ユル・ブリンナーやギリシャの海運王が愛用した“屋根なしチンクエチェント”
新型を意味する「NUOVA(ヌォーヴァ)」をモデル名のアタマにつけた2代目フィアット『500』が誕生したのは1957年。その翌年の1958年に登場したのが、車両からルーフとドアを取り払い、籐製のシートを装着したビーチカー『500スピアジーナ』だ(下のモノクロの写真)。
ジョリーという愛称を持つこのクルマは、地中海の高級リゾート地で贅沢なバカンスを愉しむセレブたちの“Dolce Vita(甘い生活)”を支える名脇役となり、同時にフィアット『500』の可能性を広げる伝説的な一台となった。たとえば、俳優のユル・ブリンナーや、海運王として知られた実業家のアリストテレス・オナシスもジョリーを愛用していたひとりである。
今回発表された2つのスピアジーナは、もちろん往時のジョリーをインスパイアしたもの。とりわけ『スピアジーナ・バイ・ガレージイタリア』は、『500スピアジーナ』を彷彿とさせるユニークなボディを持ち、まさに“現代版スピアジーナ”といった趣だ。
シャワー付きコンパートメントを装備する現代版の“ジョリー スピアジーナ”
当時の『500スピアジーナ』はトリノに本拠を置くカロッツェリア・ギアがデザインを担当したが、『スピアジーナ・バイ・ガレージイタリア』は、ピニンファリーナとフィアット創始者の血を引くラポ・エルカンのカロッツェリア、ガレージ・イタリアの手によるものだ。
最大の特徴は「ルーフがないこと」だが、よく見るとリヤシートもない。後席スペースは、なんとシャワー付きのコンパートメントになっている。さらにFOGLIZZO製防水レザーのフロントシートはベンチタイプ。これこそジョリーを現代風に再定義したビーチカーのカタチなのだ。
通常はAピラーとフロントウィンドウを残しているが、視界を遮るものを取り払い、よりオープンエアを愉しみたければ、Aピラーを短縮して昔ながらの小さなウインドデフレクターを装着することも可能だ。安全確保のためのアーチ型ロールバーには、白いペイントが施されている。
まるでワンオフのショーモデルのように見えるが、驚いたことに、このクルマは生産予定モデルなのだという。ただし、ガレージ・イタリアによって一台一台がハンドメイドで仕上げられるため、少量生産となるようだ。ちなみに、1958年当時の『500スピアジーナ』は、通常モデルの2倍以上の価格だった。
ジョリーの世界観を現代風に味つけした量産型タイプの『500スピアジーナ』
もう一台は、『500』のコンバーチブルタイプ『500C』をベースに、フィアットがジョリーの雰囲気を織り込んだ『500スピアジーナ ’58エディション』。こちらのほうが手も届きやすいだろう。
ボディカラーは、『500』らしくポップで、海が似合いそうな「ブルーヴォラーレ」。そこにベージュのソフトトップ、ヴィンテージスタイルの16インチアルミホイール、エクステリアクロームパックやホワイトのウエストレースなどをコーディネートしている。
「FIAT」のエンブレムは『500スピアジーナ』の雰囲気を引き立てるヴィンテージタイプ。インテリアにはボディ同色のパネルを装着し、シートはグレーとアイボリーの2トーンを採用した。ステアリングの中心に鎮座するエンブレムも、もちろんヴィンテージタイプだ。なお、エンジンは最高出力69psの1.2L直列4気筒のみとなっている。
『500スピアジーナ ’58エディション』の生産は、登場年にちなみ限定1958台
『500スピアジーナ ’58エディション』は「フィアット500コレクション」のひとつとして仕立てられたモデルだ。ファッションブランドとコラボした『500 by Gucci』や『500 by DIESEL』、高級ヨットブランドとコラボした『500 Riva』(日本未導入)などに続く限定モデルとなる。
限定台数は『500スピアジーナ』の登場年にちなんだ1958台。現段階で国内導入のアナウンスはないが、『500』の限定モデルのなかでもニーズはかなり高そうだ。
『スピアジーナ・バイ・ガレージイタリア』、そして『500スピアジーナ ’58エディション』は、いずれも古き良き時代のセレブのバカンス気分が味わえる一台である。現代に甦った2つのジョリーは、往時を知らない者でもワクワクさせてくれそうだ。
Text by Muneyoshi Kitani
Photo by (C) FCA Italy S.p.A.
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)