「ハチロク」から『86』へ。開発コンセプトは『頭文字D』のパンダトレノ
『86』が「ハチロク」をオマージュした車名であることは、今さら語るまでもないだろう。カタカナの「ハチロク」は、トヨタ『カローラレビン』『スプリンタートレノ』の共通車両型式番号である「AE86型」から名付けられた愛称だ。
「AE86型」が販売されていたのは1983年から1987年。意外かもしれないが、スポーツカーとして人気が出始めたのは販売終了後である。新モデルがFFとなったことから、軽量なFRスポーツカーとしての価値が再認識された。当時からドリキン(ドリフトキング)の異名を持つプロレーサー、土屋圭一氏が絶賛したこともあり、ドリフト族からの人気も高かった。
人気を決定的にしたのが、1995年に連載が始まったしげの秀一の漫画『頭文字D(イニシアルD)』だ。主人公・藤原拓海が操るマシンは、AE86型『スプリンタートレノ』。白黒のツートンカラーから“パンダトレノ”とも呼ばれ、カラーリングを真似するファンも多かった。
トヨタのホームページにある「良くある質問」には、車名の由来が掲載してある。それによると、『86』は、「AE86型カローラレビン・スプリンタートレノ(通称ハチロク)のように、お客様に愛され、育てていただきたいという想いから命名」とある。
それ以外にも、「比較的求めやすい価格でスポーティーな走りが楽しめる」「2.0Lエンジンでターボなどのパワー頼らない、ハイテク技術に頼らない」「FRでMTモデルがある」など、純粋に運転が楽しめ、いじることもできることも、かつての「ハチロク」を彷彿とさせたようだ。それゆえ、2012年のデビュー当時は、「ハチロクの復活」として大きな話題となった。
『86 TRD スペシャル エディション』はTRDが手がけるコンプリートカー
『86』はデビュー以来、フルモデルチェンジしておらず、イヤーモデルでマイナーチェンジを繰り返している。『86 TRD スペシャル エディション』も2019年モデルだ。
もともと走る楽しさを追求し、直感的なハンドリングを目指したスポーツカーだけに、TRDとの相性はいい。カスタムパーツも数多く販売しているし、TRDは過去にコンプリートカー(ベースとなる市販車にメーカーがパーツ装着などのチューニングを施したクルマ)の『14R(イチヨンアール)』も発売している。
今回北米で販売される『86 TRD スペシャル エディション』は、この『14R』に近い考え方だろう。2019年モデルの『86』のシャーシ、エンジンなどはそのままに、TRDがパーツを装着してチューニングを施した。
TRDらしさが際立つボディキット…目指すのは完璧なパフォーマンスの『86』
『86 TRD スペシャル エディション』のテーマは「完璧なパフォーマンスの86」。足回りやエクステリアに、ブレンボ製ブレーキ、ザックス製ダンパー、ミシュラン製スポーツタイヤ「Pilot Sport 4」、TRD製ボディキット&エグゾーストなどを装備する。
特にTRDらしさが現れるのが、ボディキットだ。「TRD」バッジが付いたフロントリップ、サイドスカート、リアディフューザー、リアスポイラー、専用の18インチアルミホイールを装着。Raven(レイヴン=ワタリガラス)ブラックのボディ側面に施された赤、オレンジ、黄色からなるグラフィックは、いうまでもなく伝統的な「TRD」カラーである。
インテリアはブラックをベースにレッドを差し色としたバケットシートが印象的だ。ダッシュボードにはスエード調の生地を採用。公開された写真からは、「TRD」のロゴが刺繍されていることがわかる。
『86 TRD スペシャル エディション』は限定1418台、価格は約360万円
エンジンはチューニングされておらず、従来モデルと同じ。排気量2.0Lの水平対向4気筒エンジンは、最高出力205ps、最大トルク211Nmを発揮する。
現状では日本での発売はアナウンスされていない。北米でのメーカー希望小売価格は3万2420ドル(日本円で約360万円)。1418台限定で販売されるという。
自分の手足のように操る喜びを得られる、質の高いFRライトウェイスポーツは数少なくなってきた。TRDというレースのDNAでパワーアップした『86 TRD スペシャル エディション』は、大人も楽しめる一台になるはず。ぜひ、日本に逆輸入されてほしいものだ。
Text by Tsukasa Sasabayashi
Photo by (C) TOYOTA MOTOR CORPORATION
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)