フリークは「ビッグVツインエンジン」でなければハーレーとして認めない
ハーレーダビッドソンが電動モデルを発売する──。そう聞くと意外に思う人もいるかもしれないが、これは二輪業界においては周知の事実だ。とはいえ、なぜあのハーレーが電動モデルなのか? 電動ハーレーを紹介する前に、まずその点について説明しよう。
ハーレーといえば、ビッグVツインエンジンの迫力あるルックス、音圧とリズムを感じる独特のエキゾーストサウンドがシンボルだ。また、そのシンボルを有していなければ、ユーザーからハーレーとして認められなかった。今でもこうした考えを持つハーレーフリークは多い。
しかし、アメリカ本国のHARLEY-DAVIDSON Inc.の経営陣は、時代の流れを見極め、次世代へ向けた新たな商品ラインナップが必要と考えたのだ。その点は想像に難くない。
ハーレーが最初に経営方針を大転換しようと試みたのは、1960年代後半から1970年代にかけてのこと。当時、世界の二輪車マーケットでは、日本製モーターサイクルが勢力図を塗り替えようとしていた。危機感を覚えたハーレーは、イタリアの航空機メーカー、アエルマッキのモーターサイクル部門の株式50%を買収し、小型モデルの製造を開始する。
ところが、小型のモーターサイクルは利益率が低く、生産コストを抑えた効率のいい日本製モーターサイクルにはとても対抗できない。さらに「ハーレーのイメージを損なう」といったディーラーからの反発もあり、このときは経営改革を断念せざるを得なかった。
“ハーレーブーム”頼みではメーカーとして本当に復活することはありえない
しかし、時代の流れとは面白いもの。その後、ハーレーの経営権が転々とする厳しい時代が続いたが、1990年代半ばから世界的に信じられないようなハーレーブームが巻き起こった。
じつは、ハーレーは1970年代の終わりに、ITC(国際貿易委員会)から経営悪化は日本製モーターサイクルの台頭が原因ではなく、「品質管理の悪さや時代遅れのデザイン」「マーケティング・ポリシーの間違い」にあると裁定されている。その古くささ、手をかけなければグズってしまう気難しさが、1990年代にむしろ希少なキャラクターとして人気を集めたのだ。
それなら電動モデルは必要ないのでは、と思うかもしれない。だが、ハーレーの経営陣は、間違いなく「流行に委ねた復権など、今後はあり得ない」と考えている。実際、現在の市場環境を見ると、時代の流れが再びビッグツインに戻ってくるとは想像しにくい。だからこそ、この20年間に蓄えた経済力を技術革新とマーケットの開拓に注ごうとしているのである。
そこで電動モデルだ。モーターサイクルにせよクルマにせよ、もはやメーカーは電動化の波に抗いようがない。なにしろ、そこには地球規模の環境問題という大義があるのだから。
ハーレーダビッドソンが2019年に発売する初の電動モデル『ライブワイヤー』
ハーレー初の電動モデルは『LiveWire(ライブワイヤー)』と名付けられた。これは2014年に『Project LiveWire』として発表されたコンセプトモデルを改良した市販バージョンで、2019年8月に販売が開始される(メイン写真と一番下の写真以外はすべてコンセプトモデル)。
かなり自信があるらしく、ハーレーはプレスリリースに「電動スポーツバイクのリーダーとなる立場を確立した」と記している。
公表されている『LiveWire』の画像は少ないが、スタイリングはハーレーの社内ブランドだったBuell(ビューエル、2009年に生産中止)のスポーツモデルを思い起こさせる。いかにも剛性が高そうなフレームとスイングアームを持ち、きっぱりと短いシートエンド、ビッグVツインを想起させるボリューミーな動力パックも特徴的だ。
その動力には縦置きした三相モーター(三相交流を使うモーター)を採用。ベベルギア(傘歯車)を介してドライブシャフトを駆動する。ヒートシンクは発熱量の大きさを物語る広い面積を持つが、それでも冷却が十分ではなかったのだろう。プロトタイプにはなかったオイルクーラーが追加されている。三相モーターの最高出力は74hp、最大トルクは5.2kg-mを発揮。最高速は92マイル(約147km/h)をマークし、0~96km/h加速は4秒を切るという。
バッテリーにはリチウムイオン電池を採用し、満充電3.5時間で100km以上(推定値)の走行が可能とされている。発売時にはもう少し航続距離は伸びるかもしれない。
スロットルはガソリンエンジンと同じように右側グリップ。いや、電気モーターなので、スロットルではなくスイッチやコントローラーと呼ぶべきかもしれない。当然、クラッチもトランスミッションもないので、走行に必要な基本動作はアクセルとブレーキだけだ。
オフィシャル動画を見ると、加速時にギアが鳴る独特のサウンドが聞こえてくる。けっして大きな音ではないのだが、冷徹な攻撃性を感じてクールなのだ。消音自体はギアの種類やカバーリングによって可能なはず。それをあえてしなかったのは、『LiveWire』のアイデンティティとして、そしてハーレーのモデルとして、”サウンド” が必要だったのだろうと推測する。
2020年までにアドベンチャーツアラーとストリートファイターも新たに導入
『LiveWire』は2022年までにモデルのバリエーションを拡充していく予定で、小型でリーズナブルな電動モデルを3タイプ発表するという。それは、現在の電動スクーターやモペッドと同じマーケットに食い込むための楔(くさび)になることを目的にしている。
さらにもうひとつトピックがある。ハーレーは2020年までに、1250ccのアドベンチャーツアラー、975ccのストリートファイターの2モデルの導入も予定している。このうち、アドベンチャーツアラーには『パンアメリカ1250』という名が与えられ、前述のビューエルが生産していた「ユリシーズ」の後継モデルに位置づけられるという見方もあるようだ。
今後の数年間でハーレーのイメージは大きく変わることになるだろう。イメージを覆すことを許さないフリークたちはどのように折り合いを付けるのか。そこが気になるところだ。
Text by Koji Okamura
Photo by (C) Harley-Davidson, Inc.
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)