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第2回 | ハーレーダビッドソンの最新車デザイン・性能情報をお届け

電動モデル登場──ハーレーダビッドソンの改革とは?

「ハーレーショック」をご存じだろうか。アメリカのトランプ大統領は貿易赤字を削減するために保護主義政策を進めている。ハーレーショックとは、その影響からアメリカの象徴であるハーレーダビッドソンがヨーロッパ向けの生産拠点をアメリカ国外へ移すと表明した出来事を指す。その衝撃が続くなかでハーレーが発表した新たな経営計画は、さらにファンを驚かせるものだった。ブランド初の電動モデル『LiveWire』を2019年に発売するというのだ。

フリークは「ビッグVツインエンジン」でなければハーレーとして認めない

ハーレーダビッドソンが電動モデルを発売する──。そう聞くと意外に思う人もいるかもしれないが、これは二輪業界においては周知の事実だ。とはいえ、なぜあのハーレーが電動モデルなのか? 電動ハーレーを紹介する前に、まずその点について説明しよう。

ハーレーといえば、ビッグVツインエンジンの迫力あるルックス、音圧とリズムを感じる独特のエキゾーストサウンドがシンボルだ。また、そのシンボルを有していなければ、ユーザーからハーレーとして認められなかった。今でもこうした考えを持つハーレーフリークは多い。

しかし、アメリカ本国のHARLEY-DAVIDSON Inc.の経営陣は、時代の流れを見極め、次世代へ向けた新たな商品ラインナップが必要と考えたのだ。その点は想像に難くない。

ハーレーが最初に経営方針を大転換しようと試みたのは、1960年代後半から1970年代にかけてのこと。当時、世界の二輪車マーケットでは、日本製モーターサイクルが勢力図を塗り替えようとしていた。危機感を覚えたハーレーは、イタリアの航空機メーカー、アエルマッキのモーターサイクル部門の株式50%を買収し、小型モデルの製造を開始する。

ところが、小型のモーターサイクルは利益率が低く、生産コストを抑えた効率のいい日本製モーターサイクルにはとても対抗できない。さらに「ハーレーのイメージを損なう」といったディーラーからの反発もあり、このときは経営改革を断念せざるを得なかった。

“ハーレーブーム”頼みではメーカーとして本当に復活することはありえない

しかし、時代の流れとは面白いもの。その後、ハーレーの経営権が転々とする厳しい時代が続いたが、1990年代半ばから世界的に信じられないようなハーレーブームが巻き起こった。

じつは、ハーレーは1970年代の終わりに、ITC(国際貿易委員会)から経営悪化は日本製モーターサイクルの台頭が原因ではなく、「品質管理の悪さや時代遅れのデザイン」「マーケティング・ポリシーの間違い」にあると裁定されている。その古くささ、手をかけなければグズってしまう気難しさが、1990年代にむしろ希少なキャラクターとして人気を集めたのだ。

それなら電動モデルは必要ないのでは、と思うかもしれない。だが、ハーレーの経営陣は、間違いなく「流行に委ねた復権など、今後はあり得ない」と考えている。実際、現在の市場環境を見ると、時代の流れが再びビッグツインに戻ってくるとは想像しにくい。だからこそ、この20年間に蓄えた経済力を技術革新とマーケットの開拓に注ごうとしているのである。

そこで電動モデルだ。モーターサイクルにせよクルマにせよ、もはやメーカーは電動化の波に抗いようがない。なにしろ、そこには地球規模の環境問題という大義があるのだから。

ハーレーダビッドソンが2019年に発売する初の電動モデル『ライブワイヤー』

ハーレー初の電動モデルは『LiveWire(ライブワイヤー)』と名付けられた。これは2014年に『Project LiveWire』として発表されたコンセプトモデルを改良した市販バージョンで、2019年8月に販売が開始される(メイン写真と一番下の写真以外はすべてコンセプトモデル)。

かなり自信があるらしく、ハーレーはプレスリリースに「電動スポーツバイクのリーダーとなる立場を確立した」と記している。

公表されている『LiveWire』の画像は少ないが、スタイリングはハーレーの社内ブランドだったBuell(ビューエル、2009年に生産中止)のスポーツモデルを思い起こさせる。いかにも剛性が高そうなフレームとスイングアームを持ち、きっぱりと短いシートエンド、ビッグVツインを想起させるボリューミーな動力パックも特徴的だ。

その動力には縦置きした三相モーター(三相交流を使うモーター)を採用。ベベルギア(傘歯車)を介してドライブシャフトを駆動する。ヒートシンクは発熱量の大きさを物語る広い面積を持つが、それでも冷却が十分ではなかったのだろう。プロトタイプにはなかったオイルクーラーが追加されている。三相モーターの最高出力は74hp、最大トルクは5.2kg-mを発揮。最高速は92マイル(約147km/h)をマークし、0~96km/h加速は4秒を切るという。

バッテリーにはリチウムイオン電池を採用し、満充電3.5時間で100km以上(推定値)の走行が可能とされている。発売時にはもう少し航続距離は伸びるかもしれない。

スロットルはガソリンエンジンと同じように右側グリップ。いや、電気モーターなので、スロットルではなくスイッチやコントローラーと呼ぶべきかもしれない。当然、クラッチもトランスミッションもないので、走行に必要な基本動作はアクセルとブレーキだけだ。

オフィシャル動画を見ると、加速時にギアが鳴る独特のサウンドが聞こえてくる。けっして大きな音ではないのだが、冷徹な攻撃性を感じてクールなのだ。消音自体はギアの種類やカバーリングによって可能なはず。それをあえてしなかったのは、『LiveWire』のアイデンティティとして、そしてハーレーのモデルとして、”サウンド” が必要だったのだろうと推測する。

2020年までにアドベンチャーツアラーとストリートファイターも新たに導入

『LiveWire』は2022年までにモデルのバリエーションを拡充していく予定で、小型でリーズナブルな電動モデルを3タイプ発表するという。それは、現在の電動スクーターやモペッドと同じマーケットに食い込むための楔(くさび)になることを目的にしている。

さらにもうひとつトピックがある。ハーレーは2020年までに、1250ccのアドベンチャーツアラー、975ccのストリートファイターの2モデルの導入も予定している。このうち、アドベンチャーツアラーには『パンアメリカ1250』という名が与えられ、前述のビューエルが生産していた「ユリシーズ」の後継モデルに位置づけられるという見方もあるようだ。

今後の数年間でハーレーのイメージは大きく変わることになるだろう。イメージを覆すことを許さないフリークたちはどのように折り合いを付けるのか。そこが気になるところだ。

Text by Koji Okamura
Photo by (C) Harley-Davidson, Inc.
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

動画はこちら
Harley-Davidson Project LiveWire オフィシャル動画
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ミニマリストたちへ──ハーレーの新型ミニマルツアラー

ミニマルとは「最小限の」という意味だ。そして、自分にとって快適であり、その価値観において必要最小限のモノを所有して暮らす人のことをミニマリストと言う。新たにハーレーダビッドソンの「ツーリング」ファミリーに加わった『エレクトラグライド スタンダード』は、まさしくミニマルであることを追求したニューモデルだ。「Freedom for all, All for Freedom(すべてを自由のために。自由をすべての人へ。)」を掲げるハーレーダビッドソンにとっては、その原点となる要素を持ったツアラーといえるかもしれない。

コンセプトは「ドレスダウン」。ツーリング至上主義者のための新型ツアラーが登場

1903年の創業から116周年を数えるモーターサイクル界の雄であるハーレーダビッドソンが、電動バイク『ライブワイヤー』の市販モデルを市場に投入する。これにハーレー乗りのみならず、世界中のバイクファンが驚きの声をあげたのは記憶に新しい。

その『ライブワイヤー』よりひと足早く2019年のニューモデルとして詳細が発表され、3月から予約受付が開始されたのが、高次元のツアラー性能を誇る「ツーリング」ファミリーに新たに加わった『ELECTRA GLIDE STANDARD(エレクトラグライド スタンダード)』だ。この新型ツーリングモデル、とにかくストイックかつ辛口なコンセプトによって開発されており、大人ライダーなら要注目の春雷ハーレー仕様となっている。

そのコンセプトはズバリ「Dressed down Dresser」。つまり、ドレスダウンのコーディネートだ。広大な北米大陸を走ると、なぜハーレーというバイクが生まれ、Vツインを搭載しているのかが理解できる。『エレクトラ グライド スタンダード』は、このグランドアメリカンツーリングのルーツにインスパイアされ、ツーリング至上主義者のためのモデルとして構成された。その外観は、余分なものをいっさい削ぎ落としたスタイルが特徴だ。

ミニマルの極地。なんとツアラー必須機能のオーディオシステムまで車体から排除

装備されるのは、風圧軽減に適したバットウィング・フェアリングに低めのミッドハイウィンドシールド、そしてソロツーリングシートとサドルバッグのみ。このソロシートは深めのバケットタイプで、長距離ツーリングでも快適さを提供してくれる。装飾を見ても、目につくのはエンジン周りのクローム処理と、ブラックのタンク側面に配された真赤なバラのようなバー&シールドのロゴくらい。じつにビターなスタイリングとなっているのだ。

驚いたのは、ミニマリストを追求すべくツアラー必須機能のオーディオシステムまで排除したこと。フェアリング内のメーター下には、そこに搭載されているはずのハーレー最新のインフォテインメントシステム「BOOM! Box GTS」の液晶モニターがなく、ぽっかりと口を開けてグローブボックスとなっているのだ。当然、アンテナも装備しない。

こうした装備のダイエットにより、出荷時重量は354kgを実現。同じツーリングファミリーの『ロードグライド』が372kg、『ストリートグライド』が361kgなので、7〜18kgも軽量化されたことになる。もっとも、当然ながらセキュリティシステムやクルーズコントロール、ABS搭載リフレックスリンクドブレーキといった安全機能は装備しているので安心してほしい。また、シート高も680mmと低く、これなら信号待ちも余裕だろう。

価格は約250万円。日常のノイズから開放されたいライダーにはおすすめのモデル

搭載するエンジンは、ツーリングファミリーの兄弟モデルと同様に、排気量1745ccの「ミルウォーキーエイト107」Vツイン。最大トルクは3250回転で150Nmを発揮する。ヘルメット越しに聞こえる風の音と、Vツインエンジンが奏でる三拍子のリズムにのって広大な大陸を旅したい。『エレクトラグライド スタンダード』は、そういう日常のノイズやストレスからの解放を望むライダーにはうってつけのモデルといえるだろう。

もちろん自分好みのカスタムモデルに仕上げるためのベースとしても使い勝手はいい。

ボディカラーは潔く「ビビッドブラック」のみで、価格は290万5200円(税込み)。上位モデルの『ストリートグライド』は299万8000円(税込み)からなので、このリーズナブルさも魅力のひとつに違いない。「BOOM! Box GTS」など必要ない、という孤独を愛するライダーにはおすすめのモデルだ。国内出荷は2019年5月より開始される。

Text by Katsutoshi Miyamoto
Photo by (C) Harley-Davidson, Inc.
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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