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第34回 | アウディの最新車デザイン・性能情報をお届け

アウディA8──自動運転に最も近いフラッグシップカー

アルプスを舞台にした山岳レース「オーストリア アルペンラン」。1911〜14年にかけてのアウディの華々しい活躍は語り草で、アウディブランドは世界に轟き渡った。栄光を支えたのは、「アウディの父」と呼ばれるアウグスト・ホルヒ博士だ。エンジニアである彼は、ある言葉を残したことでも知られている。それが、企業理念である「Vorsprung durch Technik(フォアシュプルング ドゥルヒ テヒニク=技術による先進)」。フルモデルチェンジをはたした新型『A8』は、この企業理念を具現化した一台といっていいだろう。2017年10月に欧州で販売開始。その年の東京モーターショーでも展示されて話題を集めた。概要は伝わっていたが、1年遅れでの待望の日本デリバリーが始まった。

量産車初。新型『A8』は自動運転の要となる「LiDAR(ライダー)」を搭載する

『A8』はアウディのフラッグシップセダンで、新型は第四世代となる。どの世代も常に最先端技術を搭載しており、今回もさながら「技術のショーケース」といった仕上がりだ。最大のトピックは、量産車として世界初となる「レーザースキャナー」の搭載だろう。技術に詳しい人なら「LiDAR(ライダー)」の搭載と聞けば、そのすごさが伝わるかもしれない。

「LiDAR」は自動運転に欠かせないパーツのひとつで、物体に当てたレーザーの反射時間から周囲の3次元地図を作成する。『A8』のレーザースキャナーは、145度の範囲で80m離れた場所までカバー。夜間でも対象物の形状を正確に捉える。このレーザースキャナーに加え、ミリ波レーダー、カメラセンサー、超音波センサーなど最大23ものセンサーが搭載された。

これらのセンサーが高度な「ADAS(先進運転支援システム)」の核となるのだが、それだけではない。特筆すべきは、センサーから得られた膨大な情報を統合的に分析し、高度な周辺環境モデルを構築する「セントラル ドライバーアシスタンス コントローラー(zFAS)」の採用だ。「センサー」と「zFAS」がしっかりとかみ合ったからこそ、これまで以上に人間の感覚に近い、遅延の少ないアクセル、ブレーキ、ステアリングの制御を実現できた。

しかし、この制御はあくまで、「レベル1」から「レベル5」まで5段階ある自動運転のうちの「レベル2」だ。『A8』といえば、ヨーロッパでの発表時、「Audi AIトラフィックジャムパイロット」の搭載、つまり「レベル3」の自動運転を市販車として世界初搭載することが話題となった。そのことを覚えている人は、「レベル3」はどうなったと感じたかもしれない。

結論から言えば、残念ながら搭載は見送られた。理由は、現時点で法整備が追いついていないからだ。とはいえ、『A8』に搭載された技術は「レベル3」の実現を見越したもの。アウディジャパンのフィリップ・ノアック社長は発表会で「洗練されたレベル2の運転支援システム」と表現した。

ハンドリング、足回り、乗り心地…走行性能も大幅に向上している新型『A8』

『A8』の先進技術はセンサー類だけではない。シャシーにも多くの最新技術が投入されている。「ダイナミック オールホイール ステアリング(四輪操舵)」は、65km/h以下でステアリングを操作した場合、リヤタイヤがフロントと逆方向に操舵される。これにより最小回転半径は約0.5m小さい5.3mとなり、都市部での取り回しの良さが向上した。65km/hを超える中高速では、リヤタイヤはフロントと同方向に操舵され、操縦安定性が向上する仕組みだ。

足回りでは、前後サスペンションアームのほぼすべてをアルミニウム製にすることで軽量化を実現。電子制御式可変ダンパーと組み合わせたエアサスペンションは、アウディドライブセレクトによって「コンフォート」「オート」「ダイナミック」などに任意でモード変更が可能だ。

さらに、2019年以降には「AIアクティブサスペンション」の導入が予定されている。前述のレーザースキャナーやカメラセンサーを用いて路面の凹凸を先読みし、サスペンションのストロークをアクティブ制御する。これによって、ラグジュアリーセダンにふさわしい滑らかでフラットな乗り心地から、スポーティセダンのようなキビキビした身のこなしまで、自由自在に変化するという。

乗り心地だけでなく、「アクティブセーフティ機能」も備えており、センサーシステムが側面衝突を避けられないと判断すると、ボディ片側を80mm持ち上げる。衝撃を強固なサイドシルで受け止め、キャビン変形と乗員への負荷を大幅に軽減するというから驚きだ。

「マイルドハイブリッドシステム」を搭載。新型『A8』は燃費性能もアップ

カーガイが気になるであろうパワートレインには、2種類のガゾリンエンジンを用意。『A8 55 TFSI quattro』には3.0lL V型6気筒直噴ターボが、『A8 60 TFSI quattro』には4.0L V型8気筒直噴ツインターボが搭載された。最高出力と最大トルクはそれぞれ340ps/500Nm、460ps/660Nmと、先代モデルから強化されている。

いずれも、「マイルドハイブリッドドライブシステム」を採用。燃費性能も大きく改善され、3.0lLモデルは10.5km/L、4.0Lモデルは8.7km/Lを達成した(JC08モード)。

トランスミッションは、ともに8速ティプトロニック(トルクコンバーター付きAT)。当然、アウディの技術の代名詞「quattro(フルタイム4WD)」も標準装備されている。「quattro」はセルフロッキング センターディファレンシャルを装備し、通常時のトルク配分は前40:後60だが、ホイールのスリップ状況に応じてフロントに最大70%、リヤに最大85%のトルクを配分する。

物理的なボタンやスイッチをほとんど廃止し、スッキリとした『A8』の室内

エクステリアは、フラッグシップセダンにふさわしい優雅さだが、そのなかにスポーティーさを感じさせる。その理由は、平らなルーフラインがリヤで鋭く落ちるサイドビューだろう。まるでクーペのような流麗さを感じさせる。

フロントでは、アウディのデザインアイコンである6角形の大きなシングルフレームフロントグリルが存在感を主張する。リヤは前方に向けてわずかに傾斜がつけられおり、停まっているときでも前に押し出すような躍動感を生み出した。

インテリアには水平基調で統一感のあるデザインが採用され、広々とした空間が演出されている。センターコンソールに上段10.1インチ、下段8.6インチのタッチ式スクリーンを採用することで、物理的なボタンやスイッチ類をほとんど廃止しており、スッキリとした印象だ。

また、インストルメントパネル、センターコンソール、ドアトリム、ルーフメンバーにまで張りめぐらされたLEDライトモールは、明るさと色調を別々に調整できる間接照明として、インテリアをエレガントに演出してくれる。

価格は1140万円から、新型『A8』は「自動運転の実現」に最も近い場所にいる

発売は10月15日から開始される。ラインナップは、『A8 55 TFSI quattro』『A8 60 TFSI quattro』『A8 L 60 TFSI quattro』の3種類。価格はそれぞれ1140万円、1510万円、1640万円と、ジャーマンスリーのメルセデス・ベンツ、BMWのフラッグシップセダンとほぼ同じ価格帯だ。

最先端の運転支援システム、デジタル時代にふさわしいタッチスクリーンによるユーザーインターフェイス、48Vのマイルドハイブリッドドライブシステム。まさに、「技術のショーケース」といっていい新型『A8』。自動運転に最も近い場所にいる、未来を感じさせる一台だ。

Text by Tsukasa Sasabayashi
Photo by (C) AUDI AG.
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

動画はこちら
The new Audi A8 オフィシャル動画
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第38回 | アウディの最新車デザイン・性能情報をお届け

アウディe-tron GT concept──怪物GTは市販されるのか

「電動化攻勢」。これは、これからのアウディが示した今後の進むべき方向性だ。簡単に言えば、電気自動車やプラグインハイブリッド車を増やしていくということ。具体的には、全世界の主要な市場において、2025年までに12の電気自動車を発売し、電動化モデルの販売台数を全体の約3分の1にすることを目指すという。その第一弾が2018年9月に生産が開始された『e-tron SUV』、第二弾が2019年に登場予定の『e-tron Sportback』。そして、第三弾がLAオートショーで華々しくデビューした『e-tron GT コンセプト』だ。

低い重心のグランツーリスモ。エクステリアに見て取れる次世代のアウディデザイン

『e-tron GTコンセプト』は、4ドアクーペのEV(電動自動車)である。全長4960mm×全幅1960mm×全高1380mmm。フラットでワイドなボディ、そして長いホイールベースといった特徴を備えた、典型的なグランツーリスモデザイン。EVにはめずしいフラットなフロアや低い重心も相まって、全体から受ける印象はアグレッシブでスポーティーだ。加えて、ホイールアーチとショルダー部分には立体的な造形が施され、ダイナミックなポテンシャルを強調している。

もちろん、アウディらしさはしっかりと踏襲。グリルの上部には、『RS』モデルのグリルに採用されたハニカムパターンを想起させるカバーをボディカラーに併せた塗装を施して装着。リヤエンドまで流れるような弧を描くルーフラインは、まごうことなきアウディのデザイン言語だ。

ただし、このアウディのデザイン言語を、次世代へと進化させたと感じさせる部分もある。ひとつは、リヤに向かってキャビンが大きく絞り込まれた意匠だ。そして、アウディデザインを象徴するシングルフレームグリルだ。これまでに発表された『e-tron』シリーズのシングルフレームグリルと比べると、そのアーキテクチャーは、より水平基調で躍動感を漂わせている。

フロントマスクは、矢印形状のマトリクスLEDヘッドライトが印象的だ。ライトにはアニメーション機能が組み込まれ、水平方向に広がる波をイメージした短い点滅がドライバーを出迎える。これは、将来的には市販モデルに搭載される予定だという。

リヤスタイルでは、車幅全体を横切って延びるライトストリップが目につく。外側に向かうにつれてリヤライトユニットへと融合されるこの意匠は、『e-tron』シリーズ共通のもの。視覚的にアウディのEVであることを認識させる。

動物由来の素材を排除。植物由来にこだわったサスティナビリティ重視のインテリア

インテリアは、エクステリアの近未来的でスポーティーな雰囲気と打って変わり、上質さが印象的。そして、日常の使い勝手にも配慮がなされている。

車内水平基調のインテリアが強調された、広々として落ち着いた空間だ。コックピットを中心として、センターコンソール、トップセクションの大型タッチスクリーン、ドアレールとコックピットのラインがドライバーを取り囲むように設置されている。各種機能やインフォテインメントをはじめとする操作系は、人間工学的に最適化された。

インストルメントパネル中央のディスプレイとセンターコンソール上部のタッチスクリーンは、ブラックパネル調仕上げ。一見すると宙に浮いているような印象だ。バーチャルアナログ表示にしたり、航続距離とともにナビゲーションのマップを拡大したり、インフォテインメント機能のメニューを表示させたり、さまざまなレイアウトに変化させることが可能だ。

次世代を感じさせる試みは、目に見える部分だけではない。サスピナビリティ(持続可能性)を重視し、インテリアからは動物由来の素材をいっさい排除。シート地やトリム地には、合成皮革を使用するなど、すべて植物由来を貫いている。

フラッグシップスポーツの『R8』を凌駕する最高出力により暴力的な加速性能を実現

気になる走行性能だが、前後のアスクルに設置されたモーターの最高出力は434kW(590hp)。アウディのフラッグシップスポーツ『R8』が397kW(540hp)なので、どれほどのモンスターマシンかは想像に難くないだろう。数値で表すと、0〜100km/hの加速は約3.5秒、200km/hにはわずか12秒で到達する。ただし、最高速度は航続距離を最大化するために240km/hに制限されているという。

もちろんアウディ伝統の4輪駆動システム「quattro」も健在だ。モーターが発生したトルクは、4つのホイールを介して路面へと伝達。前後のアクスル間だけでなく、左右のホイール間の駆動力も調整する電子制御システムによって、最適なトラクションが得られる。

気になる走行可能距離は、容量90kWh以上のリチウムイオンバッテリーと最大30%以航続距離伸ばすことができる回生システムを採用することで、400kmオーバー(WLTPモード)を達成した。また、充電時間は800Vの充電システムに対応することで、最速20分でバッテリーを80%まで充電可能だ。80%の充電でも320km以上を走行できるという。

夏には映画『アベンジャーズ4』に登場。どこまで市販モデルに性能が継承されるか

『e-tron GT concept』のテクノロジーは、同じフォルクスワーゲン・グループに属するポルシェと密接に協力して開発されている。ポルシェは、開発を進めていた『ミッションE』をブランド初となるEVスポーツカーの『タイカン』として、2019年後半〜2020年に発売する予定だが、『e-tron GT concept』と同じプラットフォームを採用し、出力も『e-tron GT concept』を上回るといわれている。

『e-tron GT concept』はいわゆるショーモデル。今年夏公開予定の映画『アベンジャーズ4』に登場するとアナウンスされているが、このままの状態で市販化はされない。

現在はアウディスポーツによって量産化への移行作業が行われており、量産モデルは2020年後半に登場する予定とされている。デリバリー開始は2021年初頭。このポテンシャルがどこまで市販モデルに引き継がれるか、興味深いところだ。

Text by Tsukasa Sasabayashi
Photo by (C) AUDI AG.
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

動画はこちら
Audi e-tron GT concept オフィシャル動画
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