『ハマーH1』はアーノルド・シュワルツェネッガーのリクエストによって誕生した
『Hummer(ハマー)』のルーツは、1985年にアメリカ軍へ配備された軍用車両『HMMWV(ハンヴィー)M998』にある。ニュース映像でこの車両を見たことのある人は多いはずだ。
「HMMWV」とは「High Mobility Multipurpose Wheeled Vehicle(ハイ・モビリティ・マルチパーパス・ホイールド・ビークル)」の頭文字で、高機動多用途装輪車両のこと。このいかつい軍用車を民生用にアレンジしただけの超大型4WDが『ハマーH1』である。アーノルド・シュワルツェネッガーが「ぜひ市販車でほしい」と強く希望したことから誕生した。
1992年にGM(ゼネラルモーターズ)が「ハマー」ブランドで販売を開始すると、セレブリティの愛車として人気となり、世界中でヒット。東京の都心部でもよく見かけた。2006年に生産が終了し、2010年5月には販売も終了したが、根強い人気があり、またフルサイズSUVへのニーズもあることから、常に複数の企業がブランド復活に向けた動きを見せている。
事実、SUVに限らず近年のクルマは各セグメントを通じて大型化し、そのルックスもよりマッチョになっている。それを考えると、『ハマー』のような超大型4WDにも可能性があるかもしれない。そんななかでリリースされ注目を集めているのが、カスタムモデルの『Hummer H1 Mil-Spec Launch Edition(ハマー H1 ミルスペック ローンチ エディション)』だ。
航空機規格のアルミボディに500馬力のV8を搭載した『ローンチ エディション』
『ハマー』には「H1」「H2」「H3」という3つのモデルがある。このうち軍用車のDNAをもっとも色濃く受け継ぐのが「H1」だ。基本設計も『ハンヴィー』に近い。そのパフォーマンスや大きさは一般ユーザーには扱いづらく手に余るが、1万台を超えるセールスを記録した。
今回リリースされたのは、この「H1」をベースにした『ローンチ エディション #003』と呼ばれる車両。アメリカのミルスペック・オートモーティブ社の手によってモダンなスタイリングに生まれ変わったカスタムモデルだ。「ローンチ(立ち上げ、公開)」とあるとおり、これはミルスペックという若い企業が手がける第一弾のプロジェクトとなる。
ジェット機にも採用される「アフターバーナー・グレー塗装」で仕上げられたボディはアルミ製。しかも、航空機グレードのアルミ合金「T6」に独特のテクスチャードコーティングを施してある。もともと「H1」は鋼管フレームとアルミのボディを持っているが、そのボディを約20cm拡大し、さらに軽量かつ頑丈に再補強した。アンダーボディはセラミック製である。
『ハマー』の弱点だったパワートレインは、カスタム化の最大の焦点だ。『H1ローンチ エディション』はGMといすゞの共同事業である「デュラマックス」の6.6L V8ターボエンジンを採用。最高出力は通常の300hpから500hpへと大幅に引き上げられた。ここへアリソン・トランスミッションの6速ATを組み合わせる。最高速度はなんと154km/hだという。
キャビンにも大きく手が加えられた。内張り(室内のパネル全体)はアルミ製のトリムピースによって固定され、インパネには高性能防水素材、センターコンソールとシートにはマリングレードのレザーカバーを採用。LED充電ポートを備えるほか、JL AudioのC5プレミアムオーディオシステムを装備する。インテリアのカスタマイズも可能だ(オプション)。
ボディバリエーションも豊富で、6タイプがラインナップされる。2ドアは「ピックアップ」のみ。4ドアは「ソフトトップ」「ピックアップ」「ワゴン」「FRPハードトップ」「スラントバック」。『ハンヴィー』のイメージが好きな人は、もちろん「スラントバック」を選ぶだろう。
『ハマーH1 ローンチ エディション』の価格は、約2615万円から約3411万円まで
ミルスペックのCEOであるアダム・ミッチェルは、“自動車の街”デトロイト育ち。当然、自動車愛好家で、ウィスコンシン大学マディソン校を卒業後に起業したのがミルスペックだ。
ミルスペック(Mil-Spec)とは「Military Standard Spec」、つまり「米軍規格」の略。由来は不明だが、おそらく『ハマー』への愛着や称賛があったのではないだろうか。「H1」はアダム・ミッチェルのお気に入りのクルマで、『H1ローンチ エディション』では「ワイルドでありながらハイソサエティな人たちが乗るにふさわしいSUVを作ること」を目指したという。
アダム・ミッチェルは、今回のリリースに際して次のように述べている。「完璧なトラックを作り出すために2年間の研究、設計、プロトタイプによる実験を行い、目標を達成した。優れたデザイン、細部へのこだわり、品質、職人技、500馬力のエンジンに焦点を当て、Launch Editionはあなたのライフスタイルに満足感と快適さをもたらすでしょう」。
価格は21万8499ドル(約2615万円)から。フルオプションなら30万ドル(約3411万円)になる。年式が新しく状態のいい「H1」が1500〜2000万円ほどで売買されていることを考えると、富裕層ならお買い得だろう。ただし、ベース車両の数には限りがあるが…。
Text by Koji Okamura
Photo by (C) Mil-Spec Automotive
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)