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(富子)はい… オッケーです。
(山根)ご苦労さまでした!「白蛇姫」の仕上げがやっと終わった その日北海道から 照男君と砂良さんが新婚旅行にやって来ました。
(なつ)砂良さん 幸せになってね。
(照男)心配すんな それは。俺がついてんだ。
頼むぞ 照男兄ちゃん。
(砂良)これからは私も待ってるからね なっちゃん。
家族と一緒に。
うん ありがとう。
それから 間もなくして咲太郎の劇団の公演が幕を開けました。
なつは 東京で初めて 本物の舞台を見たのです。
何百万という女は それをしてきたのです。
そんな だだっ子のようなことを言うもんじゃない。
そうかもしれません。けど… 私は 今この時に目覚めたのです!
この8年間 私は見ず知らずの他人と この家で過ごしその人と 3人の子どもまで作った…。
ああ… そのことを考えると私は耐えきれずこの身を引き裂きたくなるのです!
♪~
♪「重い扉を押し開けたら暗い道が続いてて」
♪「めげずに歩いたその先に知らなかった世界」
♪「氷を散らす風すら味方にもできるんだなあ」
♪「切り取られることのない丸い大空の色を」
♪「優しいあの子にも教えたい」
♪「ルルル…」
ノラ!私が どう言っても私は もう 他人以上にはなれないのか!
もし 本当の奇跡が起こるなら…。
本当の奇跡? それは何だ?
私たち2人が すっかり変わって…。
いいえ 私は もう 奇跡なんか信じない!
私は信じる!
私たちは変われる!
私たちの生活が 本当の結婚になるなら…。
さようなら。
ノラ…!
ノラ!
♪~
奇跡! 奇跡だと!?
♪~
(咲太郎)はい。また 声かけるから…。
よろしくお願いします。
よう! どうだった?いかった お兄ちゃん!
何て言うか… 本当に いかった!そうか。 雪次郎は?
(雪次郎)はい… 俺は 見ている間ずっと 体が熱かったです。
風邪でも ひいたのか?いえ… そういうんでなくて…。
分かってるよ。 な いい芝居だろ?
うん。 亀山蘭子さんって女優さんが本当にすごかった。
おう 紹介してやるよ。せっかくだから会ってけ。
えっ? い… いいの!?えっ えっ えっ…。
えっ…。(ノック)
蘭子さん お疲れさまです。ちょっと いいですか?
・(蘭子)はい。
蘭子さん 俺の妹なんです。
あ… 奥原なつです。
(蘭子)あれ 咲ちゃん 家族いた?
孤児院で育ったんじゃなかったっけ?
育ってはいませんよ。一時 いただけです。
その時 妹もいたんです。
それから すぐ バラバラになって9年ぶりに再会して今 一緒に暮らしてます。
まあ… 新派になりそうなお話ね。
どうでしたか? 舞台は。
あ… いかったです!
何て言うか… 本当にすごかったです。
よかったと すごかったしか言ってないぞお前。
いや ほかに言葉が浮かばなくて…。
あ… 絵に描きたいと思いました。
絵?あ… なつは 漫画を描いてるんです。
漫画映画です。 それに まだ描いてません。
あっ でも この感動は絵には描けないかなとも思いました。
それくらい すごかったです。
何だか とても こんがらがった感想ね。フフフフ…。
すいません…。
でも ありがとう。 うれしいわ。
こちらこそ。
それから こいつは なつの友達で北海道の農業高校で演劇をやってたやつなんです。
あ… 小畑雪次郎です!
演劇部だったの?はい。
へえ… どうでしたか?
はい。本物は… 普通なんだと思いました。
えっ?
お前 何言ってんの?あっ 普通っていうのは普通の人がまるで そこにいるみたいというかそういうアマチュア精神を感じるというか…。
お前 失礼だろ!あっ いえ普通の人が言いたい言葉を代弁するというか伝える力が プロなんだと思ったんです。
あの 別に スターとかじゃなくて普通の人間だから伝わる精神を持ってるのがなまら すんげえ俳優なんだと思いました。
それが新劇なんだと思いました。
すみません 蘭子さんこいつの感想も こんがらがってます。
すいません…。あなた 今 何をしてらっしゃるの?
はい… 新宿の川村屋でお菓子作りの修業をしています。
雪次郎君の家は帯広で お菓子屋さんをしてるんです。
お菓子と おんなじくらい雪次郎君は 本当に芝居が好きなんです。
そう…。
それで よく 芝居をやめられたわね。
今日は どうも ありがとうございました。
ありがとうございました!
お疲れさまでした!お疲れさま。
♪~
どしたの? 雪次郎君。
いや…。
なつたちにとって この出会いも また一つの運命かもしれません。
びっくりしました。人形は出てこないんです。
人形は奥さんなんです。
子どもの頃 父親に人形のようにかわいがられてて大人になってから 旦那さんに人形のようにかわいがられてた奥さんが最後に 目が覚めたと言って家を出ていってしまうんです!
(亜矢美)うんうん… 確か そういう話だ。
目覚めることがこの芝居のテーマなんだから。
私は 無理やり 家を出ようとした時母さんに たたかれたことがあった。
そんで 目が覚めた。お前の場合は 牛の家だろ。
牛は たたけばいいが人間は そうはいかないからな。
牛だって たたいちゃダメだ。うんだ うんだ。
長い間 女は家の中に閉じ込められてきた。
それを 解き放とうという運動なんだよこの芝居は。
運動なんかじゃないです。えっ?
芝居は 運動なんかじゃないです。
あれ… 何か いつもと目が違わない?
演劇や文学の目的は問題の解決にあるんじゃないとイプセンは言っています。
その目的は 人間の描写です。
人間を描き出すことです。
イプセンは 詩人や哲学者としてそれを描いたんです。
そして それを見た観客も詩的や哲学的になることなんですよね。
キャ~ 見事に そのとおりになってる。ね ね ね…。
お前 よく勉強してんな 本当に。
いや いくら本を読んでも分からなかったことがあの人の演技を見てよく分かったんですよね。
実感できたんです。
亀山蘭子?
はい。
人間の描写か…。
うん… あんな芝居も絵に描けたら すごいな。
なつは 蘭子さんの芝居を思い浮かべて「白蛇姫」のワンシーンを描きたくなりました。
♪~
(仲)結論から言うと 不合格でした。
自分が描きたいものに自分の手が追いついていかないんです。
自分は下手なんだってよく分かりました。
特に きれいな線を描こうとすると全然ダメで それが悔しくて…。
それからも なつは動画の線をきれいに描くクリーンナップの練習を続けていました。
それが できなければどんなに気持ちを込めても使い物になりません。
作画から仕上げまで「白蛇姫」の仕事が終わるとなつたちは うそのように暇になりました。
時間がある今 この間にトレースの練習をします。トレースは 見てのとおり動画の線を崩さずセルに写し取ることです。同じ仕上げの仕事でもその技術には 年季が必要で彩色より 向き不向きがあると思います。自信があるっていう人はいますか?
誰も 挑戦したい人はいませんか?
奥原さん… あなたは作画に行きたいんじゃなかったっけ?
あ いえ…作画になりたいとは思ってますがもちろん 仕上げもちゃんとやりたいです。
仕上げで使える人間になりたいです。
自信があるの?
う~ん…やってみなければ分かりませんがずっと 動画のクリーンナップの練習をしてたのできれいに線を描くのは大丈夫だと思います。
というより… 思いたいです。
あら そう。なら ここに座って やってごらんなさい。
はい。
(富子)これを描いてみなさい。
はい。墨をすって そのペンで描いてみて。
正確にね。
はい。
♪~
1回ごとに ペン先をスポンジで拭いて。
はい。
へえ~。
なかなか うまいじゃない。
ありがとうございます!
それじゃ もう一度同じ絵を描いてごらんなさい。
おんなじものを?そう。
それじゃ もう一回 同じものを。
はい…。
もう一回。
もう一回。
それじゃ もう一回。
それじゃ もう一回。
なつは 同じ絵を 10枚も描かされました。
それじゃ トレースしたセルを全部重ねてごらんなさい。
はい。
♪~
ああっ…。
なつよ 線が ずれまくってるぞ。
まだまだってことだな。