『メガーヌR.S.トロフィー』の使命はタイプRが持つ“FF車最速記録”の奪還
『メガーヌ』はフォルクスワーゲン『ゴルフ』などが属するCセグメントのハッチバック。その2代目モデルから設定されてきた高性能バージョンが『メガーヌR.S.』シリーズだ。
その走りには、F1グランプリを筆頭に、ルノーがモータースポーツで培ったノウハウと先進技術が注ぎ込まれている。世界一過酷なサーキットとして有名なドイツのニュルブルクリンク北コースでは、歴代の『メガーヌR.S.』が“FF(前輪駆動車)最速タイム”を更新してきた。
しかし、現在の“FF最速記録”は、ライバルのホンダ『シビック タイプR』が保持している。したがって、新たに発表された『メガーヌR.S.トロフィー』は、ホットハッチとしてのパフォーマンスの高さを追求すると同時に、この最速記録の奪還が大きな使命となる。
日本ではまもなく『メガーヌR.S.』が発売されるが、『メガーヌR.S.トロフィー』の心臓部は『メガーヌR.S.』に搭載される1.8L直噴ターボエンジンをさらに強化したもの。専用のセラミックボールベアリングタービンを採用し、最高出力と最大トルクは、それぞれ279ps/390Nmから300ps/420Nmにまで引き上げられた(6EDCの数値。6速MTは400Nm)。
組み合わされるトランスミッションは、6速MTとデュアルクラッチAT「6EDC」のいずれかをチョイスすることが可能。先代まではMTしか選ぶことができなかったが、パドルシフトで操るEDC(デュアルクラッチ)の登場により、よりパフォーマンスが追求された形だ。
強化された足回りには専用パッケージチューン「シャシーカップ」を標準装備
当然、足回りも『メガーヌR.S.』とは異なる。『メガーヌR.S.トロフィー』では、過去にグレード名称にもなった「シャシーカップ」という専用パッケージチューンが標準化されている。
トルセンLSDは専用にセッティングされ、トラクション性能の向上を実現している。トルセンとは機械式LSD(リミテッド・スリップ・デファレンシャル)の一種で、トルク配分や差動制限にギアを使うトルク感応型LSDのこと。ダンパーとスプリングはそれぞれ25~30%引き締められ、スタビライザーも10%ハードとなった。これらがシャシーカップを構成している。
また、現行『メガーヌ』の上位グレード「GT」に装備されたAWSシステム「4CONTROL」も採用。リアタイヤも操舵されることで旋回スピードを極限まで高め、高速走行中にレーンチェンジする際の安定性を確保することができる。ここにラリー車両の技術を応用した「4HCC(4輪ハイドロリックコンプレッションコントロール)」を加えることで、快適さも両立した。
ブレーキは『メガーヌR.S.トロフィー』専用となる複合素材の軽量タイプ。一輪あたり1.8kgのバネ下ダイエットと高い放熱効果によって、長時間のハードな走行も可能となった。ブレーキディスクを咥え込むブレンボ製キャリパーにはレッドのカラーリングが施されている。
組み合わされるタイヤ・ホイールは、245/35R19のブリヂストン・ポテンザS001に、レッドのラインが入ったダイヤモンドカット仕上げの19インチホイールだ。
ボディカラーには『メガーヌR.S.トロフィー』専用のリキッドイエローを採用
ボディカラーにはR.S.系のイメージカラーであるイエローを採用。ただし、従来のR.S.系は「ジョンシリウスメタリック」だったが、『メガーヌR.S.トロフィー』は反射効果によってボディラインを強調するような「リキッドイエロー」と呼ばれる新色だ。さらに専用仕様としてF1スタイルの「トロフィーストライプ」が配され、『メガーヌR.S.』との差別化をはかった。
インテリアでは、オプション扱いとなる専用のレカロシートを装備。シートのデザインは先代を踏襲しているが、シートベースは安全性が向上し、ポジションも20mm下げられ、よりレーシーなドライビングを体感できるようになった。また、リクライニング機構は連続可変するタイプになり、細かくベストなシートポジションを設定することが可能となっている。
レカロシートを含むトリムはアルカンターラ仕上げだ。高級感があり耐摩耗性に優れるだけではなく、軽量化にも貢献するので、ラップタイムを削り取るための重要な要素となっている。
まもなくワールドプレミア。最大の注目点はニュルの“FF車最速記録”の奪取
『メガーヌR.S.トロフィー』の開発には、ルノースポールF1チームのドライバー、ニコ・ヒュルケンベルクが参加した。そのニコいわく「パワーとタイヤグリップ、ブレーキの耐久性、そしてあたらしいシートも素晴らしい感触」。どうやらその仕上がりは万全のようである。
ワールドプレミアは2018年秋から冬を予定。したがって、日本導入や価格のアナウンスはもう少し先になるが、日本はR.S.系モデルが好調な市場だ。いずれ上陸するのは間違いない。
なによりも注目は、『シビック タイプR』が持つニュルブルクリンク北コースの7分43秒80という市販FF車最速タイムを上回ることができるかどうか。ルノーの発表を待ちたい。
Text by Taichi Akasaka
Photo by (C) Renault
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)