オーバーロード 骨の親子の旅路   作:エクレア・エクレール・エイクレアー
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「怪しい商人?」

「はい。土地が余っているようなので貸し出してくれないかと。どうもエ・ランテルではなく王都から来た商人のようでして、何故こんな辺境の村に来たのかがわからなくてですね……」

 

 冒険者になってからしばらくして、村長に相談された。王都の役人やエ・ランテルの商人が来るならわかるが、王都から商人が来るのは珍しいのだとか。エ・ランテルでさえ馬車を使ってようやく一日で行ける場所なので、王都となれば余計にかかる。

 ちなみにパンドラとブレインは模擬戦を村の外で行っていた。時にはモモンガが召喚した死の騎士だったり天使だったりと戦っているが、基本的にはパンドラと戦っているらしい。

 

「ちなみに何を植えるつもりなんです?土地を貸してほしい商人となれば、農作物でしょう?トブの大森林の近くで放牧をするわけでもないでしょうし」

「医療に使う薬草だと聞いたのですが……。これがその種です。ただ、そういうことであれば王の印が入っている証書と共に持ってくると思ったので怪しくて。何故か契約金もかなりの額ですし」

「なるほど。それはたしかに怪しいですね。魔法で調べてみます」

 

 受け取った黒い種に鑑識魔法を用いる。その結果を知って、モモンガは震えてしまった。このことを村長が相談しに来てくれて良かったとすら思える。

 

「……村長。これを持ってきた商人は今どうしていますか?」

「急いでいないからとエ・ランテルへ行かれました。後日また来られると」

「そうですか。……村長、これは頑固として受けてはいけない。麻薬です」

「麻薬!?」

 

 名前まではわからなかったが、麻薬の種だということがわかった。そんなものを契約とはいえ売りつけてくるなんて怪しさしかない。

 

「王国で流行っている麻薬をご存知ないですか?おそらくこれはその一種でしょう」

「王都の方で流行っていると聞いたこともありますが……。モモン殿、つまりこれを作らせようとしているということは」

「犯罪組織でしょう。麻薬は売れます。それも富裕層に。中毒性がありますからね。これを帝国に売りつけて国力を落とすつもりなら国策としてするでしょうし。……後日、その者たちが来たら教えてください。問い質します」

 

 これは村への攻撃と変わらない。この村に攻撃を仕掛けてきた者には容赦は要らない。それがモモンガたちの信条だ。

 パンドラとブレインにも報告して一時冒険者稼業は休むことにした。そんなことをしている暇はないからだ。

 後日、のこのこと来た連中を全員捕らえ、記憶を覗くことで犯罪者たちが八本指と呼ばれる王国に巣食う犯罪者集団で、やはり真っ当な組織ではないと把握した。八本指はかなり有名な組織で、ブレインからも情報を仕入れて犯罪者たちはエ・ランテルの冒険者組合へと突き出した。

 報復がある可能性も考慮して組合長へと当分冒険者稼業を休むことを通達。事情を汲んでくれた組合長は快く許可してくれた。それまでに数々の依頼をこなして貢献していたということもあったが。

 そして実際に報復に来た六腕とかいう三人もあっけなく倒した。ブレイン含めて三人の敵ではなかった。本人たち曰くそれぞれがアダマンタイト級冒険者クラスの実力の持ち主と述べていたが、正直ハムスターの方が強かったと思う。

 このことからモモンガたちのチーム「黒銀」は白金級からミスリルへ昇格。エ・ランテル最高の冒険者チームとして名を馳せることになる。

 

 

「で、今度は王都からの使者ということですか」

「ええ。王国戦士長が来られるそうです」

「ああ、ガゼフとかいう……」

 ミスリルに昇格してすぐのこと。今度はガゼフが来ることを村長に伝えられた。法国の特殊部隊が襲いに来た時以来になる。

 村長の話だと、先日のお礼参りと八本指のことを調査するために来るのだという。前半はともかく、後半は本来王国の戦力たるガゼフがやる内容ではなかったが、カルネ村に恩があるガゼフが向かうのが良いという判断を第三王女がしてその結果派遣されたということをモモンガたちは知らない。

 モモンガたちもただガゼフを待つのは暇だったので、モモンガはエ・ランテルの冒険者組合に行って王都へ行くかもしれないことを伝える。パンドラと話し合って、おそらく王都へ召喚されることになるだろうと言われたからだ。

 組合長に相談したら、確実に王都に行くことになるだろうと言われた。それほど八本指というのは王国に巣食う病魔らしい。その組織に対する対策を立てるためか褒賞を与えるためかはわからないが、王都には行かなくてはならないとのこと。

 冒険者が政治と密接に関わるのはどうなのかと相談したら本当はいけないことだが、褒賞を貰う分には問題ないらしい。ただ、政治は今派閥争いが起きているために褒賞を受け取ったらすぐに帰ってくるのが賢明だとも言われる。

 カルネ村からそこまで長く離れるつもりもなかったので、最初からそのつもりだった。

 カルネ村に帰ると、戦士団一行が到着していたらしく、エンリが教えてくれた。村長の家に行くと、村長とガゼフだけで話し合っていた。

「おお、モモン殿!ご健勝でなによりだ」

「ガゼフ殿も変わらずなによりです」

 こういう男なのだろうと、モモンガはあまり気に留めないようにしていた。ガゼフのことをブレインから聞いたため、何より恩義を感じた人物にお礼を言い、尊敬の念を抱くのだとか。

 つまりあの時は村人の安否を本人たちと分かち合うよりも、村を救ったモモンガたちに感謝の意を賞しようとしただけとのこと。

 今の地位に取り上げてくれた国王に感謝しており、平民出身だから国の代表のように人民の安否を労わることができなかったのだろうと。

 もっとも王国の上層部は腐っているため、たとえ貴族でもそういうことはできないだろうと。精々がほんの一握りの貴族と王族だけだろうということ。帝国ならそんなことないんだけどな、というブレインの呟きを思い出しながら応対する。

 そこから三人で八本指がやってきた時のことを説明する。魔法を使ってわかったことはぼかして、麻薬だと分かったのは知識ということにしておいた。

 口を割らせたのも魔法ではなく尋問によってとだけ。

「なるほど……。わかった。今後もそういった怪しい者が現れたら王印がされている証書を確認してください。それがなければ犯罪者なので」

「わかりました」

(その王印を偽造している可能性は考慮しないのか?)

 そう思ったモモンガだが、文官でもないガゼフにそこまで求めるのは酷なのだろう。モモンガは営業職として働いてきたからそういう詐欺の手口などにも応対してきたので思いついたが、それは後で村長に伝えることにして今は流す。

「それと冒険者チーム『黒銀』には陛下から直接の褒賞を与えるとのことで我々に同行して王都に来ていただきたいのだが」

「三人全員でしょうか」

「ああ。特に第三王女殿下が三人に直接会いたいと申されてな」

「第三王女が?」

 賢い王女だということは知っているが、そこまで熱心に思われるほど何かをしただろうかと考え込むモモンガ。王都は興味がなさすぎて調べるということすらしていなかったため、人伝えでしか王都のことも王族のことも知らなかった。

 結局行くしかないのだから、会うことになるのだろう。その時に考えることにする。

「わかりました。出発は明日の朝でいいのですか?」

「ああ、それでいい。村長殿。近くで野営しますがよろしいですかな?」

「構いませんとも。空き家がないのは申し訳ない」

 あの事件の後空き家がかなりの数できてしまったのだが、そのほとんどを再利用してしまっている。倉庫だったり、物見やぐらの材料にしたり、柵にしたり。いくらトブの大森林が近くにあるからといって大量に木を切ってしまえば自然環境が変わってしまうということで、森からは必要最低限の木しか代伐しなかった。

 その分空きスペースはかなりあるので、今回来た戦士団くらいなら簡単に野営できる。

「そうだ。お二方に伝えなければならないことがある。この村を襲撃したのは法国だと陛下には伝えたが、その証拠を私が提示できないばかりに交渉が難航している。私や部下だけの発言では証拠として弱すぎるためだろう」

「ああ。誰一人として捕えていませんからね。我々でも撃退するのが関の山でしたし。たしかに証拠がない。偽装した鎧では不十分でしたか?」

「偽装されたものだという証拠はあっても、誰が偽装したのかまではあいにくと。法国とあまり国交がないために向こうの技術もよくわからないため、証拠不十分だ」

 魔法でどうにかできないかと考えても、第三位階でエリートだったことを思い出してモモンガはその考えを破棄した。マジックアイテムだったり、巻物を使えば作成者などが割り出せるが、そこまで親身になる理由がない。

「賠償金などなくてもこの村は大丈夫でしょう。むしろ税などの緩和の方がこちらとしては気になりますが」

「そう。その件で第三王女殿下が話したいそうだ。法にはないが、被害者の声を聴いて法に反映させたいと」

「ほう」

 やはり優秀な王女なのかもしれない。民意を汲み取ろうとする王族など珍しいだろう。民主主義ですら民意が通るということは珍しいのに。

「徴兵の方も陛下が免除してくれると仰っていた。被害を受けてそこから兵など出せないだろうと」

「それは助かります。少しは立て直しできているとはいえ、人手不足は変わりませんから」

 村長が明らかにほっとしていた。色々とマジックアイテムや魔法でモモンガたちも手伝っているとはいえ、人が足りないのは事実。大分改良されているとはいえ、残っている畑は多い。

 モモンガたちに農作業の知識がないことも関係している。リアルでは合成食品ばかりで、ちゃんとした野菜すらまともに見たことがない。そんな人間に農業の知恵があるかと言われたら、趣味で勉強していない限りあるわけがない。

 何をどうすれば効率的なのか、などわからないのだ。ナザリックの図書館であればそういった類の書物もあったかもしれないが、今はないので意味がない。

「見違えました。ところで村の外にいた天使はモモン殿が呼び出したのか?」

「いいえ。あれは村娘が呼び出したものですよ。彼女には才能があったのでしょう」

「そ、そうなのか……」

 モモンガはマジックアイテムをエンリにあげただけ。そこからは本当に何もしていない。だがガゼフからしたら、自分より数段強い天使を数体召喚しているその村娘に畏怖を抱いた。

 この村は下手したら世界で一番防衛力があるのではないかと。なにせ法国の天使よりも強い天使がずっと防衛をしているのだから。

 

 


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