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第113回 | 大人のための最新自動車事情

カラシニコフCV-1──あのAK-47を生んだロシア企業のEV

銃器にそれほど興味がない人でも、「カラシニコフ」という名前は聞いたことがあるのではないだろうか。そう、自動小銃『AK-47』で知られるロシアの企業だ。この戦場でおなじみの銃器メーカーが、9月にロシアで開催された軍事関連の展示会でプロトタイプのEV(電気自動車)を発表した。モデル名は『CV-1』。しかも、軍用車ライクないかつい車両かと思いきや、そのルックスはなんともクラシカルで愛嬌さえ感じるのである。

自動小銃『AK-47』で有名なカラシニコフは、軍需品からスマホまで作る巨大な企業

カラシニコフといえば、なんといってもよく知られているのは『AK-47』だろう。1949年に旧ソ連軍に採用された歴史あるアサルトライフル(自動小銃)で、「水に浸けても砂に埋めても壊れない」といわれるほどの高い耐久性をもつ。その実用性とシンプルな操作性から『AK-47』は旧東側諸国を中心に全世界へと普及した。登場から半世紀が過ぎたが、今でもあらゆる紛争地帯で兵士たちにもっとも信頼される装備となっている。

しかし、誤解している人も多いと思うが、カラシニコフは自動小銃や拳銃だけを作っているロシアのローカルな銃器メーカーではない。現在は──冷戦時代には考えられなかったことだが──なんとアメリカにも進出している巨大な軍事産業複合企業なのだ。

製品ラインナップは、小火器に始まり、誘導ミサイルや無人偵察機、装甲車にまで及ぶ。軍需品以外にも民生用のオートバイや救援ボートを製造し、さらには生産システムのプログラム開発、腕時計やスマートフォンといった身近なプロダクトまで作っている。そのカラシニコフが今度はEVを開発したという。それが8月にモスクワで開催された軍事見本市「Army 2018」でお披露目されたプロトタイプのEV『CV-1』だ。

東欧諸国で人気の「旧ソ連時代の旧車」をイメージした古色蒼然としたスタイリング

そのデザインはいかにもロシア製といった雰囲気の古色蒼然としたもの。ベース車両は1970年代、つまり旧ソ連の小型車であるラーダ『Combi(コンビ)』だという。

たしかに『CV-1』は『Combi』と同様の4ドアハッチバックで、そのスタイリングは現代的な空力や衝突安全性などを無視しているかのようだ。外版には曲線が少なく、台形の車体には生産性ばかりが優先されていた時代の雰囲気がそのままの形で残っている。だからなのか、鮮やかなパールブルーのボディカラー、そしてワイドタイヤやLEDヘッドランプといった装備がレトロな車両とどこか不似合いにも見えてしまう。

現在のヨーロッパ、とりわけ東欧諸国では、ヴォルガ(GAZが旧ソ連時代から製造している乗用車)やトラバント(冷戦時代に旧東ドイツのメーカーが製造していた小型車)といった古めかしいクルマが人気を集めていて、売買価格も上昇しているという。

つまり、機能性よりも「冷戦時代のヘリテージ」というファッションとして注目されているわけだが、そのトレンドをカラシニコフはしっかりと捉えているのである。

最高出力300馬力、航続距離350km。まるで「社会主義の皮を被ったスーパーカー」

『CV-1』について公開されている情報は少ないが、額面通りならなかなかのものだ。最高出力は220kw(約300hp)、0-100km/h加速は6.0秒に達するという。

西側諸国のEVと比べても遜色がないどころか、羊の皮を被った狼、いや「社会主義の皮を被ったスーパーカー」といったところだろうか。リチウムイオンバッテリーを採用し、独自開発の充電システムや出力コントロールシステムによって、1回のフル充電で最長約350kmを走行可能だという。これが事実なら十分に実用範囲といえる。

価格や発売時期は明らかになっていない。西側諸国でのテスト走行もまだだ。しかし、ロシア企業のグローバル化が急激に進んでいる現状や、西側メディアの報道を見る限り、『CV-1』が市販化されるまでの道のりはそれほど困難ではなさそうだ。

すでにカラシニコフは電動オートバイをモスクワ市のインフラ当局に納入している。軍用車の電動バギーも開発しているので、技術的な蓄積もあるだろう。今回の軍事見本市ではUAE(アラブ首長国連邦)の投資会社とEV供給の覚書を交わしているが、これは巨額のオイルマネーを後ろ盾にしたことを意味する。開発は加速するかもしれない。

カラシニコフが意識しているのは高級EVのテスラ。こんな「米ソ対決」なら大歓迎

『AK-47』はテロ事件やアメリカの銃乱射事件でも使用され、その生みの親であるミハイル・カラシニコフ氏に「恐ろしい人物」のイメージを持つ人もいるかもしれない。

しかし、余談になるが、カラシニコフ氏は貧しい農家に生まれ、子ども時代は病弱、性格は温和だった。単に機械としての銃器に強い関心があっただけのようだ。残念ながら、カラシニコフ氏は2013年、『AK-47』を設計した当時に住んでいたロシア連邦ウドムルト共和国の首都イジェフスクの病院で死去している。享年94歳だった。

東西冷戦下ではアメリカと核ミサイルの開発戦争をしていた旧ソ連だが、そんな時代はとうの昔に終わった。現代のカラシニコフは、高級EVの代名詞となっているアメリカのテスラを意識しているという。こんな「米ソ対決」なら楽しみにしても良いだろう。

Text by Koji Okamura
Photo by (C) KALASHNIKOV
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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第130回 | 大人のための最新自動車事情

エモーションEV──バタフライドアの電動スポーツカー

ポルシェ初の量産EVスポーツカーとして話題の『タイカン』は今年生産を開始し、驚異的なスペックを誇るテスラのスーパースポーツカー『ロードスター』も2020年の発売を予定している。EVスポーツカーは、いま旬を迎えつつあるカテゴリだ。そうしたなか、アメリカのフィスカーがCES 2019で初公開した『エモーションEV』が予約受付を開始した。バタフライ4ドアが特徴の高級フルEVスポーツは、いったいどんなクルマなのか。

BMW『Z8』やアストンマーチン『DB9』のデザイナーが手がけた高級スポーツEV

フィスカー『エモーションEV』は、ヘンリック・フィスカー氏の手によるエレガントなデザインの高級EVスポーツカーだ。フィスカー氏はデンマーク出身の著名なカーデザイナー。BMWに在籍していた当時に『Z8』、EVコンセプトモデルの『E1』などを手がけ、アストンマーチンでは『DB9』『DBS』『ヴァンテージ』のデザインを担当した。

その後、独立してメルセデス・ベンツやBMWをベースにしたコンプリートカーやハイブリッドエンジン搭載のオリジナルモデルを製作するが、じつは、テスラで『ロードスター』『モデルS』の2モデルの開発に参加したこともあるようだ。そのせいというわけではないだろうが、『エモーションEV』のデザインはどこかテスラに似た雰囲気もある。

ともあれ、スタイリングは「美しい」のひと言に尽きる。とりわけ特徴的なのは、開くとドア側面が蝶の羽のような形に見える「バタフライ4ドア」だ。同じ上部に向かって開くドアでも、縦方向に開くシザースドアと違い、バタフライドアは外側が斜め前方に、内側が下向きに開く。駐車スペースに苦労する日本ではなかなかお目にかかれないドアだ。

バッテリーはリチウムイオンではなく炭素素材コンデンサ。多くの先端技術を搭載

面白いのは、バッテリーに多くのEVに採用されるリチウムイオンではなく、炭素素材コンデンサのグラフェンスーパーキャパシタを採用したことだ(全個体充電池搭載モデルもラインナップ)。1回の充電あたりの最大走行距離は約640km。急速充電の「UltraCharger」に対応しており、9分間の充電で約205km分の容量までチャージ可能という。

EVパワートレインは最高出力700psを発生し、最高速度は260km/h。このスペックを見ると、テスラ『ロードスター』のようなEVスーパースポーツではなく、あくまでスポーティカーという位置づけなのだろう。全長5085×全幅2015×全高1465mmのボディは軽量のカーボンファイバーとアルミニウムで構成され、駆動方式は四輪駆動だ。

このほか、ADAS(先進運転支援システム)としてクアナジー製LIDARセンサーを5個搭載し、コネクテッドなどのEVスポーツカーらしいさまざまな先端技術を装備する。

『エモーションEV』の価格は1440万円。予約も開始され今年中にデリバリー予定

前述の通り、『エモーションEV』はグラフェンスーパーキャパシタ搭載モデルと全個体充電池搭載モデルの2モデルを設定。価格はグラフェンスーパーキャパシタ搭載モデルが1440万円(税別)、全個体充電池搭載モデルの価格は未定だ。すでに日本でもデロリアン・モーター・カンパニーを正規代理店に予約受付を開始しており、グラフェンスーパーキャパシタは今年中の納車を予定している。ただし、予約金として約24万円が必要だ。

最近では東京都心部などでテスラをよく見かけるようになり、もはやEVは現実的な乗り物になりつつある。たしかに価格は1000万円オーバーと高価。しかし、この美しいルックスなら、他人と違うクルマに乗りたいという欲求を満たすことができるのではないか。

Text by Kenzo Maya
Photo by (C) Fisker, Inc.
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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