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第112回 | 大人のための最新自動車事情

秘密兵器も搭載──ボンドカー仕様のアストンマーチンDB5

1964年に公開された『007ゴールドフィンガー』は、全24作を数える『007』シリーズのなかでも、ファンからもっとも多くの支持を集め、しばしば名作と評さる。この作品でショーン・コネリー演じるジェームズ・ボンドが愛車として使用したのがアストンマーチン『DB5』だ。以降、シリーズ6作に登場し、『DB5』は史上もっとも有名なボンドカーとなった。その『DB5』が『Goldfinger』という名のレプリカ車両として25台限定で生産される。しかも、可変ナンバープレートなどの秘密兵器はそのままに。

ボンドカーの代名詞、アストンマーチン『DB5』が限定25台のレプリカとして復活

まずジェームズ・ボンドと彼の愛車のボンドカーについてあらためて説明しておこう。ボンドはMI6(イギリス情報局秘密情報部)に所属するエージェントで、“殺しのライセンス”を持つ男。007(ダブル・オー・セブン)というコードネームで呼ばれている。

そのボンドの相棒として劇中に登場するのがボンドカーだ。スパイの愛車らしく数々の特殊装備を搭載し、防弾ガラス、機関銃、煙幕、さらにはミサイルを発射したり、潜水艦になったりするクルマもあった。開発はMI6の秘密兵器開発主任「Q」が担当する。

車種もじつに多彩。イアン・フレミングの原作小説に登場するボンドカーはベントレーだけだったが、映画にはロータス『エスプリ』、トヨタ『2000GT』、BMW『750iL』、BMW『Z8』、アストンマーチン『DB10』など、さまざまなモデルが登場する。

とりわけ有名なのが『007ゴールドフィンガー』で使用されたアストンマーチン『DB5』だ。特殊装備が搭載されるようになったのは『DB5』以降のことで、6作にわたって登場するのも『DB5』のみ。古いファンならボンドカーといえば『DB5』を思い浮かべる。

そのボンドカー仕様の『DB5』がレプリカとして甦る。アストンマーチンがそのクルマに与えたモデル名はズバリ、『Goldfinger(ゴールドフィンガー)』である。

ボンドカーといえばギミック。レプリカには回転式ナンバープレートも搭載される

ボンドカー仕様の『DB5』は、撮影用2台と宣伝用2台の計4台がアストンマーチンによって特別に製作された。ベースモデルとなったのは1964年型の『DB5』だ。

パワートレインはオールアルミ製の4.0L水冷直列6気筒DOHCエンジン。最高出力はキャブレターによって282hp〜314hpを発揮する。ちなみに、車名の「DB」は当時の親会社だったデイヴィッド・ブラウン社のイニシャルに由来する。同社はトラクターや工業機械を製造するメーカーで、『DB5』のトランスミッションも同社が供給していた。

搭載する秘密兵器は多岐にわたった。車両のフロントにはマシンガン、ホイール中央にはスピンナー(タイヤカッター)が備えられ、ボタンひとつでせり出す防弾板、オイル噴射装置、煙幕…。敵が助手席に座れば射出シートでふっ飛ばしてしまうのである。

なかでも有名なのが可変ナンバープレートだろう。くるりと回転してイギリスナンバーからフランスナンバーへ、さらにスイスナンバーへと変わるギミックだ。これらの斬新なアイデアは、映画ファンはもちろん、クルマやメカが好きなすべての男たちをも興奮させた。『DB5』=ボンドカーは「007」の名を世界中に広めた立役者だったといえる。

レプリカの『Goldfinger』には、『007』シリーズの製作を手がけるイギリスのイーオン・プロダクションズの協力のもと、可変ナンバープレートがそのまま装備される。

そのほかの特殊装備についてはアナウンスがない。機関銃やミサイルは当然搭載されないとしても、複数の装備が追加されそうだ。アストンマーチンは「品質と信頼性確保のために若干のモディファイがある」としているが、これはさすがにやむを得ない。

下の写真は2012年の『007スカイウォール』に再登場したときの『DB5』だ。

レプリカモデル『Goldfinger』の価格は約4億円。ただし公道を走ることはできない

『Goldfinger』が生産されるのは、アストンマーチン発祥の地であり、実際にボンドカー仕様の『DB5』を製作した英国のニューポート・パグネル工場。ファンやコレクターにとって、同じ場所で作られることは重要であり、価値を高めるものとなる。外観もスペックもできるだけ往時を再現し、内外装や塗装は熟練工の手作業で行われるという。

価格は275万ポンド。日本円に換算すると約4億円だ。2020年にデリバリーが開始されるが、25台の生産で、発表が2カ月前の8月下旬であったことを考えると、すでに全台売約済みの可能性が高い。実車を目にするチャンスがあるかどうかもわからない。当然といえば当然だが、アストンマーチンのプレスリリースには「Please note, this car is not road legal.(このクルマは公道走行については合法でない)」と記されているからだ。

余談になるが、映画に使用された『DB5』のうち一台は、1997年にアメリカのフロリダ空港の格納庫で保管していた際に盗難に遭っている。それもタイヤ痕からすると、飛行機に積まれた可能性があるというから、その事実もまるでスパイ映画のようだ。

その後、民間調査会社が追跡調査を行い、最近になって中東のどこかに存在すると発表された。ヨーロッパでは美術品の盗難はよくあることで、調査会社が所在を突き止め、保険会社が秘密裏に買い取って持ち主に返却する。オリジナルのボンドカー仕様車は1300万ドルの価値があると認められているだけに、その行方には興味が尽きない。

Text by Koji Okamura
Photo by (C) ASTON MARTIN
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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第130回 | 大人のための最新自動車事情

エモーションEV──バタフライドアの電動スポーツカー

ポルシェ初の量産EVスポーツカーとして話題の『タイカン』は今年生産を開始し、驚異的なスペックを誇るテスラのスーパースポーツカー『ロードスター』も2020年の発売を予定している。EVスポーツカーは、いま旬を迎えつつあるカテゴリだ。そうしたなか、アメリカのフィスカーがCES 2019で初公開した『エモーションEV』が予約受付を開始した。バタフライ4ドアが特徴の高級フルEVスポーツは、いったいどんなクルマなのか。

BMW『Z8』やアストンマーチン『DB9』のデザイナーが手がけた高級スポーツEV

フィスカー『エモーションEV』は、ヘンリック・フィスカー氏の手によるエレガントなデザインの高級EVスポーツカーだ。フィスカー氏はデンマーク出身の著名なカーデザイナー。BMWに在籍していた当時に『Z8』、EVコンセプトモデルの『E1』などを手がけ、アストンマーチンでは『DB9』『DBS』『ヴァンテージ』のデザインを担当した。

その後、独立してメルセデス・ベンツやBMWをベースにしたコンプリートカーやハイブリッドエンジン搭載のオリジナルモデルを製作するが、じつは、テスラで『ロードスター』『モデルS』の2モデルの開発に参加したこともあるようだ。そのせいというわけではないだろうが、『エモーションEV』のデザインはどこかテスラに似た雰囲気もある。

ともあれ、スタイリングは「美しい」のひと言に尽きる。とりわけ特徴的なのは、開くとドア側面が蝶の羽のような形に見える「バタフライ4ドア」だ。同じ上部に向かって開くドアでも、縦方向に開くシザースドアと違い、バタフライドアは外側が斜め前方に、内側が下向きに開く。駐車スペースに苦労する日本ではなかなかお目にかかれないドアだ。

バッテリーはリチウムイオンではなく炭素素材コンデンサ。多くの先端技術を搭載

面白いのは、バッテリーに多くのEVに採用されるリチウムイオンではなく、炭素素材コンデンサのグラフェンスーパーキャパシタを採用したことだ(全個体充電池搭載モデルもラインナップ)。1回の充電あたりの最大走行距離は約640km。急速充電の「UltraCharger」に対応しており、9分間の充電で約205km分の容量までチャージ可能という。

EVパワートレインは最高出力700psを発生し、最高速度は260km/h。このスペックを見ると、テスラ『ロードスター』のようなEVスーパースポーツではなく、あくまでスポーティカーという位置づけなのだろう。全長5085×全幅2015×全高1465mmのボディは軽量のカーボンファイバーとアルミニウムで構成され、駆動方式は四輪駆動だ。

このほか、ADAS(先進運転支援システム)としてクアナジー製LIDARセンサーを5個搭載し、コネクテッドなどのEVスポーツカーらしいさまざまな先端技術を装備する。

『エモーションEV』の価格は1440万円。予約も開始され今年中にデリバリー予定

前述の通り、『エモーションEV』はグラフェンスーパーキャパシタ搭載モデルと全個体充電池搭載モデルの2モデルを設定。価格はグラフェンスーパーキャパシタ搭載モデルが1440万円(税別)、全個体充電池搭載モデルの価格は未定だ。すでに日本でもデロリアン・モーター・カンパニーを正規代理店に予約受付を開始しており、グラフェンスーパーキャパシタは今年中の納車を予定している。ただし、予約金として約24万円が必要だ。

最近では東京都心部などでテスラをよく見かけるようになり、もはやEVは現実的な乗り物になりつつある。たしかに価格は1000万円オーバーと高価。しかし、この美しいルックスなら、他人と違うクルマに乗りたいという欲求を満たすことができるのではないか。

Text by Kenzo Maya
Photo by (C) Fisker, Inc.
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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