荷台数120万台超の人気モデル

IAAコマーシャル・ビークルズ(商用車)、通称「ハノーバーモーターショー」は、輸送や物流、建設機器など、ありとあらゆる業務用車両が展示される世界最大規模の商用車見本市だ。今年で67回目となる歴史をもつ。そのハノーバーモーターショー2018で発表されたのが、メルセデス・ベンツの新型トラック『Actros(アクトロス)』である。

1996年に初代が発売された『アクトロス』は、メルセデス・ベンツの大型トラックのなかでも、とりわけ先進的な技術が採用された看板モデル的な存在だ。先進性は、おもに安全性と効率性に重点が置かれ、走行性能を高める各種の電子制御はもちろん、快適なドライビングをサポートするためのさまざまな技術が投入されている。

その輸送車両としての総合的な性能は高い評価を受け、初代から第三世代までを合わせた総出荷台数はなんと120万台を超える。トラックとしては驚くべき人気ぶりだ。

今回発表された第四世代の『アクトロス』は、さらなる自動化が進み、加減速と操舵のアシストが可能になっている。また、レーダーとカメラを併用した自動ブレーキをはじめ、トラックとしては世界初となる全速度域でのドライビングアシスト技術を導入。これは安全面での自動化を目的としたものだ。なかでも注目は話題の「電子ミラー」だろう。

電子ミラーはクルマの安全運行における「未来像」。いずれすべての車両が装備する

「Mirror Cam(ミラーカム)」と名付けられた電子ミラーは、車体外部に設置された2台のカメラからの映像を、左右Aピラーのキャビン側に備えられた15インチディスプレイに映し出すというもの。この仕組み自体はレクサス『ES』も同じだ。

15インチディスプレイの映像は、上段80%・下段20%、解像度720×1920ピクセルで上下2分割され、メインミラーとワイドアングルミラー(半球状の広角ミラー)に置き換えられている。従来型のミラーは非常に大きく、外部の突起物としても事故の原因や運行上の障害になりやすかったが、その点、『アクトロス』のミラーカムは空力の改善による燃費の向上、対人対物への安全性、車両操作面のすべてで向上しているという。

ヨーロッパのメディアの反応も上々だ。「安全運行の未来像のひとつ。いずれはすべてこうなるだろう」「アクトロスにはすでに高い信頼性があり、この新しいシステムはその安全性と快適なドライビングをさらに向上させた」と好評を得ている。

なかには「従来のミラーに慣れている者にとっては、視線を置く距離がかなり近くなるので違和感がある」といった声もあるが、それはもちろん慣れの問題だろう。

電子ミラーのメリットは「外」にもある。カメラのレンズ面はとても小さく、水滴や汚れの影響を受けにくい。アングルや視野は容易に調整でき、夜間は肉眼よりも明るく見えるので、当然ながら視認性も向上する。また、ミラーカムの電源はエンジンや電子機器から独立しており、休憩時にエンジンを停止してもベッド近くにあるスイッチひとつで周囲の状況を確認することができる。これは実用面での使い勝手を幅広く検討した証だ。

電子ミラーにも課題あり。咄嗟のときにドライバーの視野を変えることができない?

しかし電子ミラーにも課題がないわけではない。従来型のミラーの場合、ドライバーが視線を移せば視野も変わり、そこにタイムラグは存在しなかった。ところが、電子ミラーでは視線を変えてもディスプレイに映し出される映像は変化しない。

つまり咄嗟のときに、いくらドライバーが頭を動かしても視野を変えることができないということだ。ゆえに『アクトロス』も一部に従来型のミラーを残している。電子ミラーにすべての役割を委ねているわけではないのだ。

とはいえ、『アクトロス』はインパネにメルセデス・ベンツの最新セダンやクーペとレイアウトが似ている2枚のンタラクティブなディスプレイを備え、ドライビングに関連するあらゆる情報を表示して安全とアシストシステムのプロセスを可視化している。

ダイムラーは世界最大の大型トラックメーカーだが、そのなかでもメルセデスは高価格帯のトラックを展開するブランド。プレミアムトラックは技術革新が重要で、第四世代の『アクトロス』に搭載された電子ミラーはそのひとつの現れとなる。メルセデス・ベンツが目指す人間と機械を一層近づけるインターフェースが一気に具体化してきたようだ。

Text by Koji Okamura
Photo by (C) Daimler AG
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

動画はこちら
The new Mercedes-Benz Actros オフィシャル動画
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第77回 | メルセデス・ベンツの最新車デザイン・性能情報をお届け

エンスー垂涎の納屋物──メルセデス300SLガルウィング

ヒストリックカーの世界には、「バーン・ファウンド(Barn Found)」と呼ばれるジャンルが存在する。バーンは「納屋」、ファウンドは「見つかった」。つまり、納屋で見つかった古いクルマという意味だ。いわゆる「納屋モノ」。2年前の夏、岐阜県の納屋から発掘された1969年のフェラーリ『365GTB/4“デイトナ”』がオークションで高値落札され、世界中で大きなニュースとなったのは記憶に新しい。そして今年3月、やはり納屋で見つかった古いメルセデス・ベンツが、フロリダ州で開催されたコンクール・デレガンスに登場して注目を集めた。朽ち果てた姿で会場に展示されたそのクルマは、1954年に製造された『300SL“ガルウィング”』。名車中の名車とうたわれる、コレクター垂涎の一台である。

亡き石原裕次郎も愛車にしていたメルセデス・ベンツの名車『300SL“ガルウィング”』

『SLクラス』の「SL」は、ドイツ語でライトウェイトスポーツを意味する「Sport Leicht (シュポルト・ライヒト)」の頭文字からとったものだ。メルセデス・ベンツがラインナップする2シーターオープンカーの最高峰に位置づけられている。その初代モデルとなったのが『300SL』である。1954年のニューヨークモーターショーでデビューした。

通称は“ガルウィング”。特徴のひとつであるガルウィングドアに由来する。『300SL』はワークスレーサーのプロトタイプとして開発されたモデルで、当時のレーシングカーと同じ鋼管スペースフレーム構造をもっていた。それゆえに、ドアの下半分をフレームが通っており、また、開口部の敷居が高いうえに車高が低くて非常に乗り降りがしづらい。こうしたことから、やむを得ずガルウィングが採用されたというエピソードが残っている。

世界初の直噴エンジン搭載車としても知られ、車名の「300」はメルセデス・ベンツの排気量表記で3.0Lを意味する。直列6気筒エンジンは最高出力215psを発生し、最高速度は260km/h。当初は市販予定がなかったが、有力インポーターが北米市場に需要があるとメルセデス・ベンツを説得し、わずか1400台が生産・販売された。そのうちの一台は、あの昭和の大スター、石原裕次郎の愛車となり、現在も北海道小樽市の石原裕次郎記念館に展示されている。その『300SL』が、ご覧のような姿で納屋から発見されたのだ。

半世紀以上もガレージでホコリをかぶっていたが、ほぼオリジナルに近い状態を保持

シャシーナンバー「43」の『300SL』は、2018年末にフロリダ州のとあるガレージで見つかった。発掘したのはドイツ・シュツットガルト郊外に専用施設をもつ「メルセデス・ベンツ クラシックセンター」。同社のヒストリックカーのレストアのほか、レストア済み車両の販売も行う。施設内には真っ赤なボディカラーの『300SL』も展示されている。

この『300SL』は1954年にマイアミ在住のオーナーに出荷された個体で、走行距離計が示しているのは、たったの3万5000kmだ。Englebert社製のCompetition(コンペティション)タイヤにはまだ空気が少し残っていたという。車両自体もほぼ出荷時のままで、ボディパネル、ライト類、ガラスパーツ、グレーのレザーシート、ステアリングホイール、インテリアトリム、パワートレイン、ホイールにいたるまでオリジナルを保持している。

注目してほしいのは、「フロリダ植民400年」を記念した1965年のリアのナンバープレートだ。これを見ると、持ち主は少なくとも1954年から1965年までクルマを所有していたことがわかる。つまり半世紀以上を納屋で過ごしていた可能性が高いのである。

フロリダの国際コンクール・デレガンスには連番シャシーの二台の『300SL』が登場

ボロボロの『300SL』は発見したクラシックセンターの手にわたり、フロリダ州の高級リゾート地、アメリア・アイランドで毎年開催される「アメリア・アイランド・コンクール・デレガンス」(今年は3月7日から10日)にて旧車ファンたちにお披露目された。

その隣に並んでいたのは、見事に修復された鮮やかなブルーの『300SL』。驚いたのは、この個体のシャシーナンバーが「44」だったことだ。そう、納屋で発見された『300SL』の次に生産された個体なのである。『300SL』のような希少なヒストリックカーが連続するシャシーナンバーでコンクール・デレガンスに登場するのはかなりレアな出来事だろう。

『300SL“ガルウィング”』はメルセデス・ベンツのなかでも名車中の名車として知られ、自動車コレクターなら必ず所有したい一台といわれている。その価値は現在も上昇し続けているほどだ。そういう意味では、なんとも貴重で贅沢な光景といえるのではないか。

Text by Kenzo Maya
Photo by (C) Daimler AG
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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