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第56回 | 大人ライダー向けのバイク

再現された80年前の試作車──BMW R nineT ノスタルジア

ミュンヘンのBMWミュージアムに所蔵される、一風変わったスタイルをもつ古いオートバイ。80年以上も昔に一台のみが作られた試作車だが、不思議と古さをあまり感じさせず、そのデザインはむしろ近未来的にも見える。このBMWによる幻のプロトタイプ──『R7』を再現したカスタムが登場して世界中のバイクファンの注目を集めている。モデル名は「追憶」「過ぎ去った時代を懐かしむ」といった意味をもつ『ノスタルジア』だ。

ヒトラーが首相に就任し、欧州が緊張に包まれるなかで作られた幻のプロトタイプ

この『Nostalgia(ノスタルジア)』というカスタムバイクを紹介するには、まずそのモデルである80年以上前に作られたプロトタイプについて語っておく必要がある。

BMWオートバイの愛好家にも、『R7』について知っているライダーはそう多くはないだろう。有機的で流麗なデザインを持ち、むろんメカニズム的にも当時の最先端技術が凝縮されたプロトタイプだった。BMWの頂点を指し示すべく作られた車両である。

しかしその美しくも革新的なオートバイは陽の目を見ることなく、倉庫の奥深くに納められてしまった。なにしろ『R7』が誕生したのは1934年のこと。ドイツでヒトラーが首相に就任した翌年であり、満州では関東軍が執政薄儀を皇帝に帝政を開始した。世界各地で紛争や反乱が頻発し、ヨーロッパ全土が不安と緊張感に包まれていたのだ。

そんな時期に、量産性や採算性を無視したかのような二輪車の製造が認められるはずがなかった。『R7』は一台のみ作られた試作車として歴史の陰に消え、写真だけが残された。少なくともそう信じられてきた。存在すら忘れられていたかもしれない。

写真しか残っていないと思われていたBMW『R7』が2005年に倉庫の隅で発見された

事態が動き出したのは2005年のことだ。あるとき、木製パレットに縛りつけられたホコリまみれのオートバイとして『R7』が再発見されたのだ。

2000年代半ばの当時のヨーロッパでは、折しもクラシカルなクルマやオートバイの人気が高まっていた。特に、ノスタルジックなオートバイは幅広い年齢層にファッションアイテムとしても支持され、BMWグループも「BMW Mobile Tradition(現:BMW Classic)」を設立し、レストアやパーツの製造によってヘリテージに力を入れようとしていた。

再発見された『R7』はけっして良い状態ではなく、割れたバッテリーから酸が漏れ出して腐食が進み、各部はサビに覆われ多数のパーツが欠損していたという。しかし本社のサポートもあり、BMW Classicは2年の月日をかけて完璧に修復。以降、『R7』はBMWミュージアムの展示品となり、ヨーロッパ各地のイベントでも披露された。

おそらくそうしたヒストリックバイクのイベントのひとつに足を運び、そこで目を奪われたのではないだろうか。アメリカ・フロリダ州でレストアショップ「Florida Motors」を営むスタンリー氏が、『R7』を現代に甦らせようと決意するのである。

BMW『R nineT Pure』をベースに、100点近いパーツを手作りして『R7』を再現

スタンリー氏は、アールデコ時代(1910〜30年に欧米で流行した幾何学的なデザイン傾向)に敬意を表したうえで、『R7』の再現についておおよそこう述べている。

「私たちはそれを『Nostalgia Project』と名づけました。社内で作成した手作りのコンポーネントを備えたR7スタイルの再現です。 2人の世界的に有名なデザイナーと協力し、手頃な価格でアートデコレーションの精神を捉えたキットを作り上げました」

ベースは現行モデルのBMW『R nineT Pure』。1170ccのボクサーエンジンを積み、7750rpm で110hpを発生する。車体重量は205kg。アルミパーツを多用したことでベースの219kgから14kgも軽量化された。そのため、最高速度も125mphから140mph(約225km/h)に伸びているようだ。ちなみに、スタンリー氏のコメントにあるとおり、『ノスタルジア』のキットには100点近い手作りのパーツが使用され、軽量化だけではなく、空力や総合性能も現代のオートバイと遜色ないレベルに向上させている。

『R7』を再現した『ノスタルジア』は約558万円。注文が殺到して新規受注は困難に

『ノスタルジア』の価格は、ベースとなる『R nineT Pure』の車両代込みで4万9500ドル。日本円に換算すると、およそ558万円だ。かなり高価となるが、驚いたことに、すでにNmoto Designの特設サイトを通じて40以上の注文を受けているという。

そのため、現在は新規受注が3カ月から6カ月延期されている。おそらくコンプリートでの入手は困難だろう。しかし、それでもほしいという人は、キットパーツを購入して組み上げるという手もある。こちらは2019年5月のリリースを予定している。

Text by Koji Okamura
Photo by (C) Nmoto
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

動画はこちら
Nostalgia Motorcycle BMW R nineT BMW R7
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第69回 | 大人ライダー向けのバイク

ドゥカティ ディアベル1260──悪役感溢れるクルーザー

クルーザーとは、平坦で長い直線道路を巡航(クルーズ)することに重点をおいたオートバイのスタイルのことだ。ハーレーダビッドソンやインディアンをイメージするとわかりやすいだろう。広大な北米大陸で発達したことから、日本ではアメリカンバイクとも呼ばれている。それをイタリア流のセンスによって味つけしたのが、ドゥカティ『ディアベル』である。従来のクルーザーと一線を画す独創的なデザインをもつ『ディアベル』は、2011年にデビューするや世界中で大ヒット。そして今回、第二世代へと進化した。

クルーザーでも「走りはやっぱりドゥカティ」。ファンの期待に応えるキャラクター

2010年にEICMA(ミラノモーターサイクルショー)で発表された初代『Diavel(ディアベル)』は、斬新なデザインだけではなく、従来のドゥカティのイメージと異なるクルーザージャンルに挑戦したモデルとして話題を集めた。じつは、ドゥカティは2014年にフォルクスワーゲングループに属するアウディに買収され、その傘下となっている。レース由来のスポーツモデルというブランドのアイデンティティを脇に置き、経営戦略を優先した結果の新型車と見る者が多かったことも、注目された理由のひとつだったのだろう。

しかし、初代『ディアベル』は見た目以上にスポーティで、実際にライディングを味わった人々からは「やっぱり走りはドゥカティ」との評価を得ることが多い。そうしたユーザーの声は、期待どおりのキャラクターに仕上げられていることを証明するものだ。

その『ディアベル』が第二世代へと進化した。ドゥカティは3月に開催されたジュネーブモーターショーで2019年モデルの発表を行ったが、そこで専用スペースを与えられ、ショーのアイコンモデルとしてお披露目されたのが『ディアベル1260』だ。しかも、2014年のようなマイナーチェンジではなく、すべてを見直した2代目としての登場である。

低回転域でもパワフルな排気量1262ccの「テスタストレッタDVT」エンジンを搭載

アイコニックな外観は、シルエット自体に大きな変化はない。しかし、全体にボリュームアップしており、重量感も増していると感じる。トレリス(格子状)フレームもまったく新しくなり、ぱっと見た印象としては、よりヒール(悪役)感が演出されているようだ。短いシートエンドとスラッシュカットで跳ね上がるサイレンサーエンドは、リアまわりをすっきりとさせた。同時にマスが凝縮されているようで、鍛えられた筋肉を連想させる。

その細部への作り込みによる質感の高さが評価されたのか、『ディアベル1260』は第二世代であるにもかかわらず、ドイツの権威あるプロダクトデザイン賞「Red Dot Award 2019:Best of the Best(レッド・ドット・デザイン賞)」にも輝いているくらいだ。

エンジンは、初代から継承されてきた排気量1198ccの水冷L型ツインからスープアップされ、1262ccの強力な「テスタストレッタDVT」エンジンを搭載。それにより、最高出力は従来の152hp/9000rpmから159hp/9000rpmへ、最大トルクは12.5kgm/8000rpmから13.2kgm/7500rpmへとそれぞれ高められている。車体重量はドライウエイトで218kgもあるが、これだけのトルクがあれば低速域でも軽快に扱えるはずだ。

ドゥカティ自身も新エンジンについて、「息を呑む加速とスムーズな低回転域のパワー特性を備え、日常ユースにも長距離ツアーにも対応する」としている。そのパワーを受け止めるのは、『ディアベル』のトレードマークである極太のリアタイヤだ。クルマ並の240mmという超ワイドタイヤを装着し、ボッシュ製のコーナリングABSも標準装備された。

特別なコンポーネントを与えられたスポーティ仕様車『ディアベル1260 S』も設定

新型には標準仕様に加えてスポーティな「S」バージョンも設定された。こちらには、専用のシートとホイールが与えられるほか、ブレンボ製M50ラジアルマウント・モノブロック・ブレーキ・キャリパー、オーリンズ製サスペンションなどを装備。さらに、クラッチ操作をせずに変速できる「クイックシフトアップ&ダウンエボ」も標準装備される。

『ディアベル1260』は、すでに1月半ばからボローニャにあるドゥカティの本社工場で生産が始まっており、ヨーロッパでは3月から販売が開始された。日本での発売は7月ごろを予定している。4月13日には大阪で「Ducati Diavel Meeting」が開催されたが、なんとこのミーティングの参加者は現行『ディアベル』のオーナー限定だった。新型のオーナーになれば、こうした特別なイベントへの招待状がドゥカティから届くかもしれない。

Text by Koji Okamura
Photo by (C) Ducati Motor Holding S.p.A
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

動画はこちら
Ducati Diavel 1260 オフィシャル動画
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