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第55回 | 大人ライダー向けのバイク

美しきZ900RS改を見よ──これがカフェレーサーの様式美

「カフェレーサー」とは、1960年代にイギリスで流行したロッカーズといライフカルチャーを源流とするカスタムスタイルのことだ。ライダースジャケットにロールアップデニム、白いスカーフを巻いたロッカーズたちは24時間営業のカフェをたまり場とし、トライアンフやノートンのカスタムバイクに乗ってカフェからカフェの区間をいかに速く走れるかを競い合った。そこから生まれたのがカフェレーサーだ。10月のパリサロンでフランスのビルダーが発表したカワサキ『Z900RS』のカスタムモデルは、見るからにカフェレーサーらしいスタイルに仕上げた一台。ロケットカウル、低く構えたセパレートハンドル、短くカットされたリア、跳ね上がった4-1マフラーは一見の価値ありなのである。

トラッカー、スクランブラー、そしてカフェレーサー。欧州で高まるカスタムバイク熱

ヨーロッパではここ数年、カスタムバイク熱が高まっている。それもスタイリングの傾向としては、往年の「トラッカー」をはじめ、ブロックタイヤが似合う泥系やボバー系の「スクランブラー」、さらにシングルシートにセパレートハンドルを組み合わせた「カフェレーサー」といった、どちらかというとクラシカルなベクトルを見ることができる。

それを流行といってしまえばそれまでだ。しかし、オートバイにも電動化が進むなかで、その波への抵抗感があるのも事実。カスタム熱は、ガソリンエンジンならではの躍動感やボリューム、そしてメカニズムとしての存在感が見直されているためでもある。

エディトゥールでカスタムバイクを取り上げることは少ない。それは多くの場合、カスタムバイクは一品モノの車両で、いくら手に入れたくても購入するのは難しいからだ。

しかし、この『Z900RS』のカフェレーサーは、カワサキのフランス法人とカスタムビルダーとして急成長するMRS oficine(エムアールエス・オフィシナ)がコラボレーションしたモデル。望めば購入も可能なのである(日本で型式認定が取得できるかは不明)。

(C) Damien Bertrand
(C) Damien Bertrand

60年代のロンドンというより、70年代に日本で流行したカフェレーサーのスタイル

ロケットカウルにシングルシート、セパレートハンドルというカスタムは、まさにカフェレーサーそのもの。とはいえ、60年代にロンドンの「Ace Cafe(エースカフェ)」で見られたロッカーズのノートンやトライアンフのそれと違い、これは70年代に日本でも流行したスタイルだ。当時を知る大人ライダーには懐かしく、今の若者には新鮮だろう。

しかし、それでいて十分なポテンシャルを秘めているように見える。このカスタムテーマにとって、カワサキ『Z900RS』という素材はうってつけだったに違いない。

注目すべきは、モノからツインへのリアショックの変更だ。さすがに、カフェレーサーへとカスタムするのにモノショックというわけにはいかなかったようだが、ショックユニットの上端部を支えるリアフレームには十分な強度が必要で、ツインに変更するにはフレームを大改造することになったはずである。そしてぎりぎりまで短くされたシングルシートに、艶やかな曲線を描き、昔のような「手曲げ」を思わせるエキゾーストパイプ。いずれも巧みにツボを突いたもので、そのカスタムセンスとテクニックには感心する。

「並列4気筒エンジンに集合マフラー」というのも重要な要素だ。カフェレーサーに限らず、この組み合わせは70年代のイメージに欠かせないもの。ビルダーとしてはラジエターの存在が邪魔だったかもしれないが、こればかりは仕方がないだろう。

また、気づきにくいところだが、塗装と細部の仕上げにも心憎い配慮や感性を見ることができる。たとえばメタリックはかつて流行した塗装で、それを要所に使い、デザイン的に往時のカフェレーサーらしさを演出している。この点についてビルダーは特にアピールしていないが、今となっては逆に新しさを感じさせる手法になっている。

さらに、取り外したノーマルパーツの痕跡として残るラグを取り去り、完璧にスムージングしている点も見逃せない。これが中途半端に残っていると確実に仕上がりに影響してしまうので、意外と重要なのだ。開発上のキーワードは「創造性、スポーツマンシップ、優雅さ、細部への配慮」とのことだが、その意思が完遂されたのだと受け取れる。

下画像の上段が通常の『Z900RS』。下段がMRS oficineによるカフェレーサーである。

フランスのカスタムビルダーは、日本メーカーのオートバイを改造するのがお好き?

MRS oficineはカフェレーサーを得意とするビルダーで、同社が手がけたカスタムモデルはほかにも多い。しかし、さまざまなメーカーの車両をベースにしているなかで、圧倒的に多いのは日本車だ。この点は日本人ライダーとして喜ばしい気持ちになる。

どうやらMRS oficineのオフィスはパリのど真ん中にあるようだ。現在のパリは、もはや60年代以前のように世界中から芸術家が集まってくる場所ではなくなっているが、町並みやファッションには往時の面影を見ることができる。この『Z900RS』のカフェレーサーにもその欠片が混ざっているというのは、ちょっと言い過ぎだろうか。

Text by Koji Okamura
Photo by (C) MRS oficine
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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第69回 | 大人ライダー向けのバイク

ドゥカティ ディアベル1260──悪役感溢れるクルーザー

クルーザーとは、平坦で長い直線道路を巡航(クルーズ)することに重点をおいたオートバイのスタイルのことだ。ハーレーダビッドソンやインディアンをイメージするとわかりやすいだろう。広大な北米大陸で発達したことから、日本ではアメリカンバイクとも呼ばれている。それをイタリア流のセンスによって味つけしたのが、ドゥカティ『ディアベル』である。従来のクルーザーと一線を画す独創的なデザインをもつ『ディアベル』は、2011年にデビューするや世界中で大ヒット。そして今回、第二世代へと進化した。

クルーザーでも「走りはやっぱりドゥカティ」。ファンの期待に応えるキャラクター

2010年にEICMA(ミラノモーターサイクルショー)で発表された初代『Diavel(ディアベル)』は、斬新なデザインだけではなく、従来のドゥカティのイメージと異なるクルーザージャンルに挑戦したモデルとして話題を集めた。じつは、ドゥカティは2014年にフォルクスワーゲングループに属するアウディに買収され、その傘下となっている。レース由来のスポーツモデルというブランドのアイデンティティを脇に置き、経営戦略を優先した結果の新型車と見る者が多かったことも、注目された理由のひとつだったのだろう。

しかし、初代『ディアベル』は見た目以上にスポーティで、実際にライディングを味わった人々からは「やっぱり走りはドゥカティ」との評価を得ることが多い。そうしたユーザーの声は、期待どおりのキャラクターに仕上げられていることを証明するものだ。

その『ディアベル』が第二世代へと進化した。ドゥカティは3月に開催されたジュネーブモーターショーで2019年モデルの発表を行ったが、そこで専用スペースを与えられ、ショーのアイコンモデルとしてお披露目されたのが『ディアベル1260』だ。しかも、2014年のようなマイナーチェンジではなく、すべてを見直した2代目としての登場である。

低回転域でもパワフルな排気量1262ccの「テスタストレッタDVT」エンジンを搭載

アイコニックな外観は、シルエット自体に大きな変化はない。しかし、全体にボリュームアップしており、重量感も増していると感じる。トレリス(格子状)フレームもまったく新しくなり、ぱっと見た印象としては、よりヒール(悪役)感が演出されているようだ。短いシートエンドとスラッシュカットで跳ね上がるサイレンサーエンドは、リアまわりをすっきりとさせた。同時にマスが凝縮されているようで、鍛えられた筋肉を連想させる。

その細部への作り込みによる質感の高さが評価されたのか、『ディアベル1260』は第二世代であるにもかかわらず、ドイツの権威あるプロダクトデザイン賞「Red Dot Award 2019:Best of the Best(レッド・ドット・デザイン賞)」にも輝いているくらいだ。

エンジンは、初代から継承されてきた排気量1198ccの水冷L型ツインからスープアップされ、1262ccの強力な「テスタストレッタDVT」エンジンを搭載。それにより、最高出力は従来の152hp/9000rpmから159hp/9000rpmへ、最大トルクは12.5kgm/8000rpmから13.2kgm/7500rpmへとそれぞれ高められている。車体重量はドライウエイトで218kgもあるが、これだけのトルクがあれば低速域でも軽快に扱えるはずだ。

ドゥカティ自身も新エンジンについて、「息を呑む加速とスムーズな低回転域のパワー特性を備え、日常ユースにも長距離ツアーにも対応する」としている。そのパワーを受け止めるのは、『ディアベル』のトレードマークである極太のリアタイヤだ。クルマ並の240mmという超ワイドタイヤを装着し、ボッシュ製のコーナリングABSも標準装備された。

特別なコンポーネントを与えられたスポーティ仕様車『ディアベル1260 S』も設定

新型には標準仕様に加えてスポーティな「S」バージョンも設定された。こちらには、専用のシートとホイールが与えられるほか、ブレンボ製M50ラジアルマウント・モノブロック・ブレーキ・キャリパー、オーリンズ製サスペンションなどを装備。さらに、クラッチ操作をせずに変速できる「クイックシフトアップ&ダウンエボ」も標準装備される。

『ディアベル1260』は、すでに1月半ばからボローニャにあるドゥカティの本社工場で生産が始まっており、ヨーロッパでは3月から販売が開始された。日本での発売は7月ごろを予定している。4月13日には大阪で「Ducati Diavel Meeting」が開催されたが、なんとこのミーティングの参加者は現行『ディアベル』のオーナー限定だった。新型のオーナーになれば、こうした特別なイベントへの招待状がドゥカティから届くかもしれない。

Text by Koji Okamura
Photo by (C) Ducati Motor Holding S.p.A
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

動画はこちら
Ducati Diavel 1260 オフィシャル動画
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