記事日付: 2014/07/20
昨今はローエンドオシロスコープの低価格化が著しい。
中国製品を中心に盛んな市場投入が見られ、現在ではTektronix、Agilentといった
一流メーカーですらその価格帯の製品を投入するに至っている。
単に中華オシロと呼んでキワモノ扱いしていたのでは済まされない時代になってしまった感がある。
どんな製品があるかまとめてみた。
一覧表
低価格オシロスコープの一覧表である。主に中国主要メーカーの製品を網羅してみた。
調査対象はRIGOL、SIGLENT、OWON、GRATTEN、Hantek。
UNI-Trendほか、デジタルオシロスコープを作っているメーカーは他にもあるが、
上記トップメーカーには進化が追いついていないため掲載を省略した。
比較のためのおまけとして、GW Instek(台湾)、Tektronix、Agilentの
最低価格モデルも掲載した。
本表はベンチトップ型のみを調査対象とした。
PC接続タイプ、ハンドヘルドタイプの製品は調査対象外。
なお、中国メーカー製品についてはハイエンドモデルまで掲載したので、
「低価格」とはいえないものも含んでいる。
※本表の内容は2014年6月調べ。
各社製品の概要
RIGOL
北京普源精电科技有限公司。
中国メーカーの中でも高性能品を作るメーカーである。
フラッグシップモデルのDS6000シリーズは帯域1GHz。
中国メーカーの序列の中ではトップといえるが、他社と比較して製品価格は高めである。
趣味で買える範囲(10万円未満)に絞って紹介すると:
- DS1000Zシリーズ
割合おおきな液晶を持つ新型製品。ロングメモリ対応。
フォスファ表示もできる。
※2016/3/27追記
DS1000Zシリーズの最下位グレードとしてDS1054Zがあり、売れ筋のようである。
本記事のまとめ欄参照。 - DS1000E シリーズ
発売から時間が経っており、画面の小ささが目立つものの、そこそこ高性能で低価格。
趣味の層に人気のモデル。筆者も1個持っている。
特に50MHz帯域品は安価だが、ファームウェアをどうこうすると100M帯域になったりして便利。
ただし、各チャネル独立ノブでないのはマイナス点。
くすんだクリーム色の筺体だが、日焼けが気にならないし、むしろ高級感があるといった見方もできる。
SIGLENT
深圳市鼎阳科技有限公司。
近年飛ぶ鳥を落とす勢い?のSIGLENT。
もろにAgilentのパクリっぽい名前だが、本家の名前がKeysightに変わることは
大メーカーに発展しようとするSIGLENTにとってむしろ良い事なのだろうか。
SIGLENTはレクロイの中級機 (~1GHz) をOEMで作っているようで、その相当品をついに自社ブランドで発売した。これによりフラッグシップモデルの帯域がRIGOLに並んだことになる。
趣味で買える範囲(10万円未満)に絞って紹介すると:
- SDS1000CMLシリーズ
同社低級機は帯域・メモリ長の組み合わせが多数あってよくわからないが、
趣味で使うならば末尾CMLのシリーズがよさそう。
RIGOLのDS1000Eシリーズ相当だが、後発な分だけメモリ長やディスプレイサイズなどが有利。各チャネル独立ノブなのもプラス評価。
OWON
福建利利普光电科技有限公司。
一昔前はオモチャのようなオシロを作っていたが、最近の製品は性能が向上している。
低価格・大型ディスプレイ・薄型が同社製品の特徴であり、日本でも趣味のユーザーに人気がある。
画面表示がちょっと安っぽいのはPDS5000シリーズ(昔)のころからあまり変わっていないみたい。
- SDSシリーズ
60MHz~300MHzの製品がある。薄型・大ディスプレイであり使いやすそうな感じがする。
メモリ長も大きい。 - SDS-Eシリーズ
エントリーモデルだが、薄型・大ディスプレイにはかわらず。
メモリ長が短めで寂しい点はマイナス。
GRATTEN
南京国睿安泰信科技股份有限公司。
前はATTENブランドを使っていたが、計測器について最近はGRATTENブランドとしたよう。
電源や半田付け用品は引き続きATTENブランドのようである。
ハイエンド機には手を出さず、ローエンド製品を集中的に作っている。
帯域やメモリの組み合わせで多数の品種があるため、購入時には注意が必要。
価格対帯域にしぼって比較すると、非常にコストパフォーマンスのよい製品がある。
Hantek
青岛汉泰电子有限公司。
低価格帯中心に他社と競っているメーカ。
どちらかというとPC接続型などに重きを置いている印象だが、ベンチトップ型もラインナップがある。
あまりソフトの品質がよくないという話も。
- DSO7000Bシリーズ
本記事の作成時点で比較的新しいモデル。
カッコいいのだが、いまひとつカタログスペックからは良さが感じられない。
新製品なのでまだしばらくは様子見が安全かも。 - DSO5000シリーズ
DSO7000シリーズが出て型落ちとなった。
帯域と比較した実売価格が安い。やたら安い。
GW Instek
台湾メーカー。一覧表では比較のための掲載である。
今やローエンドオシロには力を入れるつもりがないようで、ローエンド製品は性能・価格で中国(本土)メーカーに見劣りする。
Tektronix・Agilent
一流メーカーたち。一覧表では比較のための掲載である。
中国メーカーの超低価格オシロに押されてか、これら一流メーカーも最低価格5万円クラスの低価格オシロを市場に投入している。
カタログスペック的に見たコストパフォーマンスは中国メーカー製品と比較にならないが、一流メーカーの看板はやはり安心。
比較
カタログスペックで比較してみる。
ただし、上記のリストに対して以下のルールによる絞り込みをしている。
① メモリ長は1Mポイント以上とする。
短いメモリの製品は安い傾向にあるが、趣味で使う場合、
たくさん買うわけではないので、ある程度の性能を持った1台とするのがよいだろう。
②価格不明は除外
市場で手に入らないものは除外とする。
そもそもこういった製品は売れ筋でなく魅力に乏しい。
・価格
価格でソートした表である。
一番安いのはSIGLENTの70MHz。$260で70MHzのオシロが手に入るのはウマい。
メモリ長も安心の2Mポイント。
3位のRIGOL DS1052Eもファームウェア交換を考慮すればいまだに価値が高い。
帯域MHz単価
価格/帯域幅により標準化しての評価。本当に意味のある尺度かどうかは知らない。
トップ3はいずれもHantekのDSO5000シリーズの200MHz品。
トップ10をみると、100~200MHzくらいの帯域の製品がお得に見える。
価格(DPO限定)
波形の出現頻度を多段階表示できるオシロに限って価格ソートしたもの。
このクラスはミッドレンジ以上であってある種の高級品。
メーカーはRIGOLとSIGLENTしか残らない。
トップはRIGOLのRIGOL DS1074Z (70MHz、$560)。メモリ長12M、4ch、DPOで$560は安い。
次点も同じくRIGOL DS1104Z (100MHz、$800)。
3位はSIGLENT SDS2072 (70MHz、$840)。
帯域MHz単価(DPO限定)
DPO限定でMHz単価ソートした。
トップはSIGLENT SDS2302(300MHz、$2100)。
MHz単価7.0。色別頻度表示ができるのはサーモグラフィーみたいでカッコいい。
とはいえ、MHz単価が安くても合計20万越えはやっぱり高い。
この計算方法だとRIGOL DS6102(1GHz、$9660) が3位にランクイン。
メモリ長も140Mだし無敵。買えないけど・・・
4ch機限定
ここまでは4ch機に限って評価してみる。
メモリ長1M以上限定だと、単価が最も安いのは意外にも
RIGOL DS1074Z (70MHz、$560)。メモリ長12Mは魅力。
考察
① DPOでないローエンド機が欲しい場合
100~200MHzの製品がお得。
Hantek DSO5202B(200MHz、$360)が著しくお買い得だが、
新製品投入後であることを勘案しても安すぎる。怪しい。
Hantekを避ける場合、次点はSIGLENT SDS1152CML(150MHz, $480)。
カタログスペック比較とはいえ帯域が少し狭くなってしまって値段が高いのはあまり面白くない。
少しお金があるならOWON SDS8202 (200MHz、$670) はどうだろう。
国内でも取り扱いがあるので入手しやすい。
② DPOのミッドレンジ機が欲しい場合
やっぱり高級品、DPOでないとヤダという場合は以下。
著しくお買い得なのはRIGOL DS1074Z (70MHz、$560)。
もう少しお金があるならRIGOL DS1104Z(100MHz、$800)もいいが、
正直値段が上がったわりに帯域があまり広がった気がしない。
帯域が300MHzは欲しいよね、という場合はSIGLENT SDS2302 (300MHz $2100)
のコストパフォーマンスが高い。しかし値段の絶対値も高い。
DPOと普通のオシロの広帯域機を組み合わせることを考える。
普段はDPOを使い、広帯域が欲しいときは我慢して普通のオシロとする。
たとえば:
RIGOL DS1074Z (70MHz、$560)+
Hantek DSO7302B(300MHz、$800) = $1360
RIGOL DS1074Z (70MHz、$560)+
SIGLENT SDS1302CFL(300MHz、$970) = $1530
が考えられる。しかし普通のオシロのほうが高い。広帯域は金がかかる。
結論
各社ともたくさんの製品を出しているが、
次のうちのどれかを買えばよいのではないか(適当)。
※2016/3/27追記
DS1000Zシリーズの最下位グレードとしてDS1050Zがあり、安価である。
帯域制限はオプションである。
そして、ここではあまり書かないが、オプション解除コードは簡単に手に入るようになっている。
したがって、とりあえずもうDS1054Z買っとけば何でもいいような状態である・・・
① RIGOL DS1052E (50MHz、$280)
発売から時間がたっており安心。値下がりしきっていて安い。
安心のRIGOLブランド。そこそこの性能。
ファームウェアアップグレードで100MHz化。
② Hantek DSO5202B(200MHz、$360)
なぜか安い。たたき売り。MHz単価最低。
メモリ長がもう少し欲しいときはDSO5062BM。
本当にちゃんと動くかは知らない。
③ OWON SDS8202 (200MHz、$670)
画面が大きい。やたら薄い。とても軽い。中身入ってるのか?
そこそこのコストパフォーマンス。国内でも大人気。
④ RIGOL DS1074Z (70MHz、$560)
DPOの中では最も安い。しかも4ch機。
広帯域を必要としない分野の人にはオススメ。
100MHz欲しいときは DS1104Z。MHz単価は一緒。
⑤ SIGLENT SDS2302 (300MHz $2100)
広帯域DPOが欲しいお金持ちのあなたに。
価格は高いがコスパはよい。波形頻度の色別表示はカッコいい。
ご注意
- 上記はあくまでもカタログスペックによる比較です。
RIGOL DS1052E以外は使ったことが無い状態で書いています。
ただし、Hantekは別件で痛い目にあったので全体的に辛口の講評。 - 実際使ってみると、使い勝手が悪かったり、バグでボロボロというのはあり得る話。
中国製品の性能向上は著しいが、ソフトのバグなどを中心とした品質の低さが未だに目立つ。これもカタログスペックでは判断できないところ。
発売直後はボロボロでも、ファームウェアアップデートで徐々に良くしていくフシがある。安定して使いたいなら発売から時間の経った製品がよいかも。 - 今回のまとめでは精度とかはほとんど勘案してません。
- 表に誤りがあった場合はごめんなさい。
- 2014年6月現在の情報です。
Likiponさま、はじめまして。
電子工作を趣味ではじめて1年程度で、初めてオシロを購入しようと考えています。そんな中こちらのページを見つけて、非常に参考にさせていただいています。
初めてのオシロで右も左もわからないので、質問させてください。
予算としては5万円以下で考えています。現在の候補としては、
RIGOL DS1052E (100MHz化で使用)
Siglent SDS1102CML
Tektronix TBS1052B
の3機種です。
DS1052Eのユーザ様とのことで、お聞きしたいのですが
私はアメリカの amazon.com あたりで購入しようと思っているのですが、
もし差支えがなければ、Likiponさんがどちらで DS1052E を購入されましたか教えてください。日本語のマニュアル等が入手可能なのかがとても気になっています。
日本の正規品を購入すれば付属するかダウンロードできそうですが、ちょっと値段的に高いです。
また製品の電源ケーブルなどがどうなっているのか(日本で使用可能なのか)あたりも教えていただけると助かります。
私の用途としては、当面はマイコンからのPWM出力(20KHz程度)の波形の確認や、I2C通信(400KHz)の波形の確認なので50MHz機で十分だとは思っていて、一流メーカーのTBS1052Bも候補と考えているのですが、どうせ買うのであれば100MHzの方にしておくべきという気持ちも捨てきれないです。SDS1102CMLは画面の大きさや価格が魅力です。
よろしければアドバイス頂けないでしょうか。宜しくお願いします。
こんにちは
今現在オシロをお持ちでないのであれば、どれを選択しても便利に使えるものと思います。
そのうえで:
1.
私のDS1052Eは2年前にeBayで買いました。当時送料込み4万円程度でした。
現在は値下がりしていますが、円安による相殺で
送料込み3.5万円程度のようです。
Aliexpressという中国のサイトでは送料込み3.1万円程度で手に入りそうです。
eBayにせよAliexpressにせよ、販売者とのやりとりは英語です。
2.
DS1052Eの日本語マニュアルは見たことがありません。
英語マニュアルであればメーカーのページからダウンロードできます。
とはいえ、ローエンド機は機能が限られているため「見ればわかる」感じであって、
あまりマニュアルが必要と思ったことはありません。
なお、ファームウェアごにょごにょによる100MHz化ついては、
作業をミスるとオシロが使えなくなることもあります。
それ自体ご趣味でない限りはおすすめしません。
3.
海外から個人輸入した場合、電源ケーブルが日本のコンセントにあわない場合があります。
※販売者によっては、日本用の電源ケーブルをつけてくれる人もいます。
電源ケーブルはデスクトップパソコンの電源ケーブルと同じようなタイプなので、
ハードオフのジャンク品であれば100円で手に入ります。
自分で用意できますから、あまり心配はないでしょう。
4.
テクトロのオシロは帯域以外のスペックも勘案すべきです。
特にメモリ長が短いのが問題です。使い勝手に大きく影響します。
企業であれば責任論的にテクトロの看板が大切ですが、
正直なところ、個人で買うのであればあまりオススメしません。
SIGLENT機は自分で使ったことがないので、本記事で行ったスペック比較
以上のコメントはできません。ただ、同社の任意波形発生器は常用しており
「値段と比べてそこそこの作り」という印象があります。
Likipon さま
大変詳細にご返答いただいて感謝しております。
私としてはオシロは触ったこともない物なので、日本語マニュアルにはこだわっていたのですが、youtubeなどの動画でテクトロのオシロの使い方など見てると、なんとなく使い方は理解できそうなので、そんなに日本語マニュアルにこだわる必要もないのかなと思えてきました。
電源ケーブルの件、PCの電源ケーブルと同じとのことで、理解できました。沢山余っているので、大丈夫そうです。
テクトロのオシロで帯域以外のスペック(メモリ長)のお話、非常に参考になりました。メモリ長って・・・と何の事なのか分からなかったですが、調べてみると大切なスペックですね。
DS1052Eの100MHz化も私には危険な気がするのと、画面のサイズや各チャネル独立ノブというところで、最終的にはSiglent SDS1102CML に落ち着きそうです。
ご返信・元の記事も含めて、非常に助かりました。
ありがとうございました。
Likiponさま、はじめまして。
表のDPOの部分が"v"のものは機能限定か何かでしょうか?
よろしくお願い致します。
DPO欄のvの件、
コピペ時のミスがのこったもののようです
特に意味はありませんので
×に読み替えお願い致します
返信有難うございます。
了解しました。
DPOもどき的なのがついてるのかなと期待したのですが^^;
それにしても円安で中華オシロも高くなって痛いですorz
(今使ってるのがテクトロのTDS210というしょぼい機種なので買い足そうと思ったんですが・・・)。
こんにちわ
私もRIGOLが欲しかったのですが、ヤフオクでATTENの中古を拾いました。
色々英語のレビューとか動画見ての結果です。
個人的な中華オシロ・ランキングとしては、
①RIGOL 高級
②INSTEK 高級、台湾
③ATTEN コスパ最高
④HANTEK 安い、どちらかというとPCオシロ、PCロジアナで有名
⑤OWON 液晶直ぐ壊れる、シールド皆無
⑥SIGLENT 国策会社、一生懸命だが英語でのレビュー最悪
です。
初めまして。とても参考になります。(素晴らしい!)
SDS2204 / SDS2304 良いですね。
TDS210(自前持込み) -> DL7100(701420) -> DPO4104(職場)で、
自宅用にも欲しくなり検討していました。(趣味と内職)
便利な機種になれてしまうと、ローエンドにはなかなか戻れない贅沢病に。。。
でも、SDS2304 なら(個人には高いけど)、内職の現物支給には良いかもしれません(想)
素晴らしいレポートに感動です。
某H製作所大みか工場勤めから独立し、訳あって
8 channel 16 triggers 8 Dimensional oscilloscope を
探しています。
そのクラスでリーズナブルなら価格は問いません。
お手隙の時、一言いただければ大変ありがたいです。
よろしくお願い致します。
Magician YORI
8chとなると正直これくらいしか思いつかないです・・・
http://www.graphtec.co.jp/site_instrument/instrument/gl240/index.html
Likiponさんありがとうございます。
ただ欲しいのは、通常一つで良いのでしょうが、独立した8(できたら16)トリガーが欲しいのです。
旧HPで受注生産で20M円したと記憶しています。
多少高くでもOKですが、市販品でご存知の方おられないでしょうか?