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第13回 | トヨタの最新車デザイン・性能情報をお届け

86 TRDエディション──頭文字Dの魂を受け継ぐMY2019

正式名称は「Toyota Racing Development(トヨタ レーシング デベロップメント)」。「TRD」はその名の通り、トヨタのワークスファクトリーとしてモータスポーツに参戦して、レース活動で培った技術を生かしたトヨタ車用のチューニングパーツの製作と販売を行うブランドだ。米国トヨタ販売が発表した北米向け『86』の2019年モデルでは、そのブランド名を冠した限定モデルがライナップされた。『86 TRD Special Edition(スペシャル エディション)』である。

「ハチロク」から『86』へ。開発コンセプトは『頭文字D』のパンダトレノ

『86』が「ハチロク」をオマージュした車名であることは、今さら語るまでもないだろう。カタカナの「ハチロク」は、トヨタ『カローラレビン』『スプリンタートレノ』の共通車両型式番号である「AE86型」から名付けられた愛称だ。

「AE86型」が販売されていたのは1983年から1987年。意外かもしれないが、スポーツカーとして人気が出始めたのは販売終了後である。新モデルがFFとなったことから、軽量なFRスポーツカーとしての価値が再認識された。当時からドリキン(ドリフトキング)の異名を持つプロレーサー、土屋圭一氏が絶賛したこともあり、ドリフト族からの人気も高かった。

人気を決定的にしたのが、1995年に連載が始まったしげの秀一の漫画『頭文字D(イニシアルD)』だ。主人公・藤原拓海が操るマシンは、AE86型『スプリンタートレノ』。白黒のツートンカラーから“パンダトレノ”とも呼ばれ、カラーリングを真似するファンも多かった。

トヨタのホームページにある「良くある質問」には、車名の由来が掲載してある。それによると、『86』は、「AE86型カローラレビン・スプリンタートレノ(通称ハチロク)のように、お客様に愛され、育てていただきたいという想いから命名」とある。

それ以外にも、「比較的求めやすい価格でスポーティーな走りが楽しめる」「2.0Lエンジンでターボなどのパワー頼らない、ハイテク技術に頼らない」「FRでMTモデルがある」など、純粋に運転が楽しめ、いじることもできることも、かつての「ハチロク」を彷彿とさせたようだ。それゆえ、2012年のデビュー当時は、「ハチロクの復活」として大きな話題となった。

『86 TRD スペシャル エディション』はTRDが手がけるコンプリートカー

『86』はデビュー以来、フルモデルチェンジしておらず、イヤーモデルでマイナーチェンジを繰り返している。『86 TRD スペシャル エディション』も2019年モデルだ。

もともと走る楽しさを追求し、直感的なハンドリングを目指したスポーツカーだけに、TRDとの相性はいい。カスタムパーツも数多く販売しているし、TRDは過去にコンプリートカー(ベースとなる市販車にメーカーがパーツ装着などのチューニングを施したクルマ)の『14R(イチヨンアール)』も発売している。

今回北米で販売される『86 TRD スペシャル エディション』は、この『14R』に近い考え方だろう。2019年モデルの『86』のシャーシ、エンジンなどはそのままに、TRDがパーツを装着してチューニングを施した。

TRDらしさが際立つボディキット…目指すのは完璧なパフォーマンスの『86』

『86 TRD スペシャル エディション』のテーマは「完璧なパフォーマンスの86」。足回りやエクステリアに、ブレンボ製ブレーキ、ザックス製ダンパー、ミシュラン製スポーツタイヤ「Pilot Sport 4」、TRD製ボディキット&エグゾーストなどを装備する。

特にTRDらしさが現れるのが、ボディキットだ。「TRD」バッジが付いたフロントリップ、サイドスカート、リアディフューザー、リアスポイラー、専用の18インチアルミホイールを装着。Raven(レイヴン=ワタリガラス)ブラックのボディ側面に施された赤、オレンジ、黄色からなるグラフィックは、いうまでもなく伝統的な「TRD」カラーである。

インテリアはブラックをベースにレッドを差し色としたバケットシートが印象的だ。ダッシュボードにはスエード調の生地を採用。公開された写真からは、「TRD」のロゴが刺繍されていることがわかる。

『86 TRD スペシャル エディション』は限定1418台、価格は約360万円

エンジンはチューニングされておらず、従来モデルと同じ。排気量2.0Lの水平対向4気筒エンジンは、最高出力205ps、最大トルク211Nmを発揮する。

現状では日本での発売はアナウンスされていない。北米でのメーカー希望小売価格は3万2420ドル(日本円で約360万円)。1418台限定で販売されるという。

自分の手足のように操る喜びを得られる、質の高いFRライトウェイスポーツは数少なくなってきた。TRDというレースのDNAでパワーアップした『86 TRD スペシャル エディション』は、大人も楽しめる一台になるはず。ぜひ、日本に逆輸入されてほしいものだ。

Text by Tsukasa Sasabayashi
Photo by (C) TOYOTA MOTOR CORPORATION
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

動画はこちら
Toyota 86 オフィシャル動画
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第17回 | トヨタの最新車デザイン・性能情報をお届け

超屈強なフルサイズSUV──トヨタ セコイアTRDプロ

日本の自動車メーカーが作るクルマには「日本では買えない海外専用モデル」というものが存在する。とくにSUVやピックアップトラックには、北米専用モデルが多い。ホンダなら『パイロット』『リッジライン』、日産なら『タイタン』にインフィニティ『QX70』。トヨタのフルサイズSUV『セコイア』も、そのうちの一台だ。この巨大な北米専用SUVに、モータスポーツ直系のチューニングを施した「TRDプロ」が加わった。日本では見ることもその性能を堪能することもできない、アメリカならではフルサイズSUVである。

全長5mの巨大なボディに豪華な装備。トヨタ『セコイア』は北米市場で人気のSUV

アメリカでは、フルサイズSUVを持つことがひとつのステータスになっている。多用途的とは言いがたいスポーツカーと違い、日常からレジャーまで幅広く利用でき、グレードによっては高級セダンに匹敵する乗り心地を実現し、さらに頑丈な車体は回避安全の意味でも頼りがいがあるためだ。VIPやセレブレティも移動にフルサイズSUVを使うことが多い。

フルサイズに明確な基準があるわけではないが、SUVをボディサイズでセグメントしたとき、もっとも大きなクラスを指し、コンパクトやミドルに対して「ラージサイズ」とも呼ばれる。全長は5m以上、全幅は2m以上かそれに近い車両がフルサイズにあたる。

トヨタの北米市場専用モデル『セコイア(Sequoia)』も、『ランドクルーザー200』以上の巨体をもつフルサイズSUVだ。トヨタ・インディアナ工場で製造され、初代は2000年にデビュー。その後、2008年と2018年にフルモデルチェンジを受けた。SUVを名乗っているが、どちらかというと『セコイア』は4WDとしてのヘビーさよりもオンロードでの快適性や利便性を重視したクルマで、充実したインテリアによってプレミアム感を演出している。それがユーザーの嗜好を捉えているのは、好調なセールスを見れば明らかだ。

フルサイズSUVで唯一セカンドシートにスライド機構をもち、じつのところ、それも人気を支えている要素になっている。さらにサードシートのリクライニングやフルフラットも電動(オプション)なので、家族の評判が高くなるのは道理なのだ。このほか、初代から運転席の8ウェイのパワーチルトやスライド式ムーンルーフを標準装備。トライゾーン・オートエアコンも備え、Apple CarPlay、Android Auto、Amazon Alexaにも対応する。もちろんBluetoothハンズフリー電話機能とミュージックストリーミングも可能だ。

しかし、2月にシカゴでお披露目された『セコイアTRDプロ』は、標準仕様とはかなり趣が異なる。その名のとおり、これは「TRD」のバッジを冠するモデルだからだ。

FOX製のショックアブソーバーを搭載。『セコイアTRDプロ』はTRDの最新モデル

TRDは「トヨタ・レーシング・ディベロップメント(Toyota Racing Development)の頭文字だ。トヨタのワークスファクトリースチームとしてレーシングカーを開発し、そこで培った経験や技術を生かしてトヨタ車用にチューニングパーツの製作と販売を行っている。国内外の多くのレースに参戦しているが、近年では『ヴィッツ』(輸出名『ヤリス』)をベースにしたマシンでWRC(世界ラリー選手権)に参戦して注目を集めた。前身は1970年代にさかのぼり、モータースポーツマニアならずともTRDの知名度は非常に高い。

「TRDプロ」は、2014年から北米でトヨタのオフロードモデルにラインナップされているシリーズで、ピックアップトラックの『TUNDRA(タンドラ)』と『TACOMA(タコマ)』、そして日本では『ハイラックスサーフ』としておなじみのSUV『4 Runner(フォー・ランナー)』に設定されている。このTRDプロの最新作が『セコイアTRDプロ』だ。

5.7L V型8気筒ガソリンエンジンを搭載し、トランスミッションは6速AT。55.4kg-mという図太いトルクを発揮し、しかもそのトルクの90%をわずか2200rpmという回転数で得ることができる。加えて、マルチモードの4WDシステム(ほかのグレードではオプション)やロッカブル・トルセン・リミテッド・センターデフ(トルク分配式デフ)を搭載したことで、従来の『セコイア』になかった高い走破性をもつのが特徴のひとつだ。

しかし、もっとも重要なチューニングポイントはサスペンションだろう。オフロード用のショックユニットメーカーとして知られるFOX社のアブソーバーは、アルミ製の本体にインターナル・バイパスを装備し、外力の大きさによって異なる減衰機構が働く。日常の走りでは柔軟に動き、ストローク量に応じて減衰力が高まるのでボトムしにくいのだ。数多くのオフロードコンペで優れた実績を残したメカニズムで、むろん専用にチューニングされている。しかもTRDの厳しい要求に応えるため、前後で異なるユニットが採用された。

「オンとオフ」「シティとカントリー」「マニアとファミリー」をまとめて愉しむSUV

外観で目立つのは、P275/55R20タイヤを装着した20インチx8インチのBBSブラック鍛造アルミホイールと、フィニッシュがブラッククローム仕上げの単管エキゾーストだ。誇らしげに「TRD」のロゴが入れられたフロント下部のスキッドプレートは、もちろんトレイル走行中にフロントサスペンションとオイルパンを保護するのに役立つもの。また、フロントグリルも「TOYOTA」のロゴを配した専用デザインとなっている。

面白いのは、TRDのエンジニアが乗員に配慮し、キャビンの音質を改善するために周波数調整したサウンドキャンセルデバイスを採用したこと。これによって低く心地よいエキゾーストノートを提供するという。走りとは関係ないものの、ぜひ体験したい機能だ。

かつての四輪駆動車愛好者は、それ以外の自動車ユーザーと求めるデザインや装備、機能が明らかに違っていたが、技術の進歩とセンスの変遷はさまざまな境界を取り払おうとしていると感じる。「オンとオフ」「シティとカントリー」「マニアとファミリー」をまとめて愉しもう、というのが『セコイアTRDプロ』の隠れたコンセプトなのかもしれない。

Text by Koji Okamura
Photo by (C) TOYOTA MOTOR CORPORATION.
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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