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第63回 | メルセデス・ベンツの最新車デザイン・性能情報をお届け

190Eの夢再び──メルセデス・ベンツ Aクラスセダン

メルセデス・ベンツの最小セダンと聞くと、多くの人は『Cクラス』を思い浮かべる。しかし、それも今は昔だ。1980年代に一世を風靡した『190E』を祖とする『Cクラス』も、年を追うごとにサイズアップが図られ、コンパクトとはいえないサイズとなった。では、メルセデスのコンパクトセダンに乗りたい人は何を選べばいいか。その答えとなるのが『Aクラス セダン』である。「Hey、メルセデス」と呼びかければシステムが起動する「インテリジェントボイスコントロール」を採用するなど、次世代のコンパクトセダンにふさわしい一台の登場だ。

『CLAクーペ』とは趣が異なるメルセデス・ベンツ本流のコンパクトセダン

『Aクラス』はメルセデス・ベンツのボトムレンジを担い、エントリーモデルに位置づけられている。これまでラインナップされていたのは5ドアのハッチバックで、セダンは存在しなかった。そういう意味では、『Aクラス』の4ドアセダンはありそうでなかった一台といえる。

クルマに詳しい人なら、「これまでも『CLAクーペ』があったじゃないか」と思うかもしれない。しかし、こちらはセダンのエレガンスさや居住性を追求したクルマではなく、流麗なスタイリングを重視した4ドアクーペ。セダンの王道スタイルとは趣の異なるモデルなのである。

日本ではコンパクトカー=ハッチバックのイメージが強いが、世界ではコンパクトセダンへのニーズは高い。アウディは『A3セダン』をラインナップし、BMWも中国で『1シリーズセダン』を展開している。『Aクラスセダン』は、この市場に打って出るための布石でもあるのだ。

『Aクラス セダン』はプレデター・フェイス…最新のデザイントレンドを纏う

ベースとなったのはハッチバックの『Aクラス』。それも2018年2月に発表されたばかりの新世代モデル(日本未発表)であるから、当然、『Aクラス セダン』のスタイリングやメカニズムは最新鋭のものとなっている。

新世代メルセデスを象徴するひとつが新型『CLS』をダウンサイジングしたかのようなフロントマスク。これはメルセデスが「プレデター・フェイス」と呼ぶブランドのデザイントレンドだ。

サイドのキャラクターラインはシンプルにまとめられ、これも新しいメルセデスに共通する意匠となるようだ。そこへコンパクトなノッチ(トランクルーム)が自然に組み合わされることで、『Aクラス セダン』は完成する。

このスタイリングは空力性能に優れており、0.22というCd値(空気抵抗係数)は、全世界の市販モデルのなかでもっとも低い値だという。ホイールベースはハッチバックと同じ2729mmだが、ボディサイズは全長4549mm×全幅1796mm×全高1446mmと、ハッチバックより130mm長くなっている。

「Hey、メルセデス」。AIを用いた最新のコミュニケーションシステムを搭載

しかし、より“次世代”が詰まっているのは、エクステリアよりもインテリアのほうだろう。ハッチバックと同様に、インストルメントパネルには旧来のメータフードはなく、10.25インチのディスプレイが2つ並べられ、「MBUX(メルセデス・ベンツ ユーザーエクスペリエンス)」と呼ばれるAIを用いた新しいマルチメディアシステムが採用された。

MBUXは、「Hey、メルセデス」と呼びかけるとシステムが起動し、コンピュータとの対話形式によってナビゲーションやエアコンなど各種の操作を行うことができる。Amazon Echoに「アレクサ」と、Google Homeに「OK、グーグル」と呼びかけるのと同じ感覚で使えるコミュニケーションシステムだ。

もちろん、先進の運転支援システムも搭載される。たとえば、ナビゲーションの地図データを用いた部分自動運転システム、低速で移動する車両、歩行者、サイクリストを検知する「アクティブ・ブレーキ・アシスト」、車線逸脱をステアリングの脈動振動によって運転手に警告し、逸脱時には車両を車線に戻す「アクティブレーンキープアシスト」等々。これらは『Sクラス』と同様のもので、小さいからといってセーフティに手を抜かないのは、さすがメルセデスだ。

室内空間もセグメント最高レベルを追求している。レッグスペースは944mmと比較的ゆとりがあり、ラゲッジルームの容量は420L。ラゲッジの開口部には950mmの幅を持たせた。

『Aクラス セダン』の本国発売は2018年末から。日本での価格は300万円?

現時点で発表されているパワートレインは、最高出力163hp、最大トルク250Nmの1.3L直4ガソリンターボ「A200」、最高出力116hp、最大トルク260Nmの1.4L直4ディーゼルターボ「A180d」の2種類。いずれも7速デュアルクラッチ「7G-DCT」が組み合わされる。

『Aクラス セダン』は、2018年秋に実車がお披露目され、年末からドイツ本国をはじめ各国で順次発売されるという。日本に導入されるのは、2019年の春から夏となるだろう。現行の『CLAクーペ』が404万円から、ハッチバックの新型『Aクラス』が298万円からとなっていることを考えると、『Aクラス セダン』は300万円がスタート価格となるかもしれない。

メインターゲットは初めてメルセデス・ベンツを手にする若者層。これまでもメルセデス・ベンツではコンパクトモデル群が新たな顧客層を創り出してきたので、この戦略は当然だ。とはいえ、『Aクラス セダン』は、大型サルーンやプレミアムSUVを所有する大人の男がセカンドカーとして乗っても映えるクルマである。次世代コンパクトメルセデスの上陸を待ちたい。

動画はこちら
Hey Mercedes:MBUX voice control オフィシャル動画
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第77回 | メルセデス・ベンツの最新車デザイン・性能情報をお届け

エンスー垂涎の納屋物──メルセデス300SLガルウィング

ヒストリックカーの世界には、「バーン・ファウンド(Barn Found)」と呼ばれるジャンルが存在する。バーンは「納屋」、ファウンドは「見つかった」。つまり、納屋で見つかった古いクルマという意味だ。いわゆる「納屋モノ」。2年前の夏、岐阜県の納屋から発掘された1969年のフェラーリ『365GTB/4“デイトナ”』がオークションで高値落札され、世界中で大きなニュースとなったのは記憶に新しい。そして今年3月、やはり納屋で見つかった古いメルセデス・ベンツが、フロリダ州で開催されたコンクール・デレガンスに登場して注目を集めた。朽ち果てた姿で会場に展示されたそのクルマは、1954年に製造された『300SL“ガルウィング”』。名車中の名車とうたわれる、コレクター垂涎の一台である。

亡き石原裕次郎も愛車にしていたメルセデス・ベンツの名車『300SL“ガルウィング”』

『SLクラス』の「SL」は、ドイツ語でライトウェイトスポーツを意味する「Sport Leicht (シュポルト・ライヒト)」の頭文字からとったものだ。メルセデス・ベンツがラインナップする2シーターオープンカーの最高峰に位置づけられている。その初代モデルとなったのが『300SL』である。1954年のニューヨークモーターショーでデビューした。

通称は“ガルウィング”。特徴のひとつであるガルウィングドアに由来する。『300SL』はワークスレーサーのプロトタイプとして開発されたモデルで、当時のレーシングカーと同じ鋼管スペースフレーム構造をもっていた。それゆえに、ドアの下半分をフレームが通っており、また、開口部の敷居が高いうえに車高が低くて非常に乗り降りがしづらい。こうしたことから、やむを得ずガルウィングが採用されたというエピソードが残っている。

世界初の直噴エンジン搭載車としても知られ、車名の「300」はメルセデス・ベンツの排気量表記で3.0Lを意味する。直列6気筒エンジンは最高出力215psを発生し、最高速度は260km/h。当初は市販予定がなかったが、有力インポーターが北米市場に需要があるとメルセデス・ベンツを説得し、わずか1400台が生産・販売された。そのうちの一台は、あの昭和の大スター、石原裕次郎の愛車となり、現在も北海道小樽市の石原裕次郎記念館に展示されている。その『300SL』が、ご覧のような姿で納屋から発見されたのだ。

半世紀以上もガレージでホコリをかぶっていたが、ほぼオリジナルに近い状態を保持

シャシーナンバー「43」の『300SL』は、2018年末にフロリダ州のとあるガレージで見つかった。発掘したのはドイツ・シュツットガルト郊外に専用施設をもつ「メルセデス・ベンツ クラシックセンター」。同社のヒストリックカーのレストアのほか、レストア済み車両の販売も行う。施設内には真っ赤なボディカラーの『300SL』も展示されている。

この『300SL』は1954年にマイアミ在住のオーナーに出荷された個体で、走行距離計が示しているのは、たったの3万5000kmだ。Englebert社製のCompetition(コンペティション)タイヤにはまだ空気が少し残っていたという。車両自体もほぼ出荷時のままで、ボディパネル、ライト類、ガラスパーツ、グレーのレザーシート、ステアリングホイール、インテリアトリム、パワートレイン、ホイールにいたるまでオリジナルを保持している。

注目してほしいのは、「フロリダ植民400年」を記念した1965年のリアのナンバープレートだ。これを見ると、持ち主は少なくとも1954年から1965年までクルマを所有していたことがわかる。つまり半世紀以上を納屋で過ごしていた可能性が高いのである。

フロリダの国際コンクール・デレガンスには連番シャシーの二台の『300SL』が登場

ボロボロの『300SL』は発見したクラシックセンターの手にわたり、フロリダ州の高級リゾート地、アメリア・アイランドで毎年開催される「アメリア・アイランド・コンクール・デレガンス」(今年は3月7日から10日)にて旧車ファンたちにお披露目された。

その隣に並んでいたのは、見事に修復された鮮やかなブルーの『300SL』。驚いたのは、この個体のシャシーナンバーが「44」だったことだ。そう、納屋で発見された『300SL』の次に生産された個体なのである。『300SL』のような希少なヒストリックカーが連続するシャシーナンバーでコンクール・デレガンスに登場するのはかなりレアな出来事だろう。

『300SL“ガルウィング”』はメルセデス・ベンツのなかでも名車中の名車として知られ、自動車コレクターなら必ず所有したい一台といわれている。その価値は現在も上昇し続けているほどだ。そういう意味では、なんとも貴重で贅沢な光景といえるのではないか。

Text by Kenzo Maya
Photo by (C) Daimler AG
Edit by Takeshi Sogabe(Seidansha)

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