トライアンフいわく『スクランブラー1200』は新しいカテゴリのベンチマークになる
『スクランブラー1200』は、トライアンフによって事前の広報活動が入念に行われたようで、その注目度はかなり高い。ヨーロッパ向けに発表されたプレスリリースにはこう記されている。「アドベンチャー・オートバイの機能とスクランブラーのスタイルを組み合わせ、新しいカテゴリとしてのベンチマーク(基準点)になるはずだ」と。
これはメーカーとしての自信の現れである。このニューモデルによって、900ccの先代『スクランブラー900』、そしてアドベンチャーモデルとして世界的に評価の高い『タイガー』とも違う、まったく新しいカテゴリを生み出したという主張が込められている。
つまり『スクランブラー1200』をブランニューモデルと位置づけているわけだ。その「新しさ」はいったいどこにあるのか。多くのバイクファンはエンジンパフォーマンスに目を奪われがちだが、この新型については違った視点を持つべきだと考える。やや前置きが長くなるが、最初にその点を説明しよう。
『スクランブラー1200』の注目ポイントはエンジンではなくサスペンションや足回り
そもそもSCRAMBLER(スクランブラー)とは、オンロードやオフロードといった区別がまだ明確ではなかった時代に生まれたスタイルだ。ロードバイクをオフロードに持ち込みモータースポーツとして楽しむために、ちょっとした改造を加え、ブロックタイヤを履かせた程度のものだったのである。
年代でいえば1950年代の終わりから60年代にかけて、浅間火山レースによって日本のオートバイレースが本格的に幕開けしてからしばらく後のこと。当時のオフロードレースは、横一線にスタートしたことから「スクランブルレース」と呼ばれ、このレースの車両がスクランブラーだったわけだ。
そのスクランブラーの名を近年よく聞くのは、カスタムスタイルのひとつとして人気を得たからに違いない。その点、トライアンフはスクランブラーのベースにするのにもってこいのバーチカルツイン(直立2気筒)エンジンをもつ。このエンジンを生かして2006年に先代『スクランブラー900』を発売すると、これがまんまとヒットした。
とはいえ、『スクランブラー900』はあくまで「ダートを走れるイメージ」のストリートバイクだ。もちろんそれはユーザーも承知のうえだったが、「もう少しダートも走りたい」という要望が生まれるのもまた道理。それなら同じトライアンフの『タイガー』を選べばいいのだが、あのスタイルは洒落者にとっては新しすぎるのである。
オフロードバイクとして重要なのは、なんといってもサスペンションやホイールを含めた足回りだ。『スクランブラー1200』は、フロントに21インチホイールを採用し、前後のサスペンションもストロークを大きく伸ばした。さらに、スイングアームも高剛性のアルミ製にするなど、先代と比べてオフロード性能を格段に向上させている。
とりわけ21インチホイールへの変更は悪路走破性において重要となる。じつはこの点こそキャラクターを設定するうえでもっとも大切なポイントなのだ。
新型『スクランブラー1200』がオフロードへとステアリングを切ったことは明白だ
『スクランブラー1200』には、『スクランブラー1200 XC』と『スクランブラー1200 XE』の2モデルが用意されている。「XC」は幅広いユーザーに向け、「XE」にはよりヘビーデューティーな指向を与えた。両者の最大の違いも、やはりサスペンションだ。
「XC」はフロントにショーワ製45mm径の倒立フォーク、リアにオーリンズのピギーバックタンク付きのユニットを採用し、ストロークは前後とも200mm。「XE」もメーカーや構成は同じだが、フロントのフォーク径が47mmと2mmアップし、ストロークが前後ともに250mmへと大幅に伸長されている。スイングアームも32mm長い。そのためホイールベースも、「XC」の1530mmに対して「XE」は1570mmとなった。
この足回りによって、『スクランブラー1200』はオフロード色をグッと色濃くした。トライアンフは「ロードでもダートでも最高の走行性能を発揮する」としているが、オフローダーに向けて舵ならぬステアリングを切ったのは明らかなのだ。
エンジンは1200ccのボンネビルツインで、『スクランブラー1200』専用のチューニングが施されている。最高出力は88.7hp/7400rpmを発生し、最大トルクは110Nm(11.22kg-m)/3950rpm。この出力とトルクは『ストリートスクランブラー』より38%アップしており、『ボンネビルT120』と比べても12%のパワーアップだ。
さらに、5種類のライディングモードが標準装備され、オフロードのマッピングではトラクションコントロールとABSをオフにすることで、パワースライドを愉しむことができるという。たしかに、ダートを駆け抜けるにはその設定は重要だ。
「XE」はIMU(inertial measurement unit=慣性計測装置)も搭載し、ローリング、ピッチング、ヨーイング、加速度を常に計測してくれる。ライディングモードに応じたコーナリングABSやトラクションコントロールの制御にいまや不可欠なデバイスだ。
アクションカメラ「GoPro」の内蔵型制御システムをオートバイとして初めて搭載
スタイリングはクラシカルだ。どこか1960年代初めのオリジナルのスクランブラーを彷彿とさせる。しかし細部を見ると、現代的な利便性と工夫にあふれている。
キーレス・イグニッション、グリップヒーター、クルーズコントロール、充電用のUSBジャックは当然としても、ウェアラブルカメラの代名詞である「GoPro」の内蔵型制御システムをオートバイに初めて採用したのはなかなかのインパクトだ。Bluetoothモジュールを介して接続し、カメラの操作は左側のバーエンドスイッチによって行う。
さらにグーグルとの提携により、トライアンフのスマートフォンアプリを介してグーグルマップによるターン・バイ・ターン(GPS利用による方向指示)がナビゲーションされるサービスぶりだ。むろんスマホでの通話や音楽も楽しめる。
日本導入時期や価格は未定だが、おそらく年内には発表されるのではないか。
トライアンフは、この新しい『スクランブラー1200』を世界に知らしめるため、フリースタイルライダーのアーニー・ビジルのチームから「XE」ベースのレーシングマシンをデザートレースのバハ1000に参加させた。これもなかなか大胆な戦略だが、レースは11月14日から4日間行われたので、結果を知りたい人はチェックしてほしい。
Text by Koji Okamura
Photo by (C) Triumph Motorcycles
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)