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【社説】

WTO改革 批判てこに機能強化を

 世界貿易機関(WTO)の機能低下に懸念や批判が広がっている。紛争処理機能の強化などで速やかに具体策をとり求心力を取り戻さなければ、保護主義の広がりを抑えることはできない。

 今月末に大阪で開かれる二十カ国・地域首脳会議(G20サミット)を前に茨城県つくば市で開かれた貿易・デジタル経済相会合は、共同声明で「反保護主義」を打ち出せなかった。極めて残念だ。

 その一方でWTOの改革が焦点に浮上している。世界の自由貿易体制、通商秩序の基盤になってきたWTOの機能の低下が目立つためだ。

 百六十四カ国・地域が加盟するWTOには貿易のルール作りと、貿易を巡る紛争の処理という二つの役割がある。

 米トランプ大統領は、補助金や知的財産の侵害などで中国の違反行為を抑えるルール作りが進まない現状を厳しく批判している。

 紛争の処理でも疑問の多い判断が目立つと反発し、最終判断を下す二審の上級委員会で、新たな委員任命を阻止している。このため七人体制の委員会は三人で運営されている窮状で、機能をさらに弱めている。

 日本は自国第一主義の米国とは距離を置き、欧州連合(EU)などとともに冷静な改革論議を進めてきた。

 ただ福島県産などの水産物をめぐる韓国との貿易紛争で、一審の判断を上級委員会に覆され逆転敗訴。その判断に曖昧さがあったため、ここに来て機能低下への批判を強めている。

 日米欧そして中国などは、改革の必要性では一致している。利害が複雑にからみ同床異夢の側面もあるが、機能低下に手をこまぬいていては状況はさらに悪化する。「脱退」をほのめかすトランプ大統領をWTOの枠組みにとどめるためにも、批判をてこにG20サミットでは改革の具体化に着手する必要がある。

 まず、貿易紛争解決の役割を担ってきた紛争処理機能の改善、強化が求められる。二審の上級委員会の体制を強化して最終判断の信任を高める必要がある。異議申し立てができない仕組みの改善も検討課題となろう。停滞が続くルール作りでは、新たな交渉分野として重要性が増す一方で、対立の少ないデジタル分野で結果を出していくべきだ。

 改革を急がないとWTOそのものが保護主義の波にのみ込まれかねない。

 

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