フラットトラックレースで3度のチャンピオンに輝いたインディアンだが…
「市販モデルの『FTR1200』を2019年中に発売する」。インディアンが6月に発表した計画は世界中のファンのあいだで話題となった。このニュースを理解するには、まずインディアン・モーターサイクルというブランドを、そのレースとのかかわりを知っておかねばならない。
フラットトラックレース自体は1900年代初頭に始まっているが、AMA(アメリカン モーターサイクリスト アソシエーション)によるフラットトラック(あるいはダートトラック)レースのチャンピオンシップが始まったのは、戦後まもない1946年のことだ。オイルの焼ける匂いと巨獣の咆哮を思わせるエキゾーストは今も変わらずスタジアムを包み、市民への定着ぶりはもはやアメリカの伝統的行事といってもいい。
ヨーロッパ発祥の多くのモータースポーツと違い、アメリカ生まれのフラットトラックにはアメリカ人のアイデンティティともいうべき存在感がある。事実、ホンダ、マチレスやBSAの英国勢がタイトルを獲ったこともあるが、歴代タイトルのほとんどはハーレーダビッドソンのもの。インディアンは、そのアメリカでもっとも古いオートバイメーカーで、かつては世界一の販売台数を誇った。初期のフラットトラックでは3年連続でチャンピオンに輝いている。
ところが、経営不振に陥って1959年に一度は解散し、それ以後は再興と販売権の移譲を繰り返してきた。いわば「インディアン」という名前だけが人々の記憶に残されていたのだ。
度重なる経営権の移転から、2017年にフラットトラックレースで奇跡の復活
ブランドとして安定したのは2011年にポラリス(ミネソタの動力車メーカー)の傘下に入って以降のこと。特にここ数年は順調に販売台数を伸ばしており、アメリカの第二のモーターサイクルメーカーとして認知されてきたようだ。
もっとも、インディアンに対する世間の評価は「良くできた復古調のお洒落アイテム」といったところ。ストリートを走るにはいいが、本当の意味での実力は認められていなかった。アメリカではレースに勝たない限り、本物として受け入れてもらえない文化が今も色濃く残る。
だからフラットトラックで勝利することは、単にアワードのひとつを獲得する以上の意味を持つ。名実ともに「インディアンの復活」を証明するために必要な舞台だったのである。
しかし、レースに復帰した初年度にタイトルを獲得するとは、当のインディアンも予想していなかったのではないか。当然のことだが、レースで勝てるマシンを作るためのノウハウは想像もつかないほど深く多岐にわたる。どれだけの準備を重ねてきたのかはいずれ伝わってくるだろうが、開発に携わったインディアンの技術者たちの仕事ぶりには頭が下がる思いだ。
長年にわたって数奇な運命をたどってきた「Indian Motorcycle」という老舗モーターサイクルブランドの復活が、このフラットトラックでの勝利によってまさに実証されたのである。
チャンピオンマシンからインスピレーションを受けた市販モデル『FTR1200』
タイトルを獲得したのは、インディアン『スカウト』をベースにした『FTR750』というレーシングマシン。といっても、ベース車両から流用したのはエンジンブロック程度である。
2017年にミラノショー(EICMA)など世界各地のショーでお披露目された『FTR1200カスタム』は、この『FTR750』のイメージを存分に生かしたワンオフモデルだ(写真はすべて『FTR1200カスタム』)。その見事なフィードバックぶりには目を奪われてしまった。
しかし、市販モデルとなる『FTR1200』は、単に『FTR1200カスタム』を踏襲するのではなく、まったく新しいセグメントのモデルになるとされる。インディアン・モーターサイクル社の社長は、発表の際に市販モデルの『FTR1200』についてこうコメントしている。
「FTR1200は、FTR750、FTR1200カスタムからパフォーマンス、デザインの両面で大きなインスピレーションを受けましたが、独自のスタイルを持ったニューモデルとなります」
新型市販モデル『FTR1200』は、2019年中に生産と販売をスタートする計画
現時点で明らかになっているのは、『FTR1200』の生産を2019年に開始し、同年中に販売する計画となっているということだけだ。正式発表日は未定で、仕様詳細もまだわからない。
しかし、『FTR1200』がフラットトラッカースタイルを持ち、トレリス(トラス)フレームに新型Vツインエンジンを搭載することは間違いなさそうである。
『FTR1200』の仕様詳細などの新情報や今後のスケジュールは、アメリカ本国のインディアン・モーターサイクル『FTR1200』公式サイトで随時公開される予定だ。続報を待ちたい。
Text by Koji Okamura
Photo by (C) Indian Motorcycle
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)