伝説の『750S America』を45年ぶりに甦らせたMVアグスタの美しき限定モデル
MV AGUSTA(MVアグスタ)は、イタリアの名門モーターサイクルブランドだ。その名を知るライダーは、かなりのベテランか、美的センスのある人に違いない。また、中高生のころに角川文庫を読み漁った男性なら、大藪春彦の『汚れた英雄』でなじみ深い名前だろう。
このバイク小説の金字塔には、ロードレース界で無敵を誇っていた時代のMVアグスタが登場する。物語の後半、主人公の北野晶夫がMVレーサーにまたがって活躍するのだ。
現在のMVアグスタはジョバンニ・アグスタ伯爵が率いた当時とは別物のブランドだが、伝統と精神は受け継がれている。とりわけその端正なフォルム、搭載される精巧で強力なパワーを発揮するエンジンは、「走る宝石」とも称えられるほどだ。EICMA2016(ミラノショー)では、『BRUTALE(ブルターレ)800 RR』が「もっとも美しいバイク」に選ばれている。
この美しきハイパーネイキッドの『ブルターレ800 RR』をベースに、“アメリカ”こと伝説の『750S America』を現代に甦らせた限定モデルが『ブルターレ800 RR AMERICA』だ。
タンク上に貼られた37回のチャンピオンシップ獲得を「★」で表したデカール
1973年に登場した『750S America』は、MVアグスタの黄金期、つまり1950年代から1960年代のグランプリレースであらゆるタイトルを総なめにした技術から開発された空冷直列4気筒エンジンを搭載していた。その最高出力は75馬力に達する。
もっとも、当時の市販モデルの製造技術では、レーシングマシンの製作と変わらない高度な技術と多くの時間が必要だったため、量産するには限界があったようだ。一説には、『750S America』の総生産台数は2000台ほどといわれる。MVアグスタにすれば、“アメリカ”は由緒正しいグランプリエンジンの血統を持つ、輝かしき歴史のひとつでもあるのだ。
新たな伝説の幕開けとなる『ブルターレ800 RR AMERICA』は、見てのとおり、スターズアンドストライプス(星条旗)をイメージした赤、青、白のカラーリングが特徴だ。これはアメリカへの敬意を表したもの。
タンクの上面には、“アメリカ”と同じく37回のチャンピオンシップ獲得を「★」で表したデカールが貼られている。ラジエターサイドパネルとリアフェンダーには、「America Special Edition★」の文字。これはライダーの心をくすぐりそうだ。
さらに目を奪われるのは、既存のバイクでは見たことのない美しいシート。これは『ブルターレ800 RR AMERICA』専用の特別仕様で、ライダー及びパッセンジャーエリアに特殊素材と金色のステッチを施し、快適性を追求したパディングを採用したもの。まるで1990年代に各国のデザイナーが作った「名作椅子」のようなシートとなっている。
『ブルターレ800 RR AMERICA』の価格は約226万円、日本導入台数は少量!?
エンジンは通常の『ブルターレ800 RR』から変更はない。最高出力140hp/12300rpm、最大トルク87Nm/10100rpmを発揮する直列3気筒エンジンを搭載する。
フレームに固定するシャシーも『ブルターレ800 RR』と同じだ。もちろんMVアグスタの特徴である迫力の3本出しエグゾースト、片持ちのリアアームもそのまま採用されている。
45年ぶりに“アメリカ”を甦らせたこの限定モデルこそ、まさしく「走る宝石」。ガレージではなく、リビングルームに置きたいコレクターモデルであり、雨の日に乗るなどとんでもない。快晴の日を選んで走りたい、そんな一台だ。
車両価格は226万8000円(税込み)。2018年7月より発売されているが、日本市場への割当数は少ないようなので、興味ある人はディーラーに急いだほうがよさそうだ。
Text by Katsutoshi Miyamoto
Photo by (C) MV Agusta
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)