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第50回 | 大人ライダー向けのバイク

世紀末感がヤバい!──NASAエンジニアのカスタムバイク

NASA(アメリカ航空宇宙局)は、アポロ計画、スペースシャトル計画などを成し遂げてきたアメリカの政府機関だ。惑星探査、さらにはビッグバンなど宇宙全体の探査も役割とし、科学技術の象徴のような組織として知られている。ここで働くエンジニアの関心事は大部分が宇宙で占められ、バイクなどにはなんの興味もない…と思いきや、とんでもないフリークがいた! 驚いたことに、インディアン・モーターサイクルのコンペティションにおいて、NASAのエンジニアが空き時間を利用して作り上げたカスタムバイクが見事に勝利をつかみ取ったのだ。

インディアン主催のカスタムバイクコンテストで優勝したのは「NASAのエンジニア」

そのコンペティションとは、アメリカの老舗モーターサイクルメーカー、インディアンが主催した「Wrench Scout Bobber Build-Off」というカスタムコンテスト。ベース車両は人気モデルの『スカウトボバー』だ。今年3月に一般からカスタムアイデアを募集し、3人のファイナリストを選出。この3人にそれぞれ1万ドル(約113万円)の予算を与えて実車を製作してもらい、そのなかから全米の投票によって勝者を選ぶというのがコンペの流れだ。

そして、先ごろ最終審査の結果が発表されたのだが、まず目を引いたのはウイナーの職業である。アルフレッド・フアレス(Alfredo Juarez)さんというドレッドヘアの勝者は、なんとNASAで燃料試験などを担当するエンジニア。賞金1万ドルを獲得し、同時にフアレスさんと彼のカスタムバイクをアメリカのバイク雑誌『Hot Bike』が特集することとなったのだ。

もちろん、受賞作のカスタムバイクにはそれ以上にうならされた。その有機的で美しいスタイルはクラシカルにも未来的にも見えるが、「世紀末感」という表現が一番しっくりくる。

完全オリジナルのハードテイルフレームとガーダーフォークの組み合わせに、特徴的なヘッドライトフェアリングとそこへ繋がるタンクのラインが見事にマッチ。さらに、銅板の地色を生かしたパーツがカラーリングとしての素晴らしいハーモニーを奏でている。全体的に華奢に見えながら、ボリュームのあるエンジンにフィットさせている点も見事というしかない。

膨大な時間と手間をかけて『スカウトボバー』を世紀末的なスタイルにカスタム

カスタムバイクの製作にあたっては、フレームにもっとも労力を要したであろうことは容易に想像できる。しかし、パッケージとしてのバイクデザインにおいては、じつは個々のパーツによって成り立つバランスやマッチングにこそ苦労するのだ。

たとえば、一見すると塗装以外はタンクに無加工でパーツを装着しているようにも見える。ところが、実際はステアリングヘッドからフレームエンドにかけてのシルエットを美しく見せるため、タンクトンネルの加工を繰り返して高さと角度を調節したという。カスタムを手がけたことのあるライダーなら、それがどれだけ手間のかかることかを想像できるはずだ。

フアレスさんはコンペに参加するにあたってインディアンのディーラーを再三訪れ、トレールやホイールベース、シート高の設定のためにあらゆる測定器を持ち込んでデータを収集したという。このバイクのコンセプトは、そうした作業を通じて生まれたものだ。ラジエターとフロントホイールハブにはホンダのオフロード車『CEF450R』のパーツを流用しているが、これはパーツ自体のコンパクトさに加え、彼自身が『CEF450R』を所有するためのようだ。

「私が3人のファイナリストに残ることさえまったく予想していなかった。でも、妻は私のことを信じていたようだ」。これはフアレスさんの受賞時のコメントである。

彼はNASAで燃焼実験用のテストブースを作る仕事をしているが、趣味で機械加工を楽しみ始めたのは12歳のころで、大学時代には友人のためにホットロッドを製作したこともあったという。そんなフアレスさんを近くで見ていた妻には納得できる結果だったのかもしれない。

ちなみに、彼の妻もシートのピンストライプや細部のデザインを手伝い、また、フアレスさんの父親も車体の製作そのものや銅バッヂ、ロゴ作りに手を貸してくれたのだという。

残りのファイナリスト2名の作品も必見! インディアンの今後の動向に注目せよ

惜しくも勝てなかった残り2名のカスタムも、むろんファイナリストにふさわしい作品だ。特にそのコンセプトやカスタムの方向性がそれぞれまったく異なっているのが面白い。コンペの審査員は、建築家や工業デザイナー、さらにバイク関係のジャーナリストなどがつとめたそうなので、おそらく個々の感性や理論を激しくぶつけて審査したのではないだろうか。

最近のインディアンは、同じアメリカのメーカー、ポラリス・インダストリーズの傘下に入ったことで、信じられないような復活ぶりを見せてくれている。このコンペもその勢いを感じさせてくれるものだ。インディアンの今後の動向に目を向けておくべきかもしれない。

Text by Koji Okamura
Photo by (C) Indian Motorcycle
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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第69回 | 大人ライダー向けのバイク

ドゥカティ ディアベル1260──悪役感溢れるクルーザー

クルーザーとは、平坦で長い直線道路を巡航(クルーズ)することに重点をおいたオートバイのスタイルのことだ。ハーレーダビッドソンやインディアンをイメージするとわかりやすいだろう。広大な北米大陸で発達したことから、日本ではアメリカンバイクとも呼ばれている。それをイタリア流のセンスによって味つけしたのが、ドゥカティ『ディアベル』である。従来のクルーザーと一線を画す独創的なデザインをもつ『ディアベル』は、2011年にデビューするや世界中で大ヒット。そして今回、第二世代へと進化した。

クルーザーでも「走りはやっぱりドゥカティ」。ファンの期待に応えるキャラクター

2010年にEICMA(ミラノモーターサイクルショー)で発表された初代『Diavel(ディアベル)』は、斬新なデザインだけではなく、従来のドゥカティのイメージと異なるクルーザージャンルに挑戦したモデルとして話題を集めた。じつは、ドゥカティは2014年にフォルクスワーゲングループに属するアウディに買収され、その傘下となっている。レース由来のスポーツモデルというブランドのアイデンティティを脇に置き、経営戦略を優先した結果の新型車と見る者が多かったことも、注目された理由のひとつだったのだろう。

しかし、初代『ディアベル』は見た目以上にスポーティで、実際にライディングを味わった人々からは「やっぱり走りはドゥカティ」との評価を得ることが多い。そうしたユーザーの声は、期待どおりのキャラクターに仕上げられていることを証明するものだ。

その『ディアベル』が第二世代へと進化した。ドゥカティは3月に開催されたジュネーブモーターショーで2019年モデルの発表を行ったが、そこで専用スペースを与えられ、ショーのアイコンモデルとしてお披露目されたのが『ディアベル1260』だ。しかも、2014年のようなマイナーチェンジではなく、すべてを見直した2代目としての登場である。

低回転域でもパワフルな排気量1262ccの「テスタストレッタDVT」エンジンを搭載

アイコニックな外観は、シルエット自体に大きな変化はない。しかし、全体にボリュームアップしており、重量感も増していると感じる。トレリス(格子状)フレームもまったく新しくなり、ぱっと見た印象としては、よりヒール(悪役)感が演出されているようだ。短いシートエンドとスラッシュカットで跳ね上がるサイレンサーエンドは、リアまわりをすっきりとさせた。同時にマスが凝縮されているようで、鍛えられた筋肉を連想させる。

その細部への作り込みによる質感の高さが評価されたのか、『ディアベル1260』は第二世代であるにもかかわらず、ドイツの権威あるプロダクトデザイン賞「Red Dot Award 2019:Best of the Best(レッド・ドット・デザイン賞)」にも輝いているくらいだ。

エンジンは、初代から継承されてきた排気量1198ccの水冷L型ツインからスープアップされ、1262ccの強力な「テスタストレッタDVT」エンジンを搭載。それにより、最高出力は従来の152hp/9000rpmから159hp/9000rpmへ、最大トルクは12.5kgm/8000rpmから13.2kgm/7500rpmへとそれぞれ高められている。車体重量はドライウエイトで218kgもあるが、これだけのトルクがあれば低速域でも軽快に扱えるはずだ。

ドゥカティ自身も新エンジンについて、「息を呑む加速とスムーズな低回転域のパワー特性を備え、日常ユースにも長距離ツアーにも対応する」としている。そのパワーを受け止めるのは、『ディアベル』のトレードマークである極太のリアタイヤだ。クルマ並の240mmという超ワイドタイヤを装着し、ボッシュ製のコーナリングABSも標準装備された。

特別なコンポーネントを与えられたスポーティ仕様車『ディアベル1260 S』も設定

新型には標準仕様に加えてスポーティな「S」バージョンも設定された。こちらには、専用のシートとホイールが与えられるほか、ブレンボ製M50ラジアルマウント・モノブロック・ブレーキ・キャリパー、オーリンズ製サスペンションなどを装備。さらに、クラッチ操作をせずに変速できる「クイックシフトアップ&ダウンエボ」も標準装備される。

『ディアベル1260』は、すでに1月半ばからボローニャにあるドゥカティの本社工場で生産が始まっており、ヨーロッパでは3月から販売が開始された。日本での発売は7月ごろを予定している。4月13日には大阪で「Ducati Diavel Meeting」が開催されたが、なんとこのミーティングの参加者は現行『ディアベル』のオーナー限定だった。新型のオーナーになれば、こうした特別なイベントへの招待状がドゥカティから届くかもしれない。

Text by Koji Okamura
Photo by (C) Ducati Motor Holding S.p.A
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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Ducati Diavel 1260 オフィシャル動画
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