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第108回 | 大人のための最新自動車事情

ただ、美しい──モデルSのシューティングブレイク

テスラ『モデルS』といえば、セダンタイプの富裕層向け高級EVである。価格はおよそ800万円。その『モデルS』が艶やかな「シューティングブレイク」にカスタムされて登場した。手がけたのは、リムジン専門のコーチビルダーとして知られるオランダのレメツカー社。『モデルS』のハイグレードな印象をさらに高めたレメツカーのセンスと技術は一見の価値ありだ。

シューティングブレイクにカスタムされたラグジュアリーセダン『モデルS』

テスラについては多くの説明は必要ないだろう。「世界一の起業家」とも評されるイーロン・マスクが立ち上げた高級EVブランドで、2008年にデビューした最初のモデル『ロードスター』は、1000万円以上という高価格でありながら2400台以上を販売した実績を持つ。

最近は「中間層にも手が届くEV」として投入された『モデル3』の生産の遅れがメディアで騒がれているが、ブランドに対する富裕層の評価は相変わらず高い。『モデルS』は、スーパースポーツの『ロードスター』に続いて発表されたラグジュアリーセダンのEVだ。

レメツカー(RemetzCar)は、いわゆるストレッチリムジンを作るオランダのコーチビルダーである。1996年創業の比較的若い会社だが、メルセデス・ベンツ『Sクラス』やアウディ『A8』をベースに、カスタムとは思えない緻密な仕上げと豪華で上品な内装を売りにしている。VIP専用のクルマを作っているわけではなく、フィアット『500』などの大衆車もストレッチし、ロールス・ロイス『ファントム』をピックアップトラックにしてしまう遊び心もある。

とはいえ、このシューティングブレイク仕様の『モデルS』は、限定生産台数がたったの20台と、限られた資産家以外の層がおいそれと入れられるものではない。それなのに、なぜここに紹介するのか。それは率直にいって、このクルマの「美しさ」が目を引いたからだ。

『パナメーラ ツーリズモ』よりシューティングブレイクとして完成度が高い

シューティングブレイクとは、ひと言でいえばスポーティなステーションワゴンのこと。ワゴンは積載性を考えて作られるが、シューティングブレイクは後から積載性を考える。ロー&ロングの流麗なスタイリング、富裕層好みのラグジュアリーさも特徴のひとつだろう。

この『モデルS』のスタイリングは、車両全体のバランスと曲面のつながりにまったく違和感がない。特にテールエンドに流れるように降りていくルーフエッジのライン、大きすぎないリアゲートとウインドウ、そしてリアフェンダー上部との兼ね合いは見事というほかないのだ。

おもなシューティングブレイクには、フェラーリ『GTCルッソ』やポルシェ『パナメーラ スポーツ ツーリズモ』などがあるが、前者は外観上の“重さ”が車両後部に集中していてやや不自然で、後者と比べても、この『モデルS』のほうが完成度の面で上をいく。

レメツカーはこれまでも複数の『モデルS』のカスタムを手がけており、今回はオランダ人コレクターが「ラゲッジスペースを確保することに執心せず、モデルSをダイナミックでスポーティ、かつエレガントなシューティングブレイクに」とオーダーしてきたものだという。

品のいい「RemetzCar」のロゴ、レザーのシート…インテリアにも隙はなし

デザインを担当したのは、ロンドンで自動車設計会社を経営しているオランダ人デザイナーのニールズ・ファン・ロイ氏。彼はボルボからビークルデザイン研究のサポートを受けたり、ロンドンタクシーの包括的デザイン構想に参加したりと、将来を嘱望されるデザイナーだ。

ロイ氏はデザインについてこんなことを語っている。「デザインには物語があり、それはとても美しい物語だがあまり語られることがない。しかし、デザイナーはそれぞれのブランドのDNA、伝統を理解し、無数の記録が入った引き出しを開けて、顧客には新しい経験を提供しなければならない」。なんとも意味深く、それでいて期待感を持たせるには十分な言葉である。

それを裏づけるかのように、この『モデルS』は内装にも隙が見当たらない。シートはレザーに張り替えられ、グローブボックスの内側にまで内張している。内装色はオーダーによって好みのカラー、最適のものを選ぶことができる。室内のそこかしこに見られる「RemetzCar」のロゴやバッジもじつに品が良く、所有感を満たしてくれるであろう出来栄えだ。

『モデルS』は世界に先がけて自動運転システムを取り入れた市販車として知られるが、もちろん自動運転機能はこのシューティングブレイク仕様車にも搭載されている。

シューティングブレイクの『モデルS』は2730万円以上。しかし高くはない

前述したように、レメツカーは『モデルS』のカスタムを多く手がけているが、それはデザイン面に加えて、動力であるモーターが前後で独立していることが大きいと思われる。このシューティングブレイクは車体をストレッチしていないが、『モデルS』はドライブトレインを延長する必要がないので、ストレッチカスタムの素材にうってつけなのである。

ちなみに、この美しく優雅なシューティングブレイク仕様の『モデルS』を手に入れるには、車両代金のほかに約6万ユーロ(約780万円)が必要になる。ベースに『モデルS』のトップグレード「P100D」を選べば、価格は合計で21万ユーロ(2730万円)以上になるわけだ。

しかし、『モデルS』の性能と機能、そこへ美しいスタイリングが一体となった姿を見ると、けっして高いという気はしない。ただし、生産は限定20台。そこが最大の問題だろう。

Text by Koji Okamura
Photo by (C) RemetzCar
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

動画はこちら
RemetzCar Shooting Brake オフィシャル動画
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第130回 | 大人のための最新自動車事情

エモーションEV──バタフライドアの電動スポーツカー

ポルシェ初の量産EVスポーツカーとして話題の『タイカン』は今年生産を開始し、驚異的なスペックを誇るテスラのスーパースポーツカー『ロードスター』も2020年の発売を予定している。EVスポーツカーは、いま旬を迎えつつあるカテゴリだ。そうしたなか、アメリカのフィスカーがCES 2019で初公開した『エモーションEV』が予約受付を開始した。バタフライ4ドアが特徴の高級フルEVスポーツは、いったいどんなクルマなのか。

BMW『Z8』やアストンマーチン『DB9』のデザイナーが手がけた高級スポーツEV

フィスカー『エモーションEV』は、ヘンリック・フィスカー氏の手によるエレガントなデザインの高級EVスポーツカーだ。フィスカー氏はデンマーク出身の著名なカーデザイナー。BMWに在籍していた当時に『Z8』、EVコンセプトモデルの『E1』などを手がけ、アストンマーチンでは『DB9』『DBS』『ヴァンテージ』のデザインを担当した。

その後、独立してメルセデス・ベンツやBMWをベースにしたコンプリートカーやハイブリッドエンジン搭載のオリジナルモデルを製作するが、じつは、テスラで『ロードスター』『モデルS』の2モデルの開発に参加したこともあるようだ。そのせいというわけではないだろうが、『エモーションEV』のデザインはどこかテスラに似た雰囲気もある。

ともあれ、スタイリングは「美しい」のひと言に尽きる。とりわけ特徴的なのは、開くとドア側面が蝶の羽のような形に見える「バタフライ4ドア」だ。同じ上部に向かって開くドアでも、縦方向に開くシザースドアと違い、バタフライドアは外側が斜め前方に、内側が下向きに開く。駐車スペースに苦労する日本ではなかなかお目にかかれないドアだ。

バッテリーはリチウムイオンではなく炭素素材コンデンサ。多くの先端技術を搭載

面白いのは、バッテリーに多くのEVに採用されるリチウムイオンではなく、炭素素材コンデンサのグラフェンスーパーキャパシタを採用したことだ(全個体充電池搭載モデルもラインナップ)。1回の充電あたりの最大走行距離は約640km。急速充電の「UltraCharger」に対応しており、9分間の充電で約205km分の容量までチャージ可能という。

EVパワートレインは最高出力700psを発生し、最高速度は260km/h。このスペックを見ると、テスラ『ロードスター』のようなEVスーパースポーツではなく、あくまでスポーティカーという位置づけなのだろう。全長5085×全幅2015×全高1465mmのボディは軽量のカーボンファイバーとアルミニウムで構成され、駆動方式は四輪駆動だ。

このほか、ADAS(先進運転支援システム)としてクアナジー製LIDARセンサーを5個搭載し、コネクテッドなどのEVスポーツカーらしいさまざまな先端技術を装備する。

『エモーションEV』の価格は1440万円。予約も開始され今年中にデリバリー予定

前述の通り、『エモーションEV』はグラフェンスーパーキャパシタ搭載モデルと全個体充電池搭載モデルの2モデルを設定。価格はグラフェンスーパーキャパシタ搭載モデルが1440万円(税別)、全個体充電池搭載モデルの価格は未定だ。すでに日本でもデロリアン・モーター・カンパニーを正規代理店に予約受付を開始しており、グラフェンスーパーキャパシタは今年中の納車を予定している。ただし、予約金として約24万円が必要だ。

最近では東京都心部などでテスラをよく見かけるようになり、もはやEVは現実的な乗り物になりつつある。たしかに価格は1000万円オーバーと高価。しかし、この美しいルックスなら、他人と違うクルマに乗りたいという欲求を満たすことができるのではないか。

Text by Kenzo Maya
Photo by (C) Fisker, Inc.
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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