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第57回 | 大人ライダー向けのバイク

噂のマシンはやはり凄い──トライアンフScrambler 1200

そのキャッチコピーいわく「真のスクランブラー登場」。こんな惹句とともに発表されたトライアンフのニューモデルがファンやメディアのあいだで話題となっている。スクランブラーとは、未舗装のサーキットで争われた1960年代のレースに見られたマシンのスタイル。簡単にいうと、ダートを得意とするオートバイのことだ。くだんのニューモデル、『スクランブラー1200』はどの程度の実力を秘めているのか。

トライアンフいわく『スクランブラー1200』は新しいカテゴリのベンチマークになる

『スクランブラー1200』は、トライアンフによって事前の広報活動が入念に行われたようで、その注目度はかなり高い。ヨーロッパ向けに発表されたプレスリリースにはこう記されている。「アドベンチャー・オートバイの機能とスクランブラーのスタイルを組み合わせ、新しいカテゴリとしてのベンチマーク(基準点)になるはずだ」と。

これはメーカーとしての自信の現れである。このニューモデルによって、900ccの先代『スクランブラー900』、そしてアドベンチャーモデルとして世界的に評価の高い『タイガー』とも違う、まったく新しいカテゴリを生み出したという主張が込められている。

つまり『スクランブラー1200』をブランニューモデルと位置づけているわけだ。その「新しさ」はいったいどこにあるのか。多くのバイクファンはエンジンパフォーマンスに目を奪われがちだが、この新型については違った視点を持つべきだと考える。やや前置きが長くなるが、最初にその点を説明しよう。

『スクランブラー1200』の注目ポイントはエンジンではなくサスペンションや足回り

そもそもSCRAMBLER(スクランブラー)とは、オンロードやオフロードといった区別がまだ明確ではなかった時代に生まれたスタイルだ。ロードバイクをオフロードに持ち込みモータースポーツとして楽しむために、ちょっとした改造を加え、ブロックタイヤを履かせた程度のものだったのである。

年代でいえば1950年代の終わりから60年代にかけて、浅間火山レースによって日本のオートバイレースが本格的に幕開けしてからしばらく後のこと。当時のオフロードレースは、横一線にスタートしたことから「スクランブルレース」と呼ばれ、このレースの車両がスクランブラーだったわけだ。

そのスクランブラーの名を近年よく聞くのは、カスタムスタイルのひとつとして人気を得たからに違いない。その点、トライアンフはスクランブラーのベースにするのにもってこいのバーチカルツイン(直立2気筒)エンジンをもつ。このエンジンを生かして2006年に先代『スクランブラー900』を発売すると、これがまんまとヒットした。

とはいえ、『スクランブラー900』はあくまで「ダートを走れるイメージ」のストリートバイクだ。もちろんそれはユーザーも承知のうえだったが、「もう少しダートも走りたい」という要望が生まれるのもまた道理。それなら同じトライアンフの『タイガー』を選べばいいのだが、あのスタイルは洒落者にとっては新しすぎるのである。

オフロードバイクとして重要なのは、なんといってもサスペンションやホイールを含めた足回りだ。『スクランブラー1200』は、フロントに21インチホイールを採用し、前後のサスペンションもストロークを大きく伸ばした。さらに、スイングアームも高剛性のアルミ製にするなど、先代と比べてオフロード性能を格段に向上させている。

とりわけ21インチホイールへの変更は悪路走破性において重要となる。じつはこの点こそキャラクターを設定するうえでもっとも大切なポイントなのだ。

新型『スクランブラー1200』がオフロードへとステアリングを切ったことは明白だ

『スクランブラー1200』には、『スクランブラー1200 XC』と『スクランブラー1200 XE』の2モデルが用意されている。「XC」は幅広いユーザーに向け、「XE」にはよりヘビーデューティーな指向を与えた。両者の最大の違いも、やはりサスペンションだ。

「XC」はフロントにショーワ製45mm径の倒立フォーク、リアにオーリンズのピギーバックタンク付きのユニットを採用し、ストロークは前後とも200mm。「XE」もメーカーや構成は同じだが、フロントのフォーク径が47mmと2mmアップし、ストロークが前後ともに250mmへと大幅に伸長されている。スイングアームも32mm長い。そのためホイールベースも、「XC」の1530mmに対して「XE」は1570mmとなった。

この足回りによって、『スクランブラー1200』はオフロード色をグッと色濃くした。トライアンフは「ロードでもダートでも最高の走行性能を発揮する」としているが、オフローダーに向けて舵ならぬステアリングを切ったのは明らかなのだ。

エンジンは1200ccのボンネビルツインで、『スクランブラー1200』専用のチューニングが施されている。最高出力は88.7hp/7400rpmを発生し、最大トルクは110Nm(11.22kg-m)/3950rpm。この出力とトルクは『ストリートスクランブラー』より38%アップしており、『ボンネビルT120』と比べても12%のパワーアップだ。

さらに、5種類のライディングモードが標準装備され、オフロードのマッピングではトラクションコントロールとABSをオフにすることで、パワースライドを愉しむことができるという。たしかに、ダートを駆け抜けるにはその設定は重要だ。

「XE」はIMU(inertial measurement unit=慣性計測装置)も搭載し、ローリング、ピッチング、ヨーイング、加速度を常に計測してくれる。ライディングモードに応じたコーナリングABSやトラクションコントロールの制御にいまや不可欠なデバイスだ。

アクションカメラ「GoPro」の内蔵型制御システムをオートバイとして初めて搭載

スタイリングはクラシカルだ。どこか1960年代初めのオリジナルのスクランブラーを彷彿とさせる。しかし細部を見ると、現代的な利便性と工夫にあふれている。

キーレス・イグニッション、グリップヒーター、クルーズコントロール、充電用のUSBジャックは当然としても、ウェアラブルカメラの代名詞である「GoPro」の内蔵型制御システムをオートバイに初めて採用したのはなかなかのインパクトだ。Bluetoothモジュールを介して接続し、カメラの操作は左側のバーエンドスイッチによって行う。

さらにグーグルとの提携により、トライアンフのスマートフォンアプリを介してグーグルマップによるターン・バイ・ターン(GPS利用による方向指示)がナビゲーションされるサービスぶりだ。むろんスマホでの通話や音楽も楽しめる。

日本導入時期や価格は未定だが、おそらく年内には発表されるのではないか。

トライアンフは、この新しい『スクランブラー1200』を世界に知らしめるため、フリースタイルライダーのアーニー・ビジルのチームから「XE」ベースのレーシングマシンをデザートレースのバハ1000に参加させた。これもなかなか大胆な戦略だが、レースは11月14日から4日間行われたので、結果を知りたい人はチェックしてほしい。

Text by Koji Okamura
Photo by (C) Triumph Motorcycles
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

動画はこちら
Triumph Scrambler 1200 オフィシャル動画
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第69回 | 大人ライダー向けのバイク

ドゥカティ ディアベル1260──悪役感溢れるクルーザー

クルーザーとは、平坦で長い直線道路を巡航(クルーズ)することに重点をおいたオートバイのスタイルのことだ。ハーレーダビッドソンやインディアンをイメージするとわかりやすいだろう。広大な北米大陸で発達したことから、日本ではアメリカンバイクとも呼ばれている。それをイタリア流のセンスによって味つけしたのが、ドゥカティ『ディアベル』である。従来のクルーザーと一線を画す独創的なデザインをもつ『ディアベル』は、2011年にデビューするや世界中で大ヒット。そして今回、第二世代へと進化した。

クルーザーでも「走りはやっぱりドゥカティ」。ファンの期待に応えるキャラクター

2010年にEICMA(ミラノモーターサイクルショー)で発表された初代『Diavel(ディアベル)』は、斬新なデザインだけではなく、従来のドゥカティのイメージと異なるクルーザージャンルに挑戦したモデルとして話題を集めた。じつは、ドゥカティは2014年にフォルクスワーゲングループに属するアウディに買収され、その傘下となっている。レース由来のスポーツモデルというブランドのアイデンティティを脇に置き、経営戦略を優先した結果の新型車と見る者が多かったことも、注目された理由のひとつだったのだろう。

しかし、初代『ディアベル』は見た目以上にスポーティで、実際にライディングを味わった人々からは「やっぱり走りはドゥカティ」との評価を得ることが多い。そうしたユーザーの声は、期待どおりのキャラクターに仕上げられていることを証明するものだ。

その『ディアベル』が第二世代へと進化した。ドゥカティは3月に開催されたジュネーブモーターショーで2019年モデルの発表を行ったが、そこで専用スペースを与えられ、ショーのアイコンモデルとしてお披露目されたのが『ディアベル1260』だ。しかも、2014年のようなマイナーチェンジではなく、すべてを見直した2代目としての登場である。

低回転域でもパワフルな排気量1262ccの「テスタストレッタDVT」エンジンを搭載

アイコニックな外観は、シルエット自体に大きな変化はない。しかし、全体にボリュームアップしており、重量感も増していると感じる。トレリス(格子状)フレームもまったく新しくなり、ぱっと見た印象としては、よりヒール(悪役)感が演出されているようだ。短いシートエンドとスラッシュカットで跳ね上がるサイレンサーエンドは、リアまわりをすっきりとさせた。同時にマスが凝縮されているようで、鍛えられた筋肉を連想させる。

その細部への作り込みによる質感の高さが評価されたのか、『ディアベル1260』は第二世代であるにもかかわらず、ドイツの権威あるプロダクトデザイン賞「Red Dot Award 2019:Best of the Best(レッド・ドット・デザイン賞)」にも輝いているくらいだ。

エンジンは、初代から継承されてきた排気量1198ccの水冷L型ツインからスープアップされ、1262ccの強力な「テスタストレッタDVT」エンジンを搭載。それにより、最高出力は従来の152hp/9000rpmから159hp/9000rpmへ、最大トルクは12.5kgm/8000rpmから13.2kgm/7500rpmへとそれぞれ高められている。車体重量はドライウエイトで218kgもあるが、これだけのトルクがあれば低速域でも軽快に扱えるはずだ。

ドゥカティ自身も新エンジンについて、「息を呑む加速とスムーズな低回転域のパワー特性を備え、日常ユースにも長距離ツアーにも対応する」としている。そのパワーを受け止めるのは、『ディアベル』のトレードマークである極太のリアタイヤだ。クルマ並の240mmという超ワイドタイヤを装着し、ボッシュ製のコーナリングABSも標準装備された。

特別なコンポーネントを与えられたスポーティ仕様車『ディアベル1260 S』も設定

新型には標準仕様に加えてスポーティな「S」バージョンも設定された。こちらには、専用のシートとホイールが与えられるほか、ブレンボ製M50ラジアルマウント・モノブロック・ブレーキ・キャリパー、オーリンズ製サスペンションなどを装備。さらに、クラッチ操作をせずに変速できる「クイックシフトアップ&ダウンエボ」も標準装備される。

『ディアベル1260』は、すでに1月半ばからボローニャにあるドゥカティの本社工場で生産が始まっており、ヨーロッパでは3月から販売が開始された。日本での発売は7月ごろを予定している。4月13日には大阪で「Ducati Diavel Meeting」が開催されたが、なんとこのミーティングの参加者は現行『ディアベル』のオーナー限定だった。新型のオーナーになれば、こうした特別なイベントへの招待状がドゥカティから届くかもしれない。

Text by Koji Okamura
Photo by (C) Ducati Motor Holding S.p.A
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

動画はこちら
Ducati Diavel 1260 オフィシャル動画
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