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第24回 | フェラーリの最新車デザイン・性能情報をお届け

フェラーリサウンドという悦楽──488ピスタ スパイダー

『488 ピスタ スパイダー』は、「フェラーリ50台目のオープンモデル」という話題で取り上げられることが多い。もちろん、その歴史に価値を見出すことは正しい。しかし、メモリアルな数字だけにとらわれると、このクルマの本質を見誤ることになる。『488 ピスタ スパイダー』は、フェラーリのスパイダーモデルの新たな指標となる、レーシーなクルマなのだから。

もっとも優れたエンジンに選ばれた『488ピスタ スパイダー』のV8ツインターボ

『488 ピスタ スパイダー』は、フェラーリ最強のV8ミッドシップカー『488 ピスタ』のオープントップバージョンだ。発表の場はオープンカー好きが多いアメリカ。カリフォルニア州ペブルビーチで開催される世界的に有名なコンクール・ド・エレガンスでアンベールされた。

『488 ピスタ』には、『488チャレンジ』や『488 GTE』のレース活動によって得られたノウハウが惜しみなく注ぎ込まれている。当然、それらは『488 ピスタ スパイダー』にも引き継がれた。

パワーユニットは『488 ピスタ』譲りの 3.9L V8ツインターボ。最高出力720ps/8000rpm、最大トルク770 Nm/3000rpmを発生し、最高速度は340km/hに達する。2018年に3年連続となるインターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤーを獲得したエンジンは、全回転域で溢れるようなパワーとトルクをレッドゾーンまで途切れることなく発生させ、別次元の加速をもたらしてくれる。

このパワーを最大限引き出すのが、徹底した空力性能の向上と軽量化だ。クーペである『488 ピスタ』をごく自然に進化させたエクステリアは、エアロダイナミクス効率、完成度の高いフォルム、レーシングスピリットという 3つの要素の完璧な融合によって生み出された。

特に軽量化では、多岐にわたるカーボンファイバーの採用とコンポーネントのスリム化を行い、『488 スパイダー』よりも40kgも軽い、乾燥重量1380kgを実現。結果として、パワーウェイトレシオ 1.92kg/cvという前例のない数値を実現し、0-100km/hの加速を2.85秒で達成する。

『488 ピスタ』の「黒×白」のストライプがスパイダーモデルでは「ブルー×白」へ

エクステリアデザインでは、『488 ピスタ』と同じく車体中央に施されたストライプが目を引く。『488 ピスタ』は黒と白を組み合わせたラインだったが、『488 ピスタ スパイダー』はブルーが基調。フロントから後方に向かって広がりながら、スポイラー脇のリアホイールアーチ後端まで続く。これは、車体を流れていく気流をイメージしたという。

足回りでは、ダイヤモンド仕上げの新型20インチ合金ホイールが特徴的。フェラーリの伝統的なミッドシップ・ベルリネッタ・スタイルリムを進化させた星型ホイールを想起させるデザインの10本スポークだ。 また、標準仕様の鍛造合金製より20%軽量化したワンピースのカーボンファイバーホイールもオプションで準備された。

インテリアでは、シートにアルカンターラを採用。また、軽量化のためにフロアはカーペットが廃止され、パターンが刻まれたアルミ製フットプレートに変更された。ドライバー側のドアハンドルもシンプルなストラップに置き換えられている。

フェラーリダイナミックエンハンサーの搭載によってコーナリングスピードがアップ

運動性能では、鋭い加速と制動効率、素早いギアシフト、正確な操作性、グリップ、安定性、優れた操舵性といった数々の特性をシームレスに組み合わせ、限界域でのドライビングを直感的かつコントローラブルに仕上げた。

具体的には、世界で初めて『488 ピスタ』に搭載された「FDE(フェラーリダイナミックエンハンサー)」の継承だ。これは、ソフトウェアを使用してキャリパーのブレーキ圧を自動調整する技術で、コーナリングスピードを高めてくれる。

気になるルーフについては、公式リリースに記載がない。もし『488 スパイダー』と同じルーフなら、フェラーリが特許を持つ「RHT(リトラクタブル・ハードトップ)」を採用していることになる。開閉にかかる時間はわずか14秒で、リヤウインドは3段階の調整が可能だ。

オープンモデルだからこそ、V8ツインターボのフェラーリサウンドを直接堪能できる

オープンという形状は、3.9L V8ツインターボが奏でるフェラーリサウンドを余すことなく堪能できる。

都市を離れ、ワインディンが続く山道を駆け抜けるとき、流れる景色やレブメーターから得られる視覚的興奮、ステアリングやパドルシフトから伝わる触覚のリアル感。そこへフェラーリ独特の甲高いサウンドによって聴覚の幸福が加わることを想像すると、胸が高鳴る。

これがサーキットなら、焼け焦げるブレーキやタイヤの匂いが嗅覚を刺激し、さらにアドレナリンが分泌されるだろう。まさに、体全体でドライビングプレジャーを堪能できる一台だ。

Text by Tsukasa Sasabayashi
Photo by (C) Ferrari S.p.A.
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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A Tribute to Ferrari Spiders
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第29回 | フェラーリの最新車デザイン・性能情報をお届け

フェラーリP80/C──特注のサーキット専用スーパーカー

世界に一台だけのフェラーリを作るのは、コレクターにとって究極の夢だろう。それを叶えてくれるのが「フェラーリ・ワンオフ・プログラム」だ。元映画監督の自動車愛好家、ジェームス・グリッケンハウスが製作を依頼した『P4/5ピニンファリーナ』に始まり、フェラーリクラブ・ジャパン元会長がオーダーした『SP1』など、現在までに十数台のワンオフ・フェラーリが誕生している。そして先日、また一台、フェラリスタ垂涎のワンオフモデルが完成した。車名は『P80/C』。約4年の月日をかけて開発されたサーキット専用車だ。

依頼主はフェラーリ・コレクター。60年代のプロトタイプレーシングカーをオマージュ

『P80/C』をオーダーしたのは、フェラーリのエンスージアストの家に生まれ、自身も跳ね馬に対する深い知識と見識をもつフェラーリ・コレクターだ。オーナーの素性はそれ以外明かされていない。しかし、並外れた財力をもつ人物であることは間違いないだろう。

オーナーからの注文内容は、概ねこういうものだ。1966年の『330P3』、1967年の『330P4』、そして1966年の『ディーノ206 S』。これらのフェラーリから着想を得た現代版のスポーツプロトタイプを創造すること。つまり、伝説のプロトタイプレーシングカーをオマージュした、最先端で究極の性能をもったサーキット専用車を作るということである。

開発を担当したのは、チーフのフラビオ・マンゾーニ率いるフェラーリ・スタイリングセンターと、エンジニアリングとエアロダイナミクス部門からなるチームだ。彼らが互いに協力し、オーナーと価値観を共有することで、世界に一台だけのフェラーリを作り上げた。製作期間は、じつに約4年間。これはワンオフ・フェラーリのなかで最長だという。

ベースモデルはレース車両の『488GT3』。自由な発想で作られたサーキット専用車

『P80/C』はガレージで鑑賞することを目的としたクルマではない。前述したとおり、往年のプロトタイプレーシングカーをモチーフにしたサーキット専用車だ。そのため、ヘッドライドは取り払われ、サーキット走行に必要なテールランプもリアセクションと一体化した独特の形状となっている。フェラーリの市販車は通常、丸型のテールランプをもつ。

ベースとなったのは、レース用車両である『488GT3』。エアロダイナミクスはベースモデルを踏襲しているが、『488GT3』のように「グループGT3」のレギュレーションに準拠する必要がないので、車体の各所に自由な発想が盛り込まれている。たとえば、なんとも大胆なリアの形状は2017年シーズンのF1マシンに採用された「T字ウイング」にヒントを得たもの。フロントリップスポイラーやリアのディフューザーなども『P80/C』のために専用設計された。それらにより、『488GT3』より空力効率がおよそ5%向上している。

エンジンフードのアルミ製ルーバーと凹型のリアウィンドウは、『330P3』『330P4』『ディーノ206 S』といったプロトタイプレーシングカーへのオマージュ。これらはひと目で『P80/C』とわかる特徴的なエクステリアだ。筋肉質なフェンダーが目を引くボディはカーボンファイバーで、フェラーリらしく「Rosso Vero」と呼ばれる赤で塗装された。

まるで戦闘機のコクピット。ロールケージ、6点式シートベルトを備えるインテリア

戦闘機のコクピットを思わせる室内にはロールケージが組み込まれ、インパネやステアリングには『488GT3』の面影を色濃く残している。しかし、ダッシュボードのサイド部分は専用デザインだ。バケットシートは鮮やかなブルー。素材については発表されていないが、アルカンターラと思われる。2座にはそれぞれ6点式シートベルトが装備された。

たったひとりのフェラーリ・コレクターのための作られたモデルなので、エンジンパワーなどのスペックは公表されていない。むろん価格もしかり。実車を目にする機会があるかどうかも定かではないが、どこかのコンクール・デレガンスでお披露目される可能性はある。いずれにせよ、間違いなくフェラーリの歴史に名を残す特別な一台となることだろう。

Text by Kenzo Maya
Photo by (C) Ferrari S.p.A.
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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