金色の933型『911ターボ』がたったの一台だけリプロダクションされた理由とは?
933型『911ターボ』を復刻する。台数はたったの一台。この計画は「プロジェクト・ゴールド」と名づけられ、ポルシェ社内でもトップシークレットで進められた。
中心となったのは「ポルシェ・クラシック」だ。ポルシェ車のレストアに関する豊富なノウハウをもつエキスパートで、パーツ供給や修理などを行っている旧車部門である。
なぜ933型『911ターボ』を甦らせたのか。話は2年余り前にさかのぼる。ポルシェは当時、創業70周年を控えていた。計画されたひとつが、ビスポーク部門の「ポルシェ・エクスクルーシブ」による特別仕様車の『911ターボS エクスクルーシブ』だ。このモデルは昨年、限定500台で発表されている。このプロジェクトと共同で「ポルシェ・クラシック」にも何かできないか? それがブランドにとって特別なヘリテージの復刻だった。
幸いなことに、ファクトリーには933型『911ターボ』のボディが一台分、ほぼ完全な状態で保管されていた。「プロジェクト・ゴールド」はこうして始まったのである。
復刻された933型に搭載されたのは、450馬力の空冷水平対向6気筒ツインターボ
復刻といっても、オリジナルモデルから流用したのはボディシェルのみ。それ以外は「ポルシェ・クラシック」のファクトリーに保管されている純正パーツを使用した。5万点以上のなかから約6500点のパーツを集め、このワンオフのために組み上げたのだ。
搭載されたエンジンは、345台のみが限定生産された933型『911ターボS』と同じスペックをもつ3.6L空冷水平対向6気筒ツインターボ。最高出力は450psを発揮する。トランスミッションは6速MTで、駆動は4WDを採用した。これらのエンジンやミッションも新品のパーツを使って「ポルシェ・クラシック」が新たに生産したものだ。
ボディシェルには通常の市販モデルと同様に防錆処理を行い、そこへ「ゴールデン・イエロー・メタリック」のカラーリングを施した。ホイール、サイドミラー、ドアハンドル、そしてリアのエアベントなどは、それとは対照的なブラックに塗装されている。
このゴールドは、同時期に開発がスタートした『911ターボS エクスクルーシブ』でもテーマカラーに採用されたもの。ゆえに「プロジェクト・ゴールド」なのである。
シャシー番号は、993型『911ターボS』の最後の一台と連番になる新しいナンバー
インテリアも往時の933型『911ターボ』をそのまま再現したように見えるが、じつは『911ターボS エクスクルーシブ』と同様の特別な要素が与えられている。
シートの素材は2層構造のブラックレザー。パーフォレーション(抜き穴)加工が施されており、その無数の小さな穴から下に敷いたイエローのレザーが見える仕掛けとなっている。ステッチにはゴールデン・イエローがアクセントカラーとしてあしらわれた。これらの素材も現代のものだが、「ポルシェ・クラシック」は縫い目なども可能なかぎりオリジナルモデルに近づけたいと考え、ミシンは1990年代当時のものを使用したという。
ダッシュボードのトリムはカーボンファイバー。そこへこのクルマが一台限りのモデルであることを示す「911 turbo 001/001」の文字が刻まれたプレートを装着した。ちなみにシャシー番号は、993型『911ターボS』の最後の一台と連番になるナンバーが与えられている。『911ターボS』は345台の限定生産だったので、つまり「346」だ。
金色の993型『911ターボ』はオークションに出品。ただしナンバー登録はできない
リプロダクションされた993型『911ターボS』は、ポルシェ・ミュージアムに保管されるのかと思いきや、なんと10月27日にRMサザビーズ主催のオークションに出品された。これはポルシェの創業70周年を記念したオークションで、会場はアトランタに新設されたポルシェの北米における拠点、「ポルシェ・エクスペリエンス・センター」だ。
落札価格は、原稿執筆時点(10月21日)ではまだ不明。しかし、相当な高額になることは間違いない。なお、この993型『911ターボ』は通常のナンバー登録ができない。つまり、公道を走らせることができないクルマなのだ。サーキットのような閉じたな場所で走らせるか、ガレージで眺めるほかないというから、なんとも残念で贅沢な話である。
Text by Kenzo Maya
Photo by (C) Porsche AG.
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)